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有能なドロップアイテムその2

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 「あれは……マッスルボア、だったっけ?」

 独り言を言う俺の目線の先には牛よりふた周りほど大きいであろう魔物がいた。噂ではその肉は美味いらしいが、ダンジョンから現れた魔物はどれも倒すと光の粒になってしまうって話だ。なんでだろ?マッスルボアは元々この地域に生息していた魔物だが、ダンジョンから出てきた魔物は外で繁殖した魔物とはそもそも違うものらしい。見た目には変わりが無いため、倒すまでダンジョン産かどうかは分からない訳だ。といった訳で、いくらお腹が空いているとは言えこのマッスルボアは食べる事が出来ない。そもそも料理をする事だって出来ないしね。

「結構強そうだけど……1匹だから何とかなるかな?」

 相手が1匹だけって言うのもあるが、自分がちょっと成長した実感もあるし。なんか勝てそうな気がするんだよな。

「よし、やるか。あっちはまだ気が付いていないみたいだけど、ここは正々堂々」

 忍び寄って不意打ちという選択もあったけど、俺はゆっくりとマッスルボアに歩み寄る。

「モォ?」

 マヌケな声を出してマッスルボアがこちらを向く。そして俺を認識した途端、敵意剥き出しで地面を蹴り始めた。

「やる気だなぁ~!じゃあこっちから行くぞ!」

 俺はマッスルボアよりも先に相手に向かって駆け出す。予想外の行動にマッスルボアは得意の突進を繰り出すタイミングを逃し受け身の体勢を取る。俺は勢いを殺さず、マッスルボアの右横を走り抜けながら剣を横なぎに思いっきり振り抜く。

 ガキンッ!という音とともに剣とマッスルボアの角がぶつかる。激しい音がしたが両者は折れる事も無い。剣を持つ俺の両手は痺れ、マッスルボアの頭は激しく揺れる。ダメージが大きかったのはマッスルボア。たまらず足がよろめく。背後に回った俺はその隙を逃さず体を時計回りに回転し、右手1本で左上から右下へ、マッスルボアの後頭部目掛けて剣を振り下ろす。振り下ろした剣はその刃こぼれとマッスルボアの厚い表皮のせいで僅かに血が流れる程度の傷しか与えられない。しかし叩きつけた衝撃は確実に脳に届き、マッスルボアの体は大きくふらつく。

「おおおーし!!!」

 そこから頭めがけてラッシュを叩き込む。たまらず両前足から崩れ地面に突っ伏す。

「行けぇ!」

 がら空きになった額めがけて両手で渾身の一撃を叩き込む。マッスルボアの頭が縦にバウンドする様に振れ、そのまま横になり静かに地面に倒れる。一瞬の間を開けてマッスルボアの体は光の粒になり、その光が俺の体へと吸い込まれて行った。

「よおぉーし!やったぁ!」

 やっぱり強くなってる俺!

「いいぞいいぞぉ~!」

 気分はかなりルンルン。足取りも軽くダンジョンの奥へと進む。

「お!はっけーん!」

 少し先に俺が探していた物がある事を半透明な枠が教えてくれる。そう、モンスター部屋のトラップだ。
 俺はそのトラップ目掛けて軽くジャンプする。

「いよっし!行くぞぁー!」

 床は光を放った後、例に漏れず下へと滑り落ちる通路になった。そしてしばらく滑り落ちた後、毎度の事ながらしたたかに尻もちをつく。

「いたた……。さてさて……今回は何が出てくるのかな……」

 薄明かりに目を凝らすと何やら大きな影が。そして地面を何度も蹴る音がする。

「あぁー、あれか?その階層にいる魔物が出てくる仕様なのかな?」

 独り言を言い終わるや否や、マッスルボアが突進して来た。



 その後も何度となくモンスター部屋へと落ち、大量の魔物との戦いを堪能した。てかダンジョンって、その階層毎に必ずモンスター部屋のトラップがあるもんなのか?下へと降りる度にモンスター部屋のトラップを見つける事が出来た。そんなこんなでもう地下10階、10個目のトラップだ。

「やっぱりこいつか。そりゃあトラップに落ちる前にもたくさん出くわしたからな」

 目の前には大蛇、それも人間をまるっとひと飲み出来るほどの大きさの奴が何匹もウネウネしてる。こいつらやりにくいんだよなぁー。しかも噛まれると具合悪くなるし。でも勝てない相手では無い。

 そして体感で数日過ぎた辺りでやっとボスが現れた。

「やっぱり最初は時間かかるなぁ~。とりあえずこのマッドスネークとか言うボスを倒さなきゃな」

 そしてそのマッドスネークと戦い続ける事数日、ついに倒した。するとまた何かがドロップした。

「おや?今度は何だ?」

 その床に落ちていたアイテムを拾う。それは黒い色をした細い指輪だった。

『罠師の咎指』

 手に取った指輪の名前だ。説明文を読む。

『トラップのレベルを1つ上げる』

 レベル?1つ上げる?んー、て事はトラップが1段階すごい物になるのか?それとも酷い物になるのか?

