修復スキルで無限魔法!?

lion

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 良く寝た。朝はかなりすっきり目が覚め快調に1日が始まった。朝っぱらからゼニの奴があんなに食うとは思わなかったけどオレも腹いっぱい食べた。トーラさんのお母さんがどんどん料理を出てくるんだもの。結局食べきれなかった分をお弁当として詰めてもらった。トーラさん曰く、こんなに楽しそうなお母さんは久しぶりに見るそうだ。長い事毒に苦しんだんだろうなぁ、それは辛くて歯痒い事だったろう。良く分かるよ。

 オレとトーラさんが家を出る時一緒にゼニも家を出た。てかお前何するんだよ?って聞くと日々の鍛錬を欠かさないという事だった。ものすごく意外。そこはちゃんとしてんだなぁ。

 ゼニと別れてすぐにご近所さんを皮切りに、片っ端からキュアをかけまくった。特に具合が悪そうだったのはお年寄りと小さい子供だった。体内に入った毒の量にもよるんだろうけど、若くて体力がある人は時間はかかるが毒に打ち勝つ事が出来たようだ。とは言え若い人でも毒の量が多ければかなり苦しそうだ。おそらくキュアを1、2回かけた程度では完全に回復する人の方が少なかっただろう。修復スキルさまさまだな。
 大概の人は毒さえ抜けてしまえばすぐに楽になった様だ。毒が抜けてもまだしんどそうだったのはやっぱりお年寄りだ。こればっかりはヒールじゃ治らない。たくさん食べてまだまだゆっくり休まなきゃならなそうだ。でも毒が抜けたらみんな本当に感謝してくれる。中には手を握ってぶんぶん上下に振り回されながら感謝の言葉を浴びせ続けてくれる人も居た。たまたまこんなスキルをもらっただけなんだけどなぁ。

 そうこうしてる内に昼になり、トーラさんのお母さんが作ってくれた大盛りお弁当を食べ午後も回診。順調に進んでいる様に思えたけど、結局今日は治さなきゃならない人の半分程しか治せなかった。

「さすがに今日はこの辺にしておこうよ、トウゴくん。続きは明日でも大丈夫だから」

「そうですね、さすがに疲れました.......」

「うん、じゃあ今日は切り上げて帰って晩ご飯でも食べようか」

「そうしましょう!めっちゃくちゃお腹空いてるんですよぉ!」

 本当にお腹が空いた。こんなに体力を使ったのはいつぶりだろう?それよりも、もっと体力をつけなきゃダメだな。こんなんじゃこの先この世界ではやって行けないぞ。ゼニを見習って体づくりを始めなきゃだな。とは言うものの、今日はかなりの回数スキルを使ったけど、もう限界って感じはまったくしないな?スキルは魔力とは関係無いっぽい。何回使おうが魔力は減ってないみたいだ。まぁ魔力の事なんかまだまだ分からないけど。とりあえず今のところ修復のスキルには回数制限は無いみたいだ。
 とは言えひ弱なオレはもう限界.......。ベッドに入ると気を失う様に眠りに落ちた。

 翌朝、今日も快晴。頬にあたる風は心地よく春先から初夏な感じだ。そう思ってトーラさんに聞くと、確かにもうすぐ夏になる時期らしい。でもこの村の夏はそんなに暑くならず過ごしやすいそうだ。
 トーラさんちを出るまでは昨日と全く同じ調子だった。ゼニは相変わらず鍛錬とか抜かしてるし。何でも昨日は近隣で魔獣を狩って来たらしい。トーラさんのお母さんがたいそう喜んでいたところを見ると、食べるとうまい魔獣なんだろう。それは楽しみだ。で、ふとゼニの背負っていたカゴを見ると中に入ってた武器が少し減っていた。聞くと魔獣を狩る時に折れたりひん曲がったりして使い物にならなくなったから捨ててきたらしい。自然を汚すなよ、お前。って事で今日はもし武器が使い物にならなくなったら持って帰って来いって言っといた。そしたら直してやるって。なぁんか半信半疑の返事だったがとりあえず分かったとは言ってた。大丈夫か?あいつ?頭悪そうだからなぁ。

