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第3話
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『トラブルが発生しました。危険ですのでPDへは近寄らず、係員の指示に従って速やかに避難して下さい。』
場内アナウンスを聞いてパニックに陥った観客達がバラバラに逃げ惑っている。
PD-105はステージセットの支柱に手を掛け、それをなぎ倒した。
照明が吊るされたセットの骨組みが崩れ落ち、ランプの破片が飛び散る。
会場は人々の悲鳴に包まれた。
崩れたセットの残骸からPD-105が這い出し、再び歩を進め始める。
その先に新谷ろんりが立っていた。
「ろんりさん早く逃げないと、ろんりさん!」
必死に彼女の手を引くマネージャー。しかし、彼女は魂が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。
PD-105がろんりを掴もうとするように手を伸ばす。
その時、MWー303が側面から105を突き飛ばした。
105はバランスを崩し倒れこみそうになるが、寸前で踏ん張り、姿勢を立て直す。
「あの反応速度‥本当に直弥が動かしてるのか?」
予想を超える105の機敏な動きに、冬馬は正直あせった。
PD-105はMWー303に向き直ると、ダッシュで突っ込んできた。
「よし、速度ではかなわないが、向かってくるなら勝ち目はある‥」
一度のチャンスに冬馬は賭けた。
303のコクピットめがけてチョップを入れる105。
それを冬馬は、機体バランスをわざと崩す事で避ける。
倒れながら105を抱え込み、動きを封じる事に成功した。
駄々っ子のように腕をバタつかせ、303のボディを殴る105。しかしボディ剛性は303の方が上だ。
ルーフハッチを開け、身を乗り出す冬馬。
「直弥!聞こえるか、直弥!」
風防ガラス越しに見える直弥は気を失っている。
ポケットを探って携帯を掴み出す冬馬。軽く舌打ちした後、105の風防ガラスに投げ付けた。
「直弥、目を覚ませ!」
カーンと携帯のぶつかる音が響く。
ハッと目を開ける直弥、あわてて操縦レバーを操作する。
「コントロールが利かないっす!」
スピーカーから佐伯の指示が聞こえる。
『緊急停止ボタンよ!』
指示に従ってカバーで守られたボタンを押し割る直弥。
電源が強制切断されたPD-105は、全てのモニターやランプが消え完全に停止した。
その様子を見ていた黒崎迅は震える口でつぶやいた。
「僕のせいじゃない‥対策は完璧だったんだ‥僕は関係ない‥」
* * *
国土交通省事故調査室
事故発生の連絡を受け、室長の佐高は調査官の村主章生を呼んだ。
「村主君、城杜市で開催中のモーターショーでロボットの暴走事故が起きた。明日、現地に飛んでくれ」
「モーターショーで事故!被害者数は?」
「ロボットの運転手が重症、その他は負傷者12人でいずれも軽傷、死亡者はゼロだ」
「待ってください、それは国交省が動く案件ではないのでは?」
「それがそうも行かん。そのロボットは近々一般車両として認可が下りる事になっていてね。国交省としてはこのまま認可していいものかどうか、判断する上で原因をはっきりさせる必要があるんだ」
「そのロボットのメーカーって‥」
「ハヤセモータースのPD-105だ」
「やっぱり‥ハヤセのPDと言ったら経産省肝いりのプロジェクトですよね、何だか微妙な立場になりそうですけど‥」
「取り敢えず3日間の一次調査だ。死者も出てない事だし、気楽にやってくれたまえ」
* * *
翌日、城杜市に向かう新幹線の中
章生は熱心にPDに関する資料を読んでいた。
―PDはパワードドレス(強化衣装)の略で、量産型二足歩行ロボットとしては世界初の人間搭乗を実現している。
スペック
全高:約4メートル、重量:約2.5トン、外装:カーボングラファイト、フレーム:チタン合金、動力源:ネオ燃料電池
開発年表
2015年、自動車メーカーのハヤセモータースが『人間搭乗型二足歩行作業ロボット』の開発を発表。これはPDの先行プロジェクトである。その開発拠点は国内最大の自動車工場がある城杜県城杜市に置かれれた。
2017年、建設現場向けのモーターワーカーシリーズ1号機となるMWー101を発表。
2019年、より人間に近い動きを目指し『人間搭乗型汎用二足歩行ロボット』パワードドレスの開発を発表。同時に国立城杜大学、経済産業省との技術交流も発表され産学官連携プロジェクトが発足された。
2020年、実験機PD-101発表。
2021年、実験機MW-202発表。
2022年、実用化に向けた実証実験の場所として城杜港再開発地区『ポートタウン』の建設現場を使用する事が決定。建設現場内に開発テストチームが置かれる。更に実験機PD-103を発表。
追記:同年、城杜大学主導でPD-103の開発データを参考にしたオンラインゲーム『バトルボッツ』のサービス提供が始まる。
2023年、量産機PD-105開発始動。実験機MW-303発表。
以降、現在まで市販を目指した開発が続けられている。
PDの開発コンセプト
『限界を超えた領域での活動を可能にする高機動ビークル』その意味する所は、高所作業、深海作業、化学工場火災、大規模森林火災、原発の解体さらには宇宙基地建設といった生身の人間にとって危険が伴う場所での作業を安全に行う為のパワーアシスト付き防護服であり移動手段である。
その他の特徴
最新の量子コンピュータを使ったAIを搭載している。これによって、地上建設現場専用のMWシリーズが姿勢制御のみをコンピュータに頼っているのに対し、汎用性を追求するPDシリーズならではの様々なシチュエーションにおける操縦支援のみならず、危険回避行動の自動化も達成している―
