家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

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3章 逆境は真実へと至る最初の道筋である。

そんなあなたに絶望を

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「………え?」

 アイトが放った言葉の意味を、レベッカはすぐには理解できなかった。
 アイトは今、なんと言った?絶望してほしいと、そう言った?
 なぜ?どうして?そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
 理由なんて思いつくはずがなく、その場で硬直することしかレベッカには出来なかった。
 だが、レベッカが理解する暇も与えずにアイトの話しは進んでいく。

「絶望、してほしかったのです。レベッカが悲しむ顔を、苦しむ顔を、憎悪する顔を、誰よりも傍で見たかったのです」

「だから、私の傍に………?」

「はい。あなたの傍にいれば、誰にも怪しまれることなく、色々と根回しできるので」

 根回しできる。つまり、

「あの、状況は………」

「はい。僕が作り出した舞台ですね」

 これにもアイトはアッサリと答えた。つまり、アイトにとってレベッカも他の人たちも操り人形でしかなく、全てアイトの手のひらの上で踊っていただけなのだ。

「じ、じゃあ、なんで、死んだの?」

 なぜ、一度死んだのか。なぜ、一度レベッカから離れたのか。

「それは簡単ですよ」

 どうしても解けない疑問にもアイトはその邪悪な笑みを浮かべ、

「そうすればあなたはもっと僕を楽しませて愉悦させてくれるから」

 至極あっさりと、それが当たり前とも言うべき解答をした。

「あなたから離れた理由はそれです。状況は、いつも見てましたから」

 そう言うと、アイトは指をパチン!と鳴らす。するとアイトの周りに鳥が召喚された。

「これは………」

「僕と視覚を共有している鳥たちです。彼らに手伝ってもらい、あなたの様子は逐一確認していました」

 なるほど、ならばアイトは無理に行動する理由がない。

「上手いものでしょう?特に死の偽装は最初は苦労しただけあって完全に、本当に死んだように見えるので」

 吐き気がしてきたレベッカは、口元を抑える。
 その様子をアイトは愉快そうに見つめる。

「楽しかったですよ。何度も苦労しましたが、漸く望んだ結末に辿り着けそうな気がします」

 もう、レベッカの耳にはアイトの言葉も禄に入ってこなかった。

「いいんですよ恨めば。恨んで恨んで、僕を殺しにくるくらいの気概を見せてください」

 レベッカは立っていられず、その場に座り込んでしまう。

「アイト、は………」

「ん?」

 この状況でも、聞きたいことがあるレベッカはなんとか声を振り絞って聞く。

「私のことが、嫌いだった?」

 その質問を聞いて、アイトの表情が一瞬歪む。

「私と一緒にいるのは、嫌だった?楽しく、なかった?」

 その質問に、アイトは一瞬悲しそうな表情をするが、すぐに笑みを浮かべて。

「そうですね。僕は、あなたに情を抱くことはない。清々しますね。あなたの傍から離れることができて」

 その言葉を聞いて、繋ぎ止めていたレベッカの心は崩壊する。

「なんで?」

 壊れたレベッカの口から声が発せられる。

「ずっと一緒にいてくれるって、言ってくれたのに」

 約束したのに。その約束は既に一度違え、そしてまた壊されそうになっている。

「なんでなの?」

 レベッカからドス黒いオーラが湧き出してくる。

「嘘つき、嘘つき━━━━ずっと信じてたのに………」

 そしてドス黒いオーラはやがて実体化し、巨大な剣になる。

「嘘つき!!!!!!!!!!!!」

 その言葉と同時に、その刃はアイトに向かって下ろされた。

「すみません………」

 アイトは申し訳なさそうな声を出しながらその剣を綺麗に受け流す。
 だが、そんなものでは終わらなく、無数の剣が創られ、アイトに向かって降り注ぐ。

 次から次へと襲いかかる剣は、しかしアイトの腕が霞むたびに寸断され、宙を舞い、消滅していく。

「やはり、こうなりますね………」

 その半ば予想していた現実にもアイトは冷静に対処し続ける。
 アイトは一本の剣を取り出すと、その剣に黒いオーラを纏わせ、振るう。

 アイトの剣から解き放たれた暴風が、無遠慮にレベッカを吹き飛ばす。

「ああああああああぁぁぁAAAAAaaaaaaaa。アイト、アイト、アイト━━━━」

「すみません。本当は、別の手段を見つけたかったのですが………」

 アイトは持っていた剣に黒いオーラを纏わせる。だが、アイトが纏った黒は、レベッカの様な憎悪を連想させるような濁った黒ではなく、どこまでも広がる闇のような綺麗な黒だった。

「━━━━━ああああああああぁぁぁ!!」

「僕はもう、誰にも負ける訳にはいかないんです」

 そして、雷鳴が響き渡る。剣から発せられた斬撃は、災禍を纏う黒から、全ての穢れを浄化する白へと変貌し、その斬撃は接触したありとあらゆるものを消滅させた。

「あっ………」

 それはレベッカも例外ではなく、斬撃の軌道上にいたレベッカはドス黒いオーラで相殺したものの、精神力が尽き果ててしまい、その場で倒れてしまった。

 その一連の流れにアイトは静かに驚愕する。
 今の攻撃は本来、回避も、防御も、反撃も許さぬ最強の一撃。それを防ぎきったのだ。

「想像以上、ですね………」

 本当に、強くなったと感心する。

「もしかしたら、今までで一番、かもしれませんね」

 だが、もし今のレベッカが過去のレベッカよりも強かったとしても、

「僕はもう、止まる訳にはいかないんです」

 そうしてアイトはレベッカに背を向けたが、

「これを渡しておきます」

 奥の籠の中から通信用の魔導具を取り出してレベッカの持っているカバンの中に入れる。

「もう、二度と会うことはないかもしれませんが………」

 もし会うことがあれば。そういう思いから渡したアイトは、レベッカを外に転移させた。
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