 今日もゼニと別れ早速具合の悪い人のいる家へ向かう。昨日は村の西側だったらしく今日は東側に向かうと言う事だった。

 2件で2人、順調に治療し終わり3件目へ向かう。

「次は……モト爺さんの所か……」

 トーラさんはなんだか浮かない顔をしている。

「何かあるんですか?」

「いやなに……ちょっと気難しい爺さんなんだ。そして症状もかなり重い。子供たちを逃がすのに1人でコドクグモに立ち向かって酷い怪我を負ってしまって……。自分はもう老い先短い身だから放っておけって言って聞かないんだよ。どうせ死ぬ身に金も食べ物も使う必要無いって」

 そうか……。その気持ちはオレには痛い程分かる。でも違うんだ。何よりこれからオレが治してあげられる。
 知らず知らずのうちにオレの歩く速さが少し速くなっていた。

「あ、ほら、あそこがモト爺さんの家だ」

 トーラさんが指差す先には少し大きめな家が1件。その前には畑と井戸があり、その横に洗濯物が干してある。洗濯物の数からすると大家族の様だ。

「あ!トーラ兄ちゃん!」

 畑のそばで遊んでいた小さな子供が駆け寄ってきた。

「おおーテト!おはよう!モト爺さんいるか?治しに来たぞ!」

「やったあ!昨日みんな治してもらったって言ってたもんね!モト爺ちゃんも良くなる!?」

「ああ、大丈夫さ、な?トウゴくん」

 トーラさんが子供の頭をわしゃわしゃしながら笑顔で返す。

「そうだよ!お兄ちゃんがすぐに治してあげるよ!パパっとあっという間さぁ!」

「やったぁ!」

 ちびっ子がオレに抱きついて来た。これぐらいの子供は文句無しにかわいいなぁ。オレはそのまま子供を抱っこして家の玄関へ。これは1秒でも早く治してあげないと。

「お?なんだよ、トーラさんとトウゴさんじゃん」

 声を掛けて来たのはゼニだった。

「あれ?お前こそ何してんだよ?山の方に行ってたんじゃないのか?」

「それがよぉ~、オレとした事が不覚にも弁当忘れちまってよぉ。まさかこのオレが大事な弁当忘れるとは思わなかったぜ、このオレがだぞ?こりゃあやべぇ」

 どのオレでどんだけやばいか分からないけど、こいつはやばそうだ。

「んで、お前らはこれからこの家に?」

「そうなんだよ。ここのモト爺さんって人の治療に行くんだ」

「ほほぉー。じゃあちょっとお前の活躍ぶりでも見ていくか!」

「いいよめんどくせぇ。なんかめんどくさくなりそうだから遠慮するよ。めんどくさいだろ?」

「なんだよ!ずいぶんめんどくさそうだなお前!人助けをサボるもんじゃねぇぞ!ほら行くぞ!」

 いやめんどくさいのお前なんだけど。
 
「どうもフルマさーん!トーラです!モト爺さんの治療に来ましたー!」

 トーラさんが大声で呼ぶと中からお母さんらしき中年女性がドアを開けた。

「あら!トーラちゃん!待ってたわよ!お義父さん本当に治るの……?あら?あなたが噂の魔法使いさん?」

「あ、いえいえ、正確には魔法使いでは無いんですよ……。でもまぁキュアは使えるんで大丈夫です」

 抱っこしてた子供を静かに降ろすとパタパタと家の中に入っていった。

「じゃあお邪魔しますね。モト爺さんはどこに?」

「奥のおじいちゃんの部屋よ。今日もご機嫌斜めかも知れないわよ……ごめんねぇ」

 案内されオレとトーラさんは家の奥へ。なぜか普通にゼニも付いてくる。
 
「こっちよ。相変わらず外を見ながらムスッとしてるわあ」

 お母さんに案内されてモト爺さんが寝ている部屋に案内された。ドアを開けるとそこにはさっきのちびっ子がベッド脇に座っていた。そしてベッドには明らかに顔色の悪いお年寄りがひとり。確かに体調はすこぶる悪そうだがいかにも厳格な感じの顔立ちで、年老いているがイカつい感じは全開で出ている。こりゃあ頑固そうだ。