「分からん。とにかく使ってみればいいか」

 でももう少しこのモンスター部屋を堪能してからだな。

 て事で10階のモンスター部屋を5周堪能した所で階段を上りモンスター部屋を出た。で、11階へ下りてすぐにまたしてもモンスター部屋のトラップを見つけた。

「よし、あれを試してみよう」

 そう、罠師の咎指を試す時が来た。とは言えどうやって使うんだこれ?
 とりあえず左手の人差し指にはめていた罠師の咎指。トラップの近くへ来ると僅かに光を放つ。

「お?なんか光ったな?」

 良く分からないんで罠師の咎指をはめた左手でトラップに触れてみる。するとさらにもう1つ半透明の枠が浮かび上がる。

『トラップレベルを1上げます』

 さらにもう1つ半透明の枠が出てくる。

『モンスター部屋が転移トラップへとレベルアップしました』

 え?

「あれ?」

 眩しい。急に眩しい。薄暗いダンジョンの中だった視界が急に眩しいぐらい明るくなる。てか触れていたはずの石造りの床が無い。俺の左手の下には砂。少し熱いぐらいに熱を帯びたサラサラの砂があった。その違和感に思わず顔を上げる。すると視界に広がったのは何も無い平地。いや、これは砂漠というやつなのでは?辺りをぐるっと1周見回してみるが、ダンジョンの壁どころか遮る物の1つも見つけられない。

「まじかよ……転移ってこう言う事?」

 一体どこへ飛ばされたんだろう?ダンジョンの外?それともこれ、ダンジョンのさらに下の階なのか?

「困ったな……これはどこへ向かったら……ん?」

 困り果ててキョロキョロしていたら、ずっと向こうに何やら建物っぽい物が見えた。

「とりあえずあそこに向かってみるか」

 その建物を目指して歩き出す。しかし暑いな。
 見えた建物には30分ぐらい歩いてたどり着いた。そこまで遠くなくて助かったよ。

「やっぱりここ、ダンジョンだ」

 その小さな建物は砂と同じ色のレンガの様な物で作られた小屋で、その中には下へと続く階段があった。俺は躊躇無くその階段を下りる。
 下りた先はまたしても砂漠。だが今度は建物がたくさんあった。雰囲気としては人が住まなくなった廃墟の様だ。振り返り下りてきた階段を見てみると何とも不思議な光景だった。

「なんだあれ?建物の屋根の上には何も無いぞ?」

 確かに階段を下りてこの建物まで来たはずだ。てことは下りてきた階段が上の階までつながっていないとおかしい。でも建物には屋根があり、その上には何も無い。もう一度中へ入って階段を下から覗き込む。

「やっぱり上までずっとつながってるよなぁ?」

 まぁダンジョンって不思議な場所だって事だ。深く考えないでおこう。
 気を取り直して俺は階段のある建物を出て廃墟を周る。実際に見た事は無いが、話に聞いた砂漠はこんな感じだと思うし、そこに暮らす人々の生活もこういう感じなんじゃないかと想像した通りの物だ。とは言え全く人の気配を感じない。それどころか人が生活していた痕跡の様な物は見当たらない。なんて言うか、人が暮らす街を真似て再現しただけの様に感じられる。
 しばらくその虚しいだけの街並みを歩いていると、建物の影から人影が飛び出して来た。それは確かに人の形をしていて、右手には湾曲した剣を、左手には丸い鉄製の盾を持っていた。だがそれが人では無いのを証明するかの様に肌は緑で厚い鱗の様な物で覆われ、顔は口が長く前へ突出しており鋭い牙が見える。そして威嚇する様に開けられた口の中には細く長い舌が。

「リザードマン!?」

 俺の声に呼応するかの様に半透明な枠が現れたがその中の文字を読んでる余裕は無い。俺は腰のベルトに無造作に刺していたボロボロの剣を抜き両手で構える。向かってくるリザードマンは3匹、いや3人?どっちでもいいか。
 先頭を走るリザードマンが俺の間合いに入り剣を振り下ろす。俺はそれを横へ飛び躱す。

「……っと!?」

 余裕を持って躱せると思っていたが、地面を蹴る力が思うように体に乗らずスピードが出ない。

「砂か……!」

 足場の悪い場所での戦いがこんなに勝手が違うとは思わなかった。これは中々苦戦させられそうだ。
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