家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

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3章 逆境は真実へと至る最初の道筋である。

目を背けたい現実を直視して

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 夢の世界が崩壊して、レベッカは目が覚めた。

「う、う~ん………」

 起き上がると、レベッカの身体はベッドに寝かされていて、すぐそばにはチノとルルアリアも床で眠っていた。

「二人とも!」

 レベッカが近寄って体を揺すると、二人はすぐに目を覚ました。

「フィアラ、無事だったんだね………」

「迷惑かけすぎよ」

 無事に目を覚ました二人にレベッカは内心ホッとする。
 夢の中とはいえ、アイトの攻撃をマトモに喰らったのだ。重症でもおかしくはなかった。

「それで?ここからどうするのかしら?」

 ルルアリアのどうするのか。その意味を噛み締めながらもう一度しっかりと目を見ながら言う。

「散々迷惑かけて、厚顔無恥にも程があると思う。でも、お願い。力を貸して!」

 それは今のレベッカの嘘偽りのない本心であった。

「私は、アイトともう一度話さなくちゃいけない。アイトのやりたい事も目的も、なにもわからないけど、それでも、私は止まる訳にはいかないから」

 でも、

「私ひとりじゃ無理だから。だから、力を貸してください」

 そう言ってレベッカはルルアリアに向かって頭を下げる。

「私が、ここからあんたの首を切るとか思わなかったの?」

「本当にそれが目的なら、夢からすぐに脱出すると思うし、なによりできないと思うから」

 実力的にも。心理的にも。

「言うようになったわね」

 ルルアリアは静かにレベッカを睨みながら言う。

「アイトを止めるなら、当たり前だけどアイトと戦うことになる。あいつは本気よ………あいつの覚悟をあんたが簡単に崩せるの?」

「簡単にはいかないと思うよ。安易にできるって言えない。でも、負けない。だって、アイトがどんなに強い思いを抱いていても、私の思いがそれに劣ってることは無いから」

 確固たる自信でレベッカはルルアリアに言い放つ。

「2人とも、落ち着いて、ね?」

 チノは少しオロオロしながらヒートアップする二人を宥める。チノが仲介したことにより、少し深呼吸をした二人は再度見つめ合う。

「あんたに見せたいものがあるの。来なさい」

 そう言って、ルルアリアは一階に降りていく。

「あんた、この家に大きい鏡とかない?」

「レッスン室にあります」

「じゃあ、案内しなさい」

「………何様ですか?」

 だが、この場では無理に逆らわない方がいいとわかるので、チノは大人しく二人をレッスン室に入れる。

「お茶の準備でもしてますね」

 居心地が悪くなったチノは、そう言って部屋から離れていった。

「鏡?」

「そう。あんたは私の恩恵ギフトについてある程度理解してるでしょ?」

 それはそうだ。アイトから、最低限は聞いていたから。
 ルルアリアの恩恵ギフトは、鏡を使って自分そっくりな分身体を創り出したり、平行世界を覗き見たりする能力だ。

「私は、あんたと最後に別れたあと、ずっと考えてたわ。あのアイトがそんな簡単に死ぬのかって。お父様を倒すのに手こずる人にアイトは簡単に殺せないってね」

 だから、別の世界を覗いた、と。

「そしたら驚いたわ。世界によって結末が違うもの」

 その言葉の意味をレベッカはわからなかった。

「えっと?」

「その次は、アイトを起点に平行世界を調べてみると、面白いことがわかったの」

 ルルアリアはレベッカに振り向いてから言った。

「アイトね、この世界を何度もやり直してるの」

「やり直してる?」

「そう。最初の世界はなんの力も持たないアイトがあんたに助けられて、あんたが事故死したことで終わってる」

 そこから、何度も世界をやり直してる。

「アイトは、あんたに心底惚れてるわ。私が保証する。だから、あんたが死なない世界を望んだの」

 だからこその今なのだろう。

「私が確認しただけで既に1210回はやり直していて、そしてその先も続いている。つまり、この世界は何万とやり直したアイトの創り出した世界の一つってこと」

 それが事実だとしたら、自分はなんなのだろうかと思ってしまう。

「でも、あんたの性格だけはどの世界でも大差なかったわ。そこだけは、アイトと気遣ってたのね」

 逆を言えば、それ以外は疎かにしていたのだが。

「あいつはあんたが生き残る世界を見つけ出すまで何度でもやり直す。あんたに、その執念を覆すことはできる?」

 挑発的な言葉だが、レベッカの心は変わらない。

「できる。そう、信じてるから」

 レベッカの言葉を聞いて、呆れながらもため息を吐くルルアリア。
 すると、持ってきていた鞄の中から水晶を取り出した。

「これは………?」

「あんたも見覚えがあるでしょ?恩恵ギフトを診断する水晶よ。あんたの恩恵ギフトを診断しておきなさい」

「え?でも………」

 レベッカの恩恵ギフトは呪われたもののはずだ。そう思ったのだが、

「少なくとも、私が見た1210回の中ではあんたの恩恵ギフトは呪われてなかったし、今のと全然違ってた。それに、悪魔の子の話しも存在していなかった」

 つまり、あれもこれもアイトが創り出したり偽りの出来事だったのだ。

「あんたの力よ。確かめなさい」

 そうして、レベッカは水晶に手を触れた。


■■■


 レベッカは鞄の中に入っていた通信用魔導具に触れる。
 一緒に入っていたメモの通りに番号を入力して魔力を流し、通信を起動する。
 しばらくすると、魔導具が、相手の魔導具に繋がった。

「あ、アイト?」

 レベッカは呼びかけるが、アイトは反応しなかった。

「アイト、私ね、もう決めたから」

 返事をしないアイトを無視してレベッカは話し続ける。

「たとえそれがアイトの願いを踏みにじるものだとしても、決めたから。私はもう、諦めたくないの」

 アイトの息遣いが聞こえる。そうして決心を決めたレベッカは魔導具の向こうにいるアイトに向かって言った。

「ねぇ、明日。デートしない?」
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