「おはようございます、モト爺さん。聞いてると思うけど、その毒の治療に来たよ。こっちのトウゴくんがキュアをかけてくれる。すぐに楽になるさ」

「ふん。別に治してもらう必要なんぞ無い。そもそもこの毒を抜く程の高位な魔法使えるやつなんぞこんな田舎にはおらんだろ。いたとしてもそんな奴に払う金なんぞ無いぞ」

「あ、いや、お金はいらないですよ。あとオレが使えるのはただのキュアなんですが、何回でも使えるんで毒が抜けるまで何回でもかけますから大丈夫ですよ」

 モト爺さんがジロリとオレを見る。めっちゃ機嫌悪そう。

「モト爺さん、この子が今日魔法かけてくれるトウゴくんだ。なぁに、ダメだったらダメで損することは無いだろ?」

「ふん……どうせ後々金を取るつもりなんだろう?もうこんな老いぼれどうなってもいいじゃろう。こんな死にかけに金や食べ物を使うぐらいなら食いぶちが1人減った方がマシじゃわい」

 それを聞いたテトくんが驚いた顔をして涙を目にいっぱいに溜め込んでる。でも何も言わないのはあの子なりに何か考えてるんだろうな。

「分かりますよ、その気持ち。そう考えたくなるのも良く分かりますよ」

 思わず口から出た。

「何を小僧……分かった様な事を……。お前は死んだ事があるのか?」

「まぁ似たような事はありますよ」

「何を言って……。とにかくお前の様な小僧には分かるはずも無い」

「そんな事は無いですよ」

 そう、死ぬ事に関してはオレの方が先輩だ。

「自分が病気で思うように動く事も出来なくて、みんなに迷惑ばっかりかけちゃってて、さらにお金や時間まで費やさせてる。それなのにみんな優しくて、自分の前ではニコニコしてくれる。それがどんどん辛くなって罪悪感を感じてしまうんだ。でも本当は自分が思っている様な事なんじゃないかな、ってオレは思うんですよ」

 モト爺さんは驚いた顔をしてオレを見る。

「ずっとそう思ってても、誰がなんて言ったとしてもなかなか信じられない。それは自分を気遣って言ってるんだと思い込んじゃう。でも、死ぬその時に大切な人たちがみんな悲しそうな顔をして、たくさん泣いてくれるのを見るともしかして勘違いしてたんじゃないかってその時初めて気が付くんだ。もしかしたら大変な思いをしても自分に生きていてほしいんじゃないか?自分が生きている事は大切な人たちの負担や迷惑にしかなってないと思い込んでいたけど、もしかしたらこの人たちの幸せの一部だったんじゃないか?そう思ったら後悔しか無いんです。もっとこうすれば良かった、もっと素直に言葉にすれば良かった、って。でももうその時にはどうにも出来ないんですよ。だって自分はその人たちの前から居なくなってしまうんだから」

 モト爺さんは黙って俯いてしまった。

「じいちゃん……」

 口を開いたのはテトくんだった。

「ボクは……またじいちゃんと魚釣りに行きたいよ……?じいちゃんは行きたくない……?」

 モト爺さんはハッとした顔をしてテトくんを見る。そしてみるみる内に目に涙が溜まっていた。

「そうだな……テト……。すまない……じいちゃん……すまない……」

 ズボンを両手でギュッと握りしめてたテトくんがたまらずモト爺さんのベッドにしがみつき毛布に顔を埋めた。きっと泣いているんだろう。それを見せまいとこの子なりにがんばっているんだろうな。すごく強い子だ。

「テト……じいちゃんが元気になったらまた魚釣りに行こうな。約束だ」

 モト爺さんはテトくんの頭を強く撫で、そしてオレに向き直る。

「トウゴくんと言ったか。無礼な事を言ってしまってすまない。その……治療、頼めるだろうか」

「もちろんですよ、任せてください!」

 断る理由は何一つ無い。このスキルがもらえて本当に良かったなと強く思った。
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