「さてと‥事故原因の第一候補は操縦ミスだけど‥システムの暴走ならプログラムのバグもありか‥」
章生はため息まじりに呟いた。
場内アナウンスを聞いてパニックに陥った観客達がバラバラに逃げ惑っている。
PD-105はステージセットの支柱に手を掛け、それをなぎ倒した。
照明が吊るされたセットの骨組みが崩れ落ち、ランプの破片が飛び散る。
会場は人々の悲鳴に包まれた。
崩れたセットの残骸からPD-105が這い出し、再び歩を進め始める。
その先に新谷ろんりが立っていた。
「ろんりさん早く逃げないと、ろんりさん!」
必死に彼女の手を引くマネージャー。しかし、彼女は魂が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。
PD-105がろんりを掴もうとするように手を伸ばす。
その時、MWー303が側面から105を突き飛ばした。
105はバランスを崩し倒れこみそうになるが、寸前で踏ん張り、姿勢を立て直す。
「あの反応速度‥本当に直弥が動かしてるのか?」
予想を超える105の機敏な動きに、冬馬は正直あせった。
PD-105はMWー303に向き直ると、ダッシュで突っ込んできた。
「よし、速度ではかなわないが、向かってくるなら勝ち目はある‥」
一度のチャンスに冬馬は賭けた。
303のコクピットめがけてチョップを入れる105。
それを冬馬は、機体バランスをわざと崩す事で避ける。
倒れながら105を抱え込み、動きを封じる事に成功した。
駄々っ子のように腕をバタつかせ、303のボディを殴る105。しかしボディ剛性は303の方が上だ。
ルーフハッチを開け、身を乗り出す冬馬。
「直弥!聞こえるか、直弥!」
風防ガラス越しに見える直弥は気を失っている。
ポケットを探って携帯を掴み出す冬馬。軽く舌打ちした後、105の風防ガラスに投げ付けた。
「直弥、目を覚ませ!」
カーンと携帯のぶつかる音が響く。
ハッと目を開ける直弥、あわてて操縦レバーを操作する。
「コントロールが利かないっす!」
スピーカーから佐伯の指示が聞こえる。
『緊急停止ボタンよ!』
指示に従ってカバーで守られたボタンを押し割る直弥。
電源が強制切断されたPD-105は、全てのモニターやランプが消え完全に停止した。
その様子を見ていた黒崎迅は震える口でつぶやいた。
「僕のせいじゃない‥対策は完璧だったんだ‥僕は関係ない‥」
* * *
国土交通省事故調査室
事故発生の連絡を受け、室長の佐高は調査官の村主章生を呼んだ。
「村主君、城杜市で開催中のモーターショーでロボットの暴走事故が起きた。明日、現地に飛んでくれ」
「モーターショーで事故!被害者数は?」
「ロボットの運転手が重症、その他は負傷者12人でいずれも軽傷、死亡者はゼロだ」
「待ってください、それは国交省が動く案件ではないのでは?」
「それがそうも行かん。そのロボットは近々一般車両として認可が下りる事になっていてね。国交省としてはこのまま認可していいものかどうか、判断する上で原因をはっきりさせる必要があるんだ」
「そのロボットのメーカーって‥」
「ハヤセモータースのPD-105だ」
「やっぱり‥ハヤセのPDと言ったら経産省肝いりのプロジェクトですよね、何だか微妙な立場になりそうですけど‥」
「取り敢えず3日間の一次調査だ。死者も出てない事だし、気楽にやってくれたまえ」
* * *
翌日、城杜市に向かう新幹線の中
章生は熱心にPDに関する資料を読んでいた。
―PDはパワードドレス(強化衣装)の略で、量産型二足歩行ロボットとしては世界初の人間搭乗を実現している。
スペック
全高:約4メートル、重量:約2.5トン、外装:カーボングラファイト、フレーム:チタン合金、動力源:ネオ燃料電池
開発年表
2015年、自動車メーカーのハヤセモータースが『人間搭乗型二足歩行作業ロボット』の開発を発表。これはPDの先行プロジェクトである。その開発拠点は国内最大の自動車工場がある城杜県城杜市に置かれれた。
2017年、建設現場向けのモーターワーカーシリーズ1号機となるMWー101を発表。
2019年、より人間に近い動きを目指し『人間搭乗型汎用二足歩行ロボット』パワードドレスの開発を発表。同時に国立城杜大学、経済産業省との技術交流も発表され産学官連携プロジェクトが発足された。
2020年、実験機PD-101発表。
2021年、実験機MW-202発表。
2022年、実用化に向けた実証実験の場所として城杜港再開発地区『ポートタウン』の建設現場を使用する事が決定。建設現場内に開発テストチームが置かれる。更に実験機PD-103を発表。
追記:同年、城杜大学主導でPD-103の開発データを参考にしたオンラインゲーム『バトルボッツ』のサービス提供が始まる。
2023年、量産機PD-105開発始動。実験機MW-303発表。
以降、現在まで市販を目指した開発が続けられている。
PDの開発コンセプト
『限界を超えた領域での活動を可能にする高機動ビークル』その意味する所は、高所作業、深海作業、化学工場火災、大規模森林火災、原発の解体さらには宇宙基地建設といった生身の人間にとって危険が伴う場所での作業を安全に行う為のパワーアシスト付き防護服であり移動手段である。
その他の特徴
最新の量子コンピュータを使ったAIを搭載している。これによって、地上建設現場専用のMWシリーズが姿勢制御のみをコンピュータに頼っているのに対し、汎用性を追求するPDシリーズならではの様々なシチュエーションにおける操縦支援のみならず、危険回避行動の自動化も達成している―
「さてと‥事故原因の第一候補は操縦ミスだけど‥システムの暴走ならプログラムのバグもありか‥」
章生はため息まじりに呟いた。
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