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二話 宿
しおりを挟む飛んでいる間に一帯は夜になっていた。
飛行時間はゆうに六時間に及んだ。
最高記録は七時間半なので、あの高度からならぼちぼちといったところか。
着地する場所を探していると、腕の中の少女、ミルミがやおら口を開く。
「え、と。なんかおかしくないですか? なんでこんなに」
「それは俺の守護霊が鳥だからだよ」
「鳥さん?」
「おう、通常なら限界滞空時間は気流次第だが、やや長いのは霊の加護ってところだ。でもな平時に飛んでも大体これくらいだ。お前飛んだこと無いのか」
「あるように見えますかあ? 私が言いたいのは何でこんなに」
「離れたかって? 国境を越えたのは見たか? さっき俺たちがいたアバランチは隣国のフデリカと同盟関係だ。奴と政府が繋がっているなら必然隣国まで影響力は波及する。いや、しないかもしれない」
目をパチパチして謎を感じていたミルミ。
「いや、さすがにないのでは?たかがシステム制御会社のトップレベルでは」
「ないな。だけど、噂は立つ。ていうか!」
ノーネームの声が大きくなると腕の中、振り向く様な動きがあった。
「俺は慎重派なんだよ! 可能性が僅かでもあるならリスクはとらねえ! さっきすぐに降りずにいたのも、万が一にアンドロイドが待機していたらやべえからだ」
「な、なるほど。いや賢明だと思います! はい!」
インビジブル効果で互いが互いを見えない中でミルミが(多分)両手を合わせて嬉々としていた。
「ま、なんだ。で噂をすればみろ」
「はい! ウルフさん! どこ?」
現代風の高層ビルが立ち並ぶアバランチに比べ途中通過したフデリカは全体的にオールドモダンな街並みで昔の田舎の都市圏を彷彿とさせる。
そして目的のフデリカよりさらにその先は川と山が広がる大自然地区だが、出入り口付近にはある場所に繋がる地下通路がある。
「なあ、さっきも言ったけどとりあえず降ろすのはどこでもいいんだよな?」
するとしばらく悩んでいるのかボーっとしているのかよくわからない間があり、
「あ、はいはい! あの近くじゃなければ。ていうか最悪降ろしてさえいただければ大丈夫ですはい!」
なるほど納得とノーネームは思う。
窮地さえ脱すればいいって事はやはり、此奴は貴族なんだと改めて再認識した。
貴族なら当てがある。助けてくれる使用人や家族がいる。そして貴族なら恐らく秘宝を持っている。
「あの、とは言えちゃんと宿がありそうなとこでお願いしますよ! 海にぼっちゃあ! とかは勘弁ですよ!」
やはりボーっとしてるというかボケているらしい。
ノーネームは更に高度を落として、舗装された道路が大自然に向かって伸びているその手前で不時着した。
降ろすと同時に魂の抜けた様な「はああああああああああ」が聞こえて、何故かノーネームまで肩の力が抜けた。
じゃあ。
はい。
そんな短文のやり取りのあと。
ノーネームと少女ミルミは別れた。
金は受け取らなかった。
元々この護送は殺しの仕事のサービス残業だと思っている。だからきちんと本当の報酬を受けとるのがまず筋だ。
ノーネームは早速、先に言ったとある地下通路への入り口を探した。
ダウンタウンの入り口は日々移動している。
最後の要塞とまで言われ過去の超兵器が山と積まれた人間たちの遺産だ。
負の遺産だが、厳重さは完璧である。
入り口を探すには、まず、入り口があった場所を探す。同じところにまた出現している場合があるからだ。しかし、目当てのマンホールを試しに退かしてみたが、違った。
日はもう暮れている。依頼人のところに行くのはまた明日にするかと、とりあえず近場で宿を探した。
そして1番安いホテルとは名ばかりの蛸部屋の宿と、同じ値段だが民宿を謳いながら良心的で知らない誰かと寝床や風呂が同じになるかもしれない宿を見比べて、後者を選んだ。
「はー、上っ面は汚ねえけどなかは綺麗だな。勘は当たった」
「ありがとうございますねえ。お風呂は銭湯使うか、宿の共同のを使って下さいね。今日は少し混んでるから誰かと一緒になってしまうかもだけど」
「かまわねえ。それで頼む。代金は帰りか?」
二、三やり取りを交わしノーネームは四人部屋に通された。
風呂は共同が嫌なので銭湯を使った。食事がスタッフ不足で、でないので仕方なく近所のスーパーマーケットで西瓜を買って夕飯にした。
「ねえねえ、あそこの人、男じゃない? やだー」
「ほんと、混んでるから仕方ないけどさ、女子部屋に突っ込むとかとんだ田舎民宿だよって」
ノーネームの眉間に皺が寄る。
確かにその通りだが、生憎彼自身も被害者だと、屁もこけずに我慢している事の苦情を言いたかった。
残りの一人も女だろうか。静かなのであまり気にならなかった。
そうしてしばらく眠れない時間が続いて、途中近場でツマミを買いに行く事もあったりして、月が輝く頃には眠りについた。
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