家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

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一章 汝等ここに入るもの、一切の望みを捨てよ。

さよならは寂しい言葉。だからまたねと言って別れる

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 困惑。今のステラの状態を表すならそうだろう。
 慈悲をかけてあげた。
 こんな自分を友達と呼んでくれて心配してくれた相手だから。

 だが、その相手は、今自分の前に立ち塞がっている。

 優しさだということはわかっているのだ。レベッカが先程見捨てないと宣言したように、レベッカの優しさでステラを殺戮の道ではなく、普通の道に戻そうとしていることは。

「なんで、見捨てないの?」

 見捨てればいいのに。手放せば楽なのに。

「なんで、それをしないの?」

「だって、ステラは友達だから。お父さんやお母さんの行動で、嫌な目にあったかもしれない。けど、それ以上にステラには幸せになってほしいから」

「見捨てれば、楽なのに?」

 ステラは楽な方の道を提示する。
 人間は無意識的に自分にとって楽な方を選ぶようになっている。これは意識しないと治らないもの。この直面でレベッカはきっと楽な方を選ぶ。

「私は、私の心にとって一番楽な方を選ぶから」

 肉体的にではなく、精神的に。

「見捨てたら、いいのに………」

 ステラはレベッカに静かにナイフを向ける。

「これで、心臓を一突きされるだけで、人は簡単に死ぬんだよ。私の気が変わらないうちに逃げた方が………」

「私の意見は変わらない。私は、ステラを見捨てたりしないから」

 ステラのどんな行動にもレベッカは臆せず立ち向かう。

「一緒に行こう。一緒に生きてみよう。この理不尽な世界の中にも、まだ希望があるんだって私は信じてるから!」

 この日、ステラに会ってからずっと笑わなかったレベッカが今、笑みを浮かべる。
 目の前の人を、安心させようとする。そういう笑みだ。

「ステラ………」

 静かに名前を呼ぶ。
 レベッカの悪足掻きはここまで。あとは、ステラの判断に任せる。そういうことなのだろう。

「殺した、のに………」

「それを今口に出すってことは、ステラが悪いことをしたって自覚してるからだと思う。だから、まだステラは改心できるよ。それに、ステラにはまだ人を思いやる心が残ってるから」

 ステラはその目から静かに涙が溢れる。

「うぅぅ………」

 ステラの【選別領域】が解除されたのをレベッカは肌で感じ取った。

「ね?ステラ」

 レベッカはステラのそばまで歩み寄って、その場にしゃがみこむ。

「レベッカ………」

「なに?」

「もしここで、私がステラの事を斬り裂いたらどうするつもりだったの?」

 レベッカはその考えに至っておらず、「あっ」と声を漏らした。

「やっぱり、レベッカってどこか抜けてるね」

 そう言いながら立ち上がったステラの顔には、ほんのりと笑みが浮かんでいた。
 まだ小さな、笑みが。

「抜けてるって………そんなことないと思うけどなぁ」

「そんなことあるよ。さっきのが私じゃなかったら、レベッカ殺されてたよ?」

 ステラは悪戯的な笑みを浮かべながらそんな事を言う。

「じょ、冗談だよね?」

 笑えない冗談に、レベッカの顔は引き攣るが、ステラはレベッカのいる方とは反対側を向きながら「さあね?」と言うだけだ。

 そしてステラが振り向いた瞬間

「レベッカ!」

 ステラが急にレベッカを引き寄せ、背中を突き飛ばした。

「うぐっ」

 レベッカは鈍い音を鳴らせながら地面に倒れた。

「もう、ステラ。いきなり何するの?」

 もしかしたら衛兵が来たのかも。
 だが、それにしては急にステラが突き飛ばすのもおかしいし、衛兵がなにも言わないのもおかしい。そう思いながら目を開いた。

 だが、そこには拘束されていないステラの身体もあり、人の姿はなかった。

 だが、ステラの身体には、首から上がなかった。

「ステ、ラ………?」

 ステラは背を向けた状態で首から上を無くしていた。

「なん、で?」

 頭が動かない。思考が、止まる。だが、そんな中でもレベッカは静かに首を上げて

「あっ………」

 涎を垂らしながらレベッカを見下ろしてくる獣の姿を見た。

『gugyaaaaa!!』

 獣が、見ていた。
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