元ッ気があればッ何でも出来るッ!行くぞぁー! 特異『無限元気』で無限に元気ッ!元気ですかァー!

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変わる世界と特異

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    あの日世界は変わった。

 そして俺はその辺で拾った棒を持ってダンジョンの前に立つ。世界が変貌してからたったの3日だ。

 それは突然に訪れた、らしい。正確には俺はそれを知らない。なんせその瞬間には俺は死ぬ寸前だったんだから。
 今から3日前、俺がまさに息を引き取ろうとしていたあの時、世界の全ての場所で地震が起こった。それが合図だった。
 地震の揺れと同時に目の前の全てが目まぐるしく姿を変えたそうだ。空も大地も、草花も、多くの物が姿を変え、現実を塗り替えて行った。そして揺れが収まる頃には世界のほぼ全てが変わってしまった、と考えられている。つまり誰にも分からないって事だ。

 何が変わったのか?まだ変わってから時間がそれほど経っていない今じゃ分からない事も多い。その分かっている事の中で、とりわけ俺達が生きて行くのに重要な3つ。1つ目は世界中に無数のダンジョンや塔が現れた事。今まで何も無かった場所に突如現れたダンジョン。そしてその周りの地形も変わり、ダンジョンの中からは見たことも無い様な数の魔物が溢れ出した。
 2つ目はダンジョンから現れた魔物はとんでもなく好戦的で、次々と人間を襲い、さらには魔法を使う魔物まで現れた。今までも魔物を狩る人々はいた。だが今は我々人間が狩られる側になってしまったのかも知れない。
 そして3つ目、【特異】。全ての人々には何かひとつ、【特異】と呼ばれる特殊な力が備わった。それは強い腕力であったり、魔法の様な手から火を出す様な力であったり、人それぞれの能力が与えられた。それはその人が最も持っていない能力が与えられたらしい。ガリ勉タイプの人には腕力が、勉強嫌いな蛮人には知恵が。何とも意地悪な決め方にも聞こえるが、もしかしたら心の奥底で、自分には無い、1番欲しいものが与えられたのかも知れない。つまり無い物ねだりが叶った訳だ。

 何故そんなに詳しい事が分かってるのか?それは教えてくれた人がいたからなんだそうだ。その日その時、全ての人の脳に直接語りかける声、その声は自らを『ヴィシュヌでありリリィステア』と名乗った。簡単に自分の事を語ったそれは、ヴィシュヌとは数ヶ月前にインドの企業が作った、人類最高のコンピューター、その中に作られたAIの名前だと言ったが、そもそも言っている事のほとんどが理解出来ない。そしてリリィステアはこの世界『エステア』に住む始まりと終わりの女神だ。そしてそのヴィシュヌがこの世界に転生、リリィステアと融合したそうだ。そしてそのなんて呼んでいいか分からない奴がこの世界をこんなにしてしまったらしい。
て言うのを世界が変わった時に説明されたそうなんだけど、如何せんその時俺は半分以上死んでいたから意識が無くて聞いてない。その説明はつい昨日、治療院の人から聞かされた。
じゃあなんでその死にかけていた俺が今こうして元気にしているのか、それは俺に与えられた【特異】が、【無限元気】だったからだ。俺に最も持っていなくて、最も欲しかったもの、それは紛れもなく元気だったからだろう。
 【無限元気】はEP、エナジーポイントってやつの数値が∞になっている。そして最初から持っていたスキルが【不眠不休】と言うのスキルだった。【不眠不休】の効果は『EPを体力に変換、またはEPを消費して睡眠、空腹、精神虚弱の数値を減らす事が出来る』と言うものだった。それの何がどう作用したのか分からないが、俺の病気は消えて無くなり、健康な体を手に入れる事が出来た。
 俺の病気が治ったのが特異の影響だと思ったのは【無限元気】がどんな特異なのかを知ったからだ。じゃあなぜそれを知る事が出来たのか?それはステータスと呼ばれる物が見れたからだ。ステータスとは自分の能力を数値化、文章化された物であり、頭の中でステータスが見たいと考えると、目の前に半透明な枠が現れそこに必要な情報が記されている。しかしステータスは自分自身のステータスしか見れず、さらに割とざっくりとしか書かれていない。ステータスには体力や筋力、俊敏などの項目があり、それぞれ数字が書かれている。ちなみに俺はほとんどが1~2、それが多いのか少ないのかは他の人と比べられないから分からないけど、絶対低いだろ。そりゃ死ぬ寸前だったんだから。その辺の説明も俺が死にかけている時にあったらしい。

 そんなこんなで世界は大混乱に陥った。住んでいた家も、店も施設も、そのほとんどが機能を失い、今までの当たり前が全て奪われてしまった。
 そして人々はダンジョンを見つけた。それは地下への入口であり、そこから魔物が現れている事に気が付いた。一部の戦いに向いた特異を与えられた勇気ある人々が魔物と戦い、魔物が湧いてくるダンジョンへと向かうべきだと言った。そんな話をぼーっと聞いているさなか、魔物が襲って来た。それはいわゆるスライム、定石通りとても弱い魔物だ。それでもその場にいた人々を恐怖させるには十分だったが、戦いに向いた特異を持つ人達は果敢にもスライムに挑み撃退していた。
 しかし大量に押し寄せたスライムの1匹が俺に襲いかかる。戦うなんて想像もした事が無い俺はスライム相手にもビビり、尻もちを着いたまま地面を後ずさった。ぷよぷよと距離を詰めるスライム。その時俺の右手に当たる物があった。見るとそれは棍棒よりふた周りほども小さな木の棒。長過ぎず、太過ぎず、俺でも振り回せそうな棒だった。俺はその棒を手に、無我夢中でスライムに殴りかかった。何度も何度も叩き付けるうちに、気が付いたらスライムは潰れ、少し光ったかと思ったら細かな光の粒になって霧散し、わずかに残った光の小さな球が俺の方へ飛んできて、胸に触れた瞬間に消えて無くなった。
 その時思った。俺、戦える、今まで出来なかった事が出来る様になっている。

 そして俺は今、ダンジョンの前に立っている。

「やれるぞ……!やれる!昔いた偉大な英雄が言ってた。元気があれば何でも出来るって!」

 俺は怯える足を引きずってダンジョンの階段を降りて行った。
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