家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

二章 しかし、概して人々が運命と呼ぶものは、大半が自分の愚行にすぎない。

絶対に変えられないものが、ここにある！

「………家族を虐げるって、どういうことですか？」

　ナイルのその言葉に、ルルアリアは微塵も動揺しない。
　当たり前だ。なぜならルルアリアはレベッカのことを家族だなんて思っていないからだ。
　意味がわからない。そう言いたげなルルアリアにも、ナイルは冷静に見ているだけだった。

「ナイル、さん………？」

　レベッカには、今のナイルの行動の意味がわからず、疑問を抱き抱えている状態だ。

「私は、家族を虐めるなんて、そんな非道な行いはしていません」

　ルルアリアとしては、ナイルに好印象を持ってもらいたい。そう思っての台詞だったのであろう。
　だが、ナイルには真逆の印象を持たれることになる。

「では、レベッカ様は家族では無い、と？」

「はい。当たり前でしょう？誰が疫病神のことを家族だなんて思いますか？」

　はっきりと言われた疫病神という言葉。その言葉にレベッカは思わず下を向いてしまう。

「さあ、こんな疫病神のことなんて気にせず、ご一緒に………」

　そんな呑気なルルアリアの横をナイルは素通りした。
　そうしてレベッカの前まで歩くと、ルルアリアに向かって振り返った。

「僕は、絆というのは大切なものだと思うのです」

　急に発せられたその言葉の意味がわからず、ルルアリアははぁ？という表情を浮かべている。

「それがたとえ災厄を齎すものだとしても、家族だけはその子を疑ってはいけない。そう思うんです」

　あなたは違うのですか？と、ナイルはルルアリアに問いかける。

「災厄を齎すとしても、家族と思う？それは無理な相談ね。どこまで行っても、疫病神には変わりはない。そんな子、いない方がマシよ」

　ルルアリアの言葉にレベッカは傷つくが、ルルアリアはそれを無視してナイルの横に立つ。

「そんな子よりも、私の方が美しいと思わないの？」

　ルルアリアは余裕ぶった笑みを浮かべるが、

「思いませんね。それに、もう喋らない方がいいですよ。性格ブスが顔に出てしまいますから」

　ま、もう出てますが。と、そういったナイルにルルアリアは憤慨する。

「なによ。ちょっと家柄が良くて、顔がいいからって………」

「家柄がいいのは、親が、先祖が齎してくれた恩恵です。決して僕の力ではない。それを振りかざすような愚かな真似はしないつもりです」

　その台詞を聞いて、ルルアリアはナイルの横を通り過ぎた。

「いつか、後悔するわよ」

　そんな台詞を置いていきながら。

「えっと、ナイルさん」

　先程から同じような言葉しか発していないな。そんなことを考えながら、ナイルはレベッカに向き合った。

「えっと、謝った方が………」

「いいえ、謝りません。間違ったことを言ったつもりもありません」

「実家に、ダメージが………」

「あの程度の令嬢に嫌われるくらい、なんの問題もありませんよ」

　問題無し。そう言い切るナイルに、レベッカは素直にすごいなと思ってしまった。

「レベッカ様は、あの方といつもあんな感じで？」

「えっと、はい………」

　本当は、殴る蹴るといった暴力行為もされているのだが、今は言わない。

「僕が思うに、あちらの思い込みは相当激しいみたいですね」

　ナイルは苦笑しながら言ってくるが、笑い話ではない。

「どうすれば、いいんだろう………」

　きっと、帰ったら今回の件でまた虐められる。そう思った。

「話し合ってみては、どうでしょう？」

「話し合い？」

「ええ。お二人の関係が良い方向に前進するためにも、まずはコミュニケーションをとる事が大切です。話し合わなければ、なにも始まらない」

　そうかもしれない。だけど、ルルアリアはレベッカの話なんて………

「まぁ、これはただのお節介ですよ」

　そう言いながらナイルは離れようとする。

「えっと、どこへ？」

「僕がここにいたら、気まずいでしょ？」

　そう言ってナイルは離れていってしまった。