15 / 111
一章 汝等ここに入るもの、一切の望みを捨てよ。
さよならは寂しい言葉。だからまたねと言って別れる
しおりを挟む
困惑。今のステラの状態を表すならそうだろう。
慈悲をかけてあげた。
こんな自分を友達と呼んでくれて心配してくれた相手だから。
だが、その相手は、今自分の前に立ち塞がっている。
優しさだということはわかっているのだ。レベッカが先程見捨てないと宣言したように、レベッカの優しさでステラを殺戮の道ではなく、普通の道に戻そうとしていることは。
「なんで、見捨てないの?」
見捨てればいいのに。手放せば楽なのに。
「なんで、それをしないの?」
「だって、ステラは友達だから。お父さんやお母さんの行動で、嫌な目にあったかもしれない。けど、それ以上にステラには幸せになってほしいから」
「見捨てれば、楽なのに?」
ステラは楽な方の道を提示する。
人間は無意識的に自分にとって楽な方を選ぶようになっている。これは意識しないと治らないもの。この直面でレベッカはきっと楽な方を選ぶ。
「私は、私の心にとって一番楽な方を選ぶから」
肉体的にではなく、精神的に。
「見捨てたら、いいのに………」
ステラはレベッカに静かにナイフを向ける。
「これで、心臓を一突きされるだけで、人は簡単に死ぬんだよ。私の気が変わらないうちに逃げた方が………」
「私の意見は変わらない。私は、ステラを見捨てたりしないから」
ステラのどんな行動にもレベッカは臆せず立ち向かう。
「一緒に行こう。一緒に生きてみよう。この理不尽な世界の中にも、まだ希望があるんだって私は信じてるから!」
この日、ステラに会ってからずっと笑わなかったレベッカが今、笑みを浮かべる。
目の前の人を、安心させようとする。そういう笑みだ。
「ステラ………」
静かに名前を呼ぶ。
レベッカの悪足掻きはここまで。あとは、ステラの判断に任せる。そういうことなのだろう。
「殺した、のに………」
「それを今口に出すってことは、ステラが悪いことをしたって自覚してるからだと思う。だから、まだステラは改心できるよ。それに、ステラにはまだ人を思いやる心が残ってるから」
ステラはその目から静かに涙が溢れる。
「うぅぅ………」
ステラの【選別領域】が解除されたのをレベッカは肌で感じ取った。
「ね?ステラ」
レベッカはステラのそばまで歩み寄って、その場にしゃがみこむ。
「レベッカ………」
「なに?」
「もしここで、私がステラの事を斬り裂いたらどうするつもりだったの?」
レベッカはその考えに至っておらず、「あっ」と声を漏らした。
「やっぱり、レベッカってどこか抜けてるね」
そう言いながら立ち上がったステラの顔には、ほんのりと笑みが浮かんでいた。
まだ小さな、笑みが。
「抜けてるって………そんなことないと思うけどなぁ」
「そんなことあるよ。さっきのが私じゃなかったら、レベッカ殺されてたよ?」
ステラは悪戯的な笑みを浮かべながらそんな事を言う。
「じょ、冗談だよね?」
笑えない冗談に、レベッカの顔は引き攣るが、ステラはレベッカのいる方とは反対側を向きながら「さあね?」と言うだけだ。
そしてステラが振り向いた瞬間
「レベッカ!」
ステラが急にレベッカを引き寄せ、背中を突き飛ばした。
「うぐっ」
レベッカは鈍い音を鳴らせながら地面に倒れた。
「もう、ステラ。いきなり何するの?」
もしかしたら衛兵が来たのかも。
だが、それにしては急にステラが突き飛ばすのもおかしいし、衛兵がなにも言わないのもおかしい。そう思いながら目を開いた。
だが、そこには拘束されていないステラの身体もあり、人の姿はなかった。
だが、ステラの身体には、首から上がなかった。
「ステ、ラ………?」
ステラは背を向けた状態で首から上を無くしていた。
「なん、で?」
頭が動かない。思考が、止まる。だが、そんな中でもレベッカは静かに首を上げて
「あっ………」
涎を垂らしながらレベッカを見下ろしてくる獣の姿を見た。
『gugyaaaaa!!』
獣が、見ていた。
慈悲をかけてあげた。
こんな自分を友達と呼んでくれて心配してくれた相手だから。
だが、その相手は、今自分の前に立ち塞がっている。
優しさだということはわかっているのだ。レベッカが先程見捨てないと宣言したように、レベッカの優しさでステラを殺戮の道ではなく、普通の道に戻そうとしていることは。
「なんで、見捨てないの?」
見捨てればいいのに。手放せば楽なのに。
「なんで、それをしないの?」
「だって、ステラは友達だから。お父さんやお母さんの行動で、嫌な目にあったかもしれない。けど、それ以上にステラには幸せになってほしいから」
「見捨てれば、楽なのに?」
ステラは楽な方の道を提示する。
人間は無意識的に自分にとって楽な方を選ぶようになっている。これは意識しないと治らないもの。この直面でレベッカはきっと楽な方を選ぶ。
「私は、私の心にとって一番楽な方を選ぶから」
肉体的にではなく、精神的に。
「見捨てたら、いいのに………」
ステラはレベッカに静かにナイフを向ける。
「これで、心臓を一突きされるだけで、人は簡単に死ぬんだよ。私の気が変わらないうちに逃げた方が………」
「私の意見は変わらない。私は、ステラを見捨てたりしないから」
ステラのどんな行動にもレベッカは臆せず立ち向かう。
「一緒に行こう。一緒に生きてみよう。この理不尽な世界の中にも、まだ希望があるんだって私は信じてるから!」
この日、ステラに会ってからずっと笑わなかったレベッカが今、笑みを浮かべる。
目の前の人を、安心させようとする。そういう笑みだ。
「ステラ………」
静かに名前を呼ぶ。
レベッカの悪足掻きはここまで。あとは、ステラの判断に任せる。そういうことなのだろう。
「殺した、のに………」
「それを今口に出すってことは、ステラが悪いことをしたって自覚してるからだと思う。だから、まだステラは改心できるよ。それに、ステラにはまだ人を思いやる心が残ってるから」
ステラはその目から静かに涙が溢れる。
「うぅぅ………」
ステラの【選別領域】が解除されたのをレベッカは肌で感じ取った。
「ね?ステラ」
レベッカはステラのそばまで歩み寄って、その場にしゃがみこむ。
「レベッカ………」
「なに?」
「もしここで、私がステラの事を斬り裂いたらどうするつもりだったの?」
レベッカはその考えに至っておらず、「あっ」と声を漏らした。
「やっぱり、レベッカってどこか抜けてるね」
そう言いながら立ち上がったステラの顔には、ほんのりと笑みが浮かんでいた。
まだ小さな、笑みが。
「抜けてるって………そんなことないと思うけどなぁ」
「そんなことあるよ。さっきのが私じゃなかったら、レベッカ殺されてたよ?」
ステラは悪戯的な笑みを浮かべながらそんな事を言う。
「じょ、冗談だよね?」
笑えない冗談に、レベッカの顔は引き攣るが、ステラはレベッカのいる方とは反対側を向きながら「さあね?」と言うだけだ。
そしてステラが振り向いた瞬間
「レベッカ!」
ステラが急にレベッカを引き寄せ、背中を突き飛ばした。
「うぐっ」
レベッカは鈍い音を鳴らせながら地面に倒れた。
「もう、ステラ。いきなり何するの?」
もしかしたら衛兵が来たのかも。
だが、それにしては急にステラが突き飛ばすのもおかしいし、衛兵がなにも言わないのもおかしい。そう思いながら目を開いた。
だが、そこには拘束されていないステラの身体もあり、人の姿はなかった。
だが、ステラの身体には、首から上がなかった。
「ステ、ラ………?」
ステラは背を向けた状態で首から上を無くしていた。
「なん、で?」
頭が動かない。思考が、止まる。だが、そんな中でもレベッカは静かに首を上げて
「あっ………」
涎を垂らしながらレベッカを見下ろしてくる獣の姿を見た。
『gugyaaaaa!!』
獣が、見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる