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第一笑(オーディン編)
22(笑止): 突然の威光
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街の外に出ると、見たことも無い巨大な城が草原に鎮座していた。
「間違いありません! オーディン様のお城です!」
「とうとう現れたか……」
灰色の城は不気味を漂わせていた。それが夜なのも相まって一層に殺風景だ。
「この時をどれほど待ち望んだか……オーディン!」
サラとテシリーは一度この城を見たことがあり、そしてこの中の主と戦ったことがある。サラにとっては単なる再会。テシリーにとってはリベンジマッチとなるわけだ。
「けっ……こん中にオーディンがいやがんのか。とっとと倒して帰るぞ」
そう簡単にいけばいいけどな。
「最近太ってきた所だし、ダイエットにもってこいね!」
「相手はオーディンだぞ!? ダイエット目的に戦おうとするな!」
マイペースなネーシャだ。だがそれほど冷静ってことだ。パニックになるよかマシだろう。
ふっと、笑いを零す。
「短い冒険だったな」
みんなの顔を見て、呟く。
「ネーシャ。お前のことを散々ポンコツとか言ってたけど、お前がいなかったら今の俺はない。あの時、助けてくれてありがとな」
「何よかしこまっちゃって。まるで死ぬみたいよ?」
死んでたまるものか。いや、死んでもこれだけは言っておきたい、という思いの方が強いか。
「シャミー。お前のことをもっと可愛がってやりたかったよ。オーディンに勝つことができたら、最後に思いっきりモフモフさせてくれ」
「にゃ……? コウタ、何かその言い方嫌なのにゃ……どこかへ行ってしまうような言い方なのにゃ」
不安そうに眉を曲げるシャミーに、優しく微笑んだ。
「サラ。お前には迷惑をかけたな。この戦いが終わったら、デルタの皆と仲良く過ごすんだ。気づいてなかったかもしれないけど、一番頼りにしてたんだぜ?」
「そんな迷惑だなんて! それにコウタさんは私たちの指揮官で、これからもずっと一緒に過ごせます! 過ごしてもらいます!!」
勝ったとしても負けたとしても、それは叶えられそうにない。すまないサラ。
「テシリー。お前とは何回か小競り合いが起きたものの、楽しかったぜ? どうやら俺の勝ち越しになっちまうみたいだが」
「そ、そうはさせないぞ! オーディンに勝った後はお前の番だからな! ……それにしても、なぜお前は、私たちに別れを告げるような口振りなんだ?」
その質問に返すことなく、続ける。
「シオラ。リーダーとしてこいつらのこと、頼んだぞ」
「深みのある言い方だが言及はしねぇよ」
「ゲザ。ネーシャをあんまり怖がらないでやってくれ。戦ってる時以外はだらずだし、そう畏怖するほどのものでもないことは、お前の方がよく知ってるだろ?」
「あ、ああ」
ミカンへの別れの挨拶は、勝利の報告と共に捧げるとしよう。
ダガーを引き抜く。
「これが俺の……最後の戦いだ。みんな、分かってるな!?」
「「一人は仲間のために、仲間は明日のために!」」
「総員、突撃に前へぇえ!!」
◇
城門を飛び蹴りでぶち破る。
「オラァァァ!!! 出て来いやオーディンこらァァァ!!」
城内に突撃した俺を先頭とするデルタ一同。中はひとつの広い空間になっていて、中心にはソレが立っていた。
「……立ち去れ」
つばの広い黒の帽子、右眼を隠す眼帯。白い髪。そして、大槍。それは冷たい声音で呟いた。
「……立ち去れ」
声質的に女性か? 屈強な男を想像してたんだが、それでも、ものすごいオーラだ。
「あんたがオーディンか?」
「立ち……去れ」
不気味なやつだ。生気を感じないぞ。
「不気味な子ね。あんた、友達いないんじゃないの?」
「おいコラ」
何をハッキリ言ってやがるんだネーシャは。神様だってそんなこと言われたら傷つくかもしれないんだぞ?
「お久しぶりですオーディン様。あの時はお世話になりました」
「サラくん。丁寧に挨拶しなくていいから」
敵だぞ!? ラスボスだぞ! もっと緊張感持てよ!
「再戦を申し込むぞ! オーディン!」
ああダメだこりゃ。負け知らずの最強さん達には恐怖というものが存在しないのだ。
そんな中、前に出て片膝着いたのはゲザ。
「お会いでき光栄です。私、主神オーディン様を崇拝する者にございます」
ゲザにとってオーディンに会えたことはそれはそれは光栄なことだろう。
「ならば、この者たちを連れて去れ」
「それはできませぬ。仲間の目的を邪魔することなど……ですが私はオーディン様と戦うつもりはございません。どうか、ご理解を――」
ゲザが消えた。
いや。
「うおぉっ!!」
壁に激突したのはゲザ。全く動いていなかったかのように思えるオーディンに吹き飛ばされたのだ。
「何というお力……お見事」
感心してる場合じゃないだろ。
ゲザは重傷じゃないみたいだし、そこで大人しく見ていてもらうとするか。
「てめぇクソガミがァ!!」
「ん?」
シオラ、何でキレてんの。
「いい度胸してるじゃないオーディン?」
ネーシャまで指鳴らしてやる気満々だな。
「よくもゲザさんを!」
ああなるほど。仲間を傷つけられたことに対して怒りを覚えているのか。
早速弓を引くテシリー。
「ぶっころすぞぉぉお!!」
引いた矢は燃え盛り、その炎は意志を持っているかのように身をくねらせる。
「フェニックスアロー!!!」
矢というよりは鳥、それがオーディン目掛けて飛んでいく。
おいおい、一発で片付けるなよ? 盛り上がらないだろ?
取られた。キャッチされた。片手で。
揉み消される。
「さすがはオーディンだ。もうこの技は通用しないか」
「ん?」
もう、通用しない……?
「次は私の番です! ――ショックプロミネンス!!」
今度はサラの魔法。電気の太い柱が高速でオーディンに向かっていく。
人差し指で弾かれる。
「あはは……さすがに二度目は通用しませんよねぇ」
二度目は、通用しない?
あれ。ちょっと待てよ? サラとテシリーはオーディンと戦ったことがあるんだったよな。一戦とはいえ、六回も瀕死に追いやるほどだ。もしかして……。
「お、おおお前ら……使える技を全て見切られてるなんてことはないよな?」
「……。」
「……。」
・・・。
「こんの馬鹿共がァァァ!!!」
「ごめんなさいごめんなさい!」
「なんてことだ! 新素材の矢だというのに!」
はい、早速二人は戦力外となってしまいました。
どうしたものやら……。
「ヴァル……キュリア?」
「ん?」
今、ヴァルキュリアって言ったのか?
「ヴァルキュリアの力を感じる……お前か……お前かァァァ!!!」
急に飛びかかってくるオーディン。その表情は歪んでいて、まるで恨んでいるかのような。
あれ、これちょっとマズイぞ。
「ギガシールド!!」
――ガン!
サラの防御魔法に激突するオーディン。一瞬でも遅かったら俺はどうなっていたのだろう。
「さ、サンキューサラ!」
「ふふっ」
本当に慌てないなこいつら。
「ヴァルキュリアを、出せ……」
「悪いがそれはできない。今ちょっと体調が優れないもんでな」
「ヴァルキュリアをぉぉおおお!!!」
「うわっ!」
周囲に激しく稲妻が走る。
こいつ、なんでミカンと会いたがるんだ?
「今度こそは……息の根を……」
殺すつもりか。なら話は早い。
「逝くのはお前の方だぜ? オーディン」
「何……? ――っ……!」
オーディンの戦慄の眼差しは、俺の背後、構える二人の魔法使いに向けられている。
サラとシオラは両手を突き出し、巨大な魔法陣を展開。
「バカみたいにどデカいのが来るぜ? 歯食いしばれ! オーディン!」
俺とオーディンを隔てていた防御魔法は解除され、その瞬間にネーシャが俺の横に来て脇に手を回す。
俺はスキルを発動。
「フィジカルバインド!」
「こんなもの……」
一瞬でいい。彼女を拘束できれば!
瞬時にネーシャは俺を抱いて飛び退く。
「ぶちかませ! 二人とも!」
「「エクスプロージョン!!」」
――ドォオオオオオン!!
爆炎が視界を覆う。赤黒い炎の中でまた炎たちが泳ぐその光景に、口角は上がる。
「さすがに二人のエクスプロージョンを受けては無事ではいられないだろう」
一瞬にして爆煙が晴れた、いや、消し飛ばされた?
「なっ……」
無傷。
「嘘だろ……」
エクスプロージョンは最上位攻撃魔法だぞ!? しかも二人分のそれを受けて無傷とかチートだろ!?
「……殺す」
オーディンが呟いた瞬間、ネーシャが俺の前に出る。
「……ネー、シャ?」
誰が放った? その大槍を。……ネーシャの胴体を貫くその大槍を。
血って、こんなに黒い色をしてるんだ……。いや、そんなことよりも。
「あんた……あいつを倒して故郷に帰るんでしょ……? 待っている人達が、いるんでしょ? だったら、ボサッとしてないで、早くあいつを倒してきなさいよ……」
ネーシャは、この戦いが終わったら俺が元いた世界に帰ることを察していたのか。そういえば彼女と初めて会った時、俺は包み隠さず別の世界から来たとか言ってたっけ。
この槍がネーシャに向けて飛んできていたのなら、彼女は避けることができていただろう。
こいつ、俺を庇って……。
「ネーシャ、死んだりしねぇよな!?」
歩いてくるオーディン。
「殺す……殺す」
膝を落としたのはネーシャ。大槍に支えられるように、両膝を付けて力なく俯く。
「ネーシャしっかりしろ!」
「あはは……私、コウタともっとクエスト行きたかったなぁ……だってあんた、面白いだもん……」
「お前の方がよっぽど面白かったぞ! 普段は高飛車でお調子者のくせに、誕生日を祝うと照れたりして……」
ネーシャの目は、地面に向けられながらも遥か遠くを見ていた。瞬きなど、することなく。
「恩すら返せねぇのかよ俺は……」
命の恩人にまた、命を救われてしまった。俺が救うことなど何一つないまま。
「く……そ」
どれだけ長い間共にいても、別れは一瞬。こんなにも呆気なく、そして哀しい。彼女が今までに起こした面倒事が全て、今になって悲しみとなって現れた。
オーディンは俺の前に立つと、ネーシャに刺さった大槍を、噴き出す大量の血液と共に引き抜く。
「……殺す」
その瞬間。
「貴様ァァァ!!!」
飛び込んできたテシリーがオーディンの大槍に矢を放つことなく叩きつける。
「よくもネーシャを……!」
見たことの無いテシリーの怒りの表情。今まで俺に向けられていた怒りの表情は、ほっぺを膨らませたリスのようにと表現すべきだったと思えるくらいに。
「ギガンテスアロー!!」
ゼロ距離で巨大な矢を顕現。明らかに身の丈にあっていないものだが、彼女はそれを右手に出すとオーディンに振りかざす。
――ゴォォオオン!!!
地面が割れる。片手で受け止められてしまう巨大な矢。
「がぁぁあ!」
テシリーの攻撃虚しく、オーディンの放つ風圧によって吹き飛ばされてしまう。
「くっ……あの時とは、段違いに強い」
強化されてるとはいえ、それでも瀕死に追いやれるほどだったんだ。ここまで彼女達の攻撃が通らないなんて。
「どいてろてめぇらァァァァ!!」
後ろからシオラの声。振り向くとエクスプロージョンの時とは比べものにならないくらいの巨大な魔法陣。おおよそ聖なるものとは思えない闇の色。収束していくのはドス黒い光。
シオラの表情もまた、怒りに満ちていた。
「消し炭すら残らねぇ一撃をお見舞いしてやんぞオラァァァ!」
慌てて距離をとる。
「喰らいやがれ! ――ゼクスプロージョン!!」
一帯をちらつく闇色。その一瞬の沈黙の後。
――ドォオオオオオオオオン!!
エクスプロージョンなど比べ物にならないほどの爆発がオーディンを捉えた。
「うぉぉお!! バカ……俺たちまで巻き込まれるだろうがァ!!」
吹き荒れる闇色の炎は城内を焦がした。
さすがにこれを打ち消すことはできなかったようで、爆炎は思うがままに城内を暴れ回った。
煙が晴れ、姿を現すのはオーディン。
「……殺、す……」
確実に体力を減らすことができたみたいだ。
だがさっきの魔法はソーサラーの最終奥義ではなかろうか。それを受けても傷を負った程度では、本当に勝ち目が見えない。
「クソが……」
膝をつくシオラは魔力の限界か。やはりあの魔法はソーサラーのとっておきだったようだ。
「……殺す」
「――はがっ……!」
俺の横を、ナニかが通過した。
「シオラさん!」
絶叫にも似た声を発するサラのそれに振り向くと、シオラの胸に大槍が突き刺さっていた。
「お、おい……シオラ?」
シオラは吐血した後、ふっと笑う。
「オーディン様に狩りとって頂けるなんざ、光栄この上ないぜ……」
ふと気づく。
シオラには悪いが……。
「その大槍をオーディンに取らせるな! それがなきゃこいつは俺たちをやれない! シオラ! 息が続く限りそいつを握りしめてろ!」
「へっ……しぶといぜ私はっ……がっぶふ――」
大槍は胸を貫いたまま回転し、自らオーディンの手の元へ飛んでいった。
「シオラさん!!」
「シオラ!!」
血溜まりの中、地に頭を付けたシオラは微動だにしなくなった。
「この、野郎……」
その時、俺の体から電気が走る。
「何だ!?」
現れたのはミカン。少女姿の彼女だ。
「ミカン! 出てきて大丈夫なのか!?」
ミカンは周囲を見渡す。
「もう少し、早く目覚めていれば……」
「ヴァル……キュリア?」
おいおい、オーディンはお前のことを狙ってるんだぞ。今現れたりなんかしたら更にこいつが高ぶってしまうだろう。
「力を帰してもらうぞ」
「殺す……殺す! ヴァルキュリアァァァ!!」
飛びかかってくる。
「これは裁きでは無い、復讐だ――サーガ・インテンション」
「ぁがっ!!!」
光の柱がオーディンを貫く。その切っ先には金色に輝く大きな宝石のようなものが。
体内に隠していたのか。
「殺……す――ぐばっ!」
吐血しながらも殺意は消えない。何という執念だ。にしてもミカンはやっぱりすげえな。これで完全体じゃないんだから本当、こいつの本気は底知れない。
光の柱が消えると、ミカンの体はやはり小さくなる。
「コウタ、今のあやつにさっきまでの回復力はない。……だが、一撃必殺に期待できるシオラは既に動けないようだ。オーディンがコアを食ってしまう前にトドメをさせ」
「そんな事言われても……」
オーディンは這ってコアへ向かっていく。
「はぁぁぁぁぁあ!!!!」
風圧に背中を押される。
「サラ!?」
その目からは涙が零れていた。
「よくも私の仲間を……。絶対にあなただけは許さない!!」
巨大な魔法陣。闇色に広がる歪な形態。その技はまさか。
「人類最古の歴史が生み出した至高の極技、全てを燃やし、塵すら存在を許さない、大魔道士の最終奥義――」
いや、これは――。
「ファイナル・ゼクスプロージョンッッ!!!」
城を、天めがけて闇の柱が突き破る。そこに城などなかったかというくらいに、すべては闇に包まれた。
もちろん俺がいた場所も全て燃え尽きたであろう。
この身は、宙を飛んでいた。
「ネーシャ!?」
「何?」
「何じゃねぇよ! お前生きてたのかよ!?」
ネーシャは俺を抱えてサラの魔法を避けたらしい。
ていうか、何でこいつピンピンしてるんだ。
「勝手に殺さないでもらえるかしら? 忘れたの? ウチには師範級のプリーストがいるのよ?」
「アッ……」
そういうことは早く言えよ! 俺、何かネーシャに恥ずかしいこと言った気がするぞ!?
地面に立つと、未だ燃え上がる炎の柱を眺める。
「ということは、シオラも無事なのか?」
「彼女は……」
「……そうか」
あのやられようでは、さすがに回復はできなかったか。
「ぶふっ……!」
「大丈夫かネーシャ!?」
ネーシャは吐血して膝を崩した。
傷が開いたか……。
「大丈夫よこのくらい」
「コウタ! 大丈夫かにゃ!?」
「おおシャミーか! なんとかな」
良かった、シャミーは無事か。
ミカンは……ひょっとして巻き込まれたか?
――ビリビリビリビリ!!
「うわ!」
ポケットから電気が走ったかと思うと出てきた光から形成されたのはミカン。
「サラのやつめ、無茶をする」
「ミカン……」
咄嗟にカミダマに入ってたんだな。
さて、と。もしオーディンがまだ生きているとなると、戦えるのはサラとテシリー、そして俺だけ。ネーシャに戦わせるわけにはいかない。
炎が消えた頃、やはり気になるのはオーディン。
さて、炭くらいにはなっててくれると嬉しいんだが。
「殺す……殺、す……」
化け物かアイツは!?
オーディンは立ち上がって、コアに手を伸ばす。
「コウタ! あいつにコアを飲ませるな!」
「俺じゃ間に合わない! サラは……」
魔力の限界か、その場で倒れていた。
「テシリー! どこにいる!?」
見渡していると、見覚えのある弓と矢筒を発見する。
「おいおいマジかよ!」
巻き込まれたとか言わないよな!?
オーディンがコアを手に取る。
「誰でもいい! あいつに! あと一撃……一撃食らわせてくれぇえ!!!」
そのコアがオーディンの口に入ろうと、その瞬間だった。
「バァァアサァァァァアク!!!」
「――ごべぶっ!!」
オーディンが瓦礫に激突。何かに飛ばされたように。
彼女の体を瓦礫に押し込んでいるのは屈強な男。師範級のベルセルク……ゲザだ。
「ゲザ!? お前……」
「コウタ! 今のうちにコアを回収するぞ!」
「お、おう!」
落としたコアの元へ駆け寄る中、視線はゲザに向く。
あいつ、オーディンには手出し出来ないんじゃなかったのか?
「貴様……崇高なるこの私に牙を剥く気か……」
「あなたは崇高なるお方だった。だが! 仲間を傷つける奴を許しはしない!!」
デルタでも随一の仲間思いであるゲザにとって、崇拝は友情の前に抗えなかったのだろう。
「貴様……貴様ァァァ!!!」
「一人は仲間のために、仲間は明日のために!! 神よここに眠れ――ギガクローズゥゥウ!!!」
「ゥガァァァアアアアァア!!!!」
ゲザは瓦礫ごとオーディンを締め潰す。
パタリとその場に崩れ落ちるのはオーディン。
ゲザはそれに背を向けた。
「安らかに眠れ」
「……」
――立ち上がった!
「ゲザ! ――ソードラッシュ!!」
「貴様……!」
ゲザの背後で立ち上がる彼女にその一突き。
詰めると同時にゲザに渡した冒険免許証を、彼は操作。もちろんスキルの解除だ。俺のスキルポイントはスカーレットマグナム戦と今の一撃でガッポリ溜まっている。
かつてネーシャと共に戦っていた彼が解除するスキルは恐らく。
「ライトニングブレード!!」
「イガァァァァア!!!」
貫いた刀身をそのまま横なぎに払うと、光の刃がオーディンを真っ二つにした。
そして、その身体は光となって消える。
「ふぅ……」
「助かったぞコウタ」
「ゲザもナイスだった!」
その頃、ミカンがコアにたどり着くと、彼女は早速それを拾い上げる。
「ミカン、それがお前の全てなんだな?」
「そうだ」
その時。
――ドォオオオオオン!!
背後で、唐突の爆発。
「今度は何だ!?」
もしかしてオーディンが復活したのか!?
さすがにあれより強くなられるともう手の打ちようがないぞ!!
「ゴラァァァァどこ行きやがったクソガミオラァァァ!!!」
振り向くと、暴れるシオラを必死で押さえ込んでいるサラ。
「シオラさん落ち着いてください! もう終わったんです!」
「うぉりゃぁぁぁあ!! あ? 終わった?」
ネーシャが歩いてくる。
「おいネーシャ。シオラ生きてるじゃないか」
「誰も死んだなんて一言も言ってないでしょ? 最後まで話を聞かないあんたが悪いんじゃない」
アレ?
「彼女は……私よりも重傷だったから、回復するまで時間がかかるって言いたかったのよ」
ああ、なるほど。元気みたいで何よりです。
じゃあそこの穴に、パンツ丸出しで頭から突っ込んでる緑の奴も大丈夫だな。
皆が集まり、ついにミカンが力を取り戻す時がきた。
「これで私は本当のヴァルキュリアに……」
「ああ、見せてくれ。お前の本当の姿を」
ミカンは光り輝くコアを飲み込んだ。
「っ……!」
眩い閃光に目を覆う。
そして俺の肩に優しく手が置かれた。
「ん……」
目を開けると、そこには神々しく輝く金髪の美女が立っていた。
「おお……ミカン、なのか?」
「そうだ。これが私の真の姿である」
唾液を飲み下す。
身長は俺よりも少し高いくらいで、胸が大きくて凛々しい立ち姿。今までのミカンからは想像もつかない。
「わぁ! ミカンあなたすごく綺麗ね! 惚れ惚れしちゃうわ!」
「ふん。当然だ」
「この白い服はどこの店で売っているのだろうか。というか、いつの間に着替えたのだ?」
「これは神装束だ。売られてなどいないし、着替えた訳でもない」
おいおい、何だよミカンのやつ。普段は俺を油断させておいて、今になって本気で魅了してきやがる。
視線は俺に向けられる。
「おいコウタ。どうだ? 私の真の姿は」
「ま、まぁ、いいんじゃねぇの?」
「すまない、惚れさせてしまったか」
「ホ、ホ! 惚れてなんかねぇよ!」
「あら~? コウタ何か顔赤くなってない?」
こいつら俺を笑いものにしやがって!
「で! ミカンはこれからどうするんだ?」
「コウタ、お前はどうしたい?」
「俺か? そりゃもちろん故郷に帰るよ」
テシリーが肩を掴んでくる。
「三日以内に帰ってこい。デルタの指揮官は忙しいんだぞ」
それは難しい注文だな。
「ちょっとばかし遠いもんでな。三日以内は厳しいかも」
次にシオラ。
「単独行動は許さん。私も連れて行け」
「バカ言うなよ。あんなやつと戦ったんだ。こんな時くらい、一人でのんびりさせてくれてもいいだろ?」
そしてシャミー。
「コウタ! お土産はお魚がいいのにゃ! コウタの国のお魚も食べてみたいのにゃ!」
「……おう」
シャミーの頭を撫でてやる。
「ふにゃぁ……」
頷きながらゲザ。
「これからも共に精進しよう」
「ああ、お互い精進しよう」
サラは俺の手を取って。
「くれぐれもお体には気を付けてくださいね? ちゃんとご飯を食べるんですよ? それと、帰ってくる時は連絡してくださいね?」
「母親かよ。分かった……」
最後に、ネーシャ。
「……じゃあね、コウタ」
「ああ、さようなら。それと、形見ってわけじゃないけど、これはネーシャが持っていてくれ」
ダガーホルダーを外し、二本の小太刀を渡す。
すまない皆、もうお前たちとは冒険に行けないけど。これからも仲良くやるんだぞ。
「別れの挨拶は済ませたか?」
「ああ、行ってくれ。それとミカン。もうお前が″来る″ことのないよう、祈ってるよ」
「同意だ」
ミカンは両手を天に広げた。
「ゲート!」
あの時、俺がこの世界に来た時と同じだ。黒い闇に吸い込まれ、そしてそれが見切れた頃に、懐かしのあの世界が――。
◇
「ん……」
目を覚ませば、懐かしの天井が視界に映る。
……帰ってきた。
「帰って来たぞぉぉおお!!!」
ベッドの上に立ち、歓喜の声を上げた。
いやーそれにしてもオーディンと戦ってる時は何もできなかったなぁ。こんな終わり方でいいのだろうか。いやいいんだ。そもそも駆け出しの冒険者があんなやつと戦うこと自体。間違ってる。ともあれ結果オーライ。
拳を握りしめる。
「溜めたアニメ、消化してくぞーー!!!!」
「うるさいぞ!」
「ごめんよー!」
あはは、家族に怒られてしまった。はしゃぎすぎたな、大人しくアニメでも……ちょっと待て、俺は一人暮らしだぞ?
ふとした気配に、確か声がしたであろう場所に硬い首を捻った。
「私の名はオーディン! 戦争と死の神である!」
幼女が、立っていた。
どうやら神は、何もしないままの俺の物語を閉ざすつもりは無いらしい。
「間違いありません! オーディン様のお城です!」
「とうとう現れたか……」
灰色の城は不気味を漂わせていた。それが夜なのも相まって一層に殺風景だ。
「この時をどれほど待ち望んだか……オーディン!」
サラとテシリーは一度この城を見たことがあり、そしてこの中の主と戦ったことがある。サラにとっては単なる再会。テシリーにとってはリベンジマッチとなるわけだ。
「けっ……こん中にオーディンがいやがんのか。とっとと倒して帰るぞ」
そう簡単にいけばいいけどな。
「最近太ってきた所だし、ダイエットにもってこいね!」
「相手はオーディンだぞ!? ダイエット目的に戦おうとするな!」
マイペースなネーシャだ。だがそれほど冷静ってことだ。パニックになるよかマシだろう。
ふっと、笑いを零す。
「短い冒険だったな」
みんなの顔を見て、呟く。
「ネーシャ。お前のことを散々ポンコツとか言ってたけど、お前がいなかったら今の俺はない。あの時、助けてくれてありがとな」
「何よかしこまっちゃって。まるで死ぬみたいよ?」
死んでたまるものか。いや、死んでもこれだけは言っておきたい、という思いの方が強いか。
「シャミー。お前のことをもっと可愛がってやりたかったよ。オーディンに勝つことができたら、最後に思いっきりモフモフさせてくれ」
「にゃ……? コウタ、何かその言い方嫌なのにゃ……どこかへ行ってしまうような言い方なのにゃ」
不安そうに眉を曲げるシャミーに、優しく微笑んだ。
「サラ。お前には迷惑をかけたな。この戦いが終わったら、デルタの皆と仲良く過ごすんだ。気づいてなかったかもしれないけど、一番頼りにしてたんだぜ?」
「そんな迷惑だなんて! それにコウタさんは私たちの指揮官で、これからもずっと一緒に過ごせます! 過ごしてもらいます!!」
勝ったとしても負けたとしても、それは叶えられそうにない。すまないサラ。
「テシリー。お前とは何回か小競り合いが起きたものの、楽しかったぜ? どうやら俺の勝ち越しになっちまうみたいだが」
「そ、そうはさせないぞ! オーディンに勝った後はお前の番だからな! ……それにしても、なぜお前は、私たちに別れを告げるような口振りなんだ?」
その質問に返すことなく、続ける。
「シオラ。リーダーとしてこいつらのこと、頼んだぞ」
「深みのある言い方だが言及はしねぇよ」
「ゲザ。ネーシャをあんまり怖がらないでやってくれ。戦ってる時以外はだらずだし、そう畏怖するほどのものでもないことは、お前の方がよく知ってるだろ?」
「あ、ああ」
ミカンへの別れの挨拶は、勝利の報告と共に捧げるとしよう。
ダガーを引き抜く。
「これが俺の……最後の戦いだ。みんな、分かってるな!?」
「「一人は仲間のために、仲間は明日のために!」」
「総員、突撃に前へぇえ!!」
◇
城門を飛び蹴りでぶち破る。
「オラァァァ!!! 出て来いやオーディンこらァァァ!!」
城内に突撃した俺を先頭とするデルタ一同。中はひとつの広い空間になっていて、中心にはソレが立っていた。
「……立ち去れ」
つばの広い黒の帽子、右眼を隠す眼帯。白い髪。そして、大槍。それは冷たい声音で呟いた。
「……立ち去れ」
声質的に女性か? 屈強な男を想像してたんだが、それでも、ものすごいオーラだ。
「あんたがオーディンか?」
「立ち……去れ」
不気味なやつだ。生気を感じないぞ。
「不気味な子ね。あんた、友達いないんじゃないの?」
「おいコラ」
何をハッキリ言ってやがるんだネーシャは。神様だってそんなこと言われたら傷つくかもしれないんだぞ?
「お久しぶりですオーディン様。あの時はお世話になりました」
「サラくん。丁寧に挨拶しなくていいから」
敵だぞ!? ラスボスだぞ! もっと緊張感持てよ!
「再戦を申し込むぞ! オーディン!」
ああダメだこりゃ。負け知らずの最強さん達には恐怖というものが存在しないのだ。
そんな中、前に出て片膝着いたのはゲザ。
「お会いでき光栄です。私、主神オーディン様を崇拝する者にございます」
ゲザにとってオーディンに会えたことはそれはそれは光栄なことだろう。
「ならば、この者たちを連れて去れ」
「それはできませぬ。仲間の目的を邪魔することなど……ですが私はオーディン様と戦うつもりはございません。どうか、ご理解を――」
ゲザが消えた。
いや。
「うおぉっ!!」
壁に激突したのはゲザ。全く動いていなかったかのように思えるオーディンに吹き飛ばされたのだ。
「何というお力……お見事」
感心してる場合じゃないだろ。
ゲザは重傷じゃないみたいだし、そこで大人しく見ていてもらうとするか。
「てめぇクソガミがァ!!」
「ん?」
シオラ、何でキレてんの。
「いい度胸してるじゃないオーディン?」
ネーシャまで指鳴らしてやる気満々だな。
「よくもゲザさんを!」
ああなるほど。仲間を傷つけられたことに対して怒りを覚えているのか。
早速弓を引くテシリー。
「ぶっころすぞぉぉお!!」
引いた矢は燃え盛り、その炎は意志を持っているかのように身をくねらせる。
「フェニックスアロー!!!」
矢というよりは鳥、それがオーディン目掛けて飛んでいく。
おいおい、一発で片付けるなよ? 盛り上がらないだろ?
取られた。キャッチされた。片手で。
揉み消される。
「さすがはオーディンだ。もうこの技は通用しないか」
「ん?」
もう、通用しない……?
「次は私の番です! ――ショックプロミネンス!!」
今度はサラの魔法。電気の太い柱が高速でオーディンに向かっていく。
人差し指で弾かれる。
「あはは……さすがに二度目は通用しませんよねぇ」
二度目は、通用しない?
あれ。ちょっと待てよ? サラとテシリーはオーディンと戦ったことがあるんだったよな。一戦とはいえ、六回も瀕死に追いやるほどだ。もしかして……。
「お、おおお前ら……使える技を全て見切られてるなんてことはないよな?」
「……。」
「……。」
・・・。
「こんの馬鹿共がァァァ!!!」
「ごめんなさいごめんなさい!」
「なんてことだ! 新素材の矢だというのに!」
はい、早速二人は戦力外となってしまいました。
どうしたものやら……。
「ヴァル……キュリア?」
「ん?」
今、ヴァルキュリアって言ったのか?
「ヴァルキュリアの力を感じる……お前か……お前かァァァ!!!」
急に飛びかかってくるオーディン。その表情は歪んでいて、まるで恨んでいるかのような。
あれ、これちょっとマズイぞ。
「ギガシールド!!」
――ガン!
サラの防御魔法に激突するオーディン。一瞬でも遅かったら俺はどうなっていたのだろう。
「さ、サンキューサラ!」
「ふふっ」
本当に慌てないなこいつら。
「ヴァルキュリアを、出せ……」
「悪いがそれはできない。今ちょっと体調が優れないもんでな」
「ヴァルキュリアをぉぉおおお!!!」
「うわっ!」
周囲に激しく稲妻が走る。
こいつ、なんでミカンと会いたがるんだ?
「今度こそは……息の根を……」
殺すつもりか。なら話は早い。
「逝くのはお前の方だぜ? オーディン」
「何……? ――っ……!」
オーディンの戦慄の眼差しは、俺の背後、構える二人の魔法使いに向けられている。
サラとシオラは両手を突き出し、巨大な魔法陣を展開。
「バカみたいにどデカいのが来るぜ? 歯食いしばれ! オーディン!」
俺とオーディンを隔てていた防御魔法は解除され、その瞬間にネーシャが俺の横に来て脇に手を回す。
俺はスキルを発動。
「フィジカルバインド!」
「こんなもの……」
一瞬でいい。彼女を拘束できれば!
瞬時にネーシャは俺を抱いて飛び退く。
「ぶちかませ! 二人とも!」
「「エクスプロージョン!!」」
――ドォオオオオオン!!
爆炎が視界を覆う。赤黒い炎の中でまた炎たちが泳ぐその光景に、口角は上がる。
「さすがに二人のエクスプロージョンを受けては無事ではいられないだろう」
一瞬にして爆煙が晴れた、いや、消し飛ばされた?
「なっ……」
無傷。
「嘘だろ……」
エクスプロージョンは最上位攻撃魔法だぞ!? しかも二人分のそれを受けて無傷とかチートだろ!?
「……殺す」
オーディンが呟いた瞬間、ネーシャが俺の前に出る。
「……ネー、シャ?」
誰が放った? その大槍を。……ネーシャの胴体を貫くその大槍を。
血って、こんなに黒い色をしてるんだ……。いや、そんなことよりも。
「あんた……あいつを倒して故郷に帰るんでしょ……? 待っている人達が、いるんでしょ? だったら、ボサッとしてないで、早くあいつを倒してきなさいよ……」
ネーシャは、この戦いが終わったら俺が元いた世界に帰ることを察していたのか。そういえば彼女と初めて会った時、俺は包み隠さず別の世界から来たとか言ってたっけ。
この槍がネーシャに向けて飛んできていたのなら、彼女は避けることができていただろう。
こいつ、俺を庇って……。
「ネーシャ、死んだりしねぇよな!?」
歩いてくるオーディン。
「殺す……殺す」
膝を落としたのはネーシャ。大槍に支えられるように、両膝を付けて力なく俯く。
「ネーシャしっかりしろ!」
「あはは……私、コウタともっとクエスト行きたかったなぁ……だってあんた、面白いだもん……」
「お前の方がよっぽど面白かったぞ! 普段は高飛車でお調子者のくせに、誕生日を祝うと照れたりして……」
ネーシャの目は、地面に向けられながらも遥か遠くを見ていた。瞬きなど、することなく。
「恩すら返せねぇのかよ俺は……」
命の恩人にまた、命を救われてしまった。俺が救うことなど何一つないまま。
「く……そ」
どれだけ長い間共にいても、別れは一瞬。こんなにも呆気なく、そして哀しい。彼女が今までに起こした面倒事が全て、今になって悲しみとなって現れた。
オーディンは俺の前に立つと、ネーシャに刺さった大槍を、噴き出す大量の血液と共に引き抜く。
「……殺す」
その瞬間。
「貴様ァァァ!!!」
飛び込んできたテシリーがオーディンの大槍に矢を放つことなく叩きつける。
「よくもネーシャを……!」
見たことの無いテシリーの怒りの表情。今まで俺に向けられていた怒りの表情は、ほっぺを膨らませたリスのようにと表現すべきだったと思えるくらいに。
「ギガンテスアロー!!」
ゼロ距離で巨大な矢を顕現。明らかに身の丈にあっていないものだが、彼女はそれを右手に出すとオーディンに振りかざす。
――ゴォォオオン!!!
地面が割れる。片手で受け止められてしまう巨大な矢。
「がぁぁあ!」
テシリーの攻撃虚しく、オーディンの放つ風圧によって吹き飛ばされてしまう。
「くっ……あの時とは、段違いに強い」
強化されてるとはいえ、それでも瀕死に追いやれるほどだったんだ。ここまで彼女達の攻撃が通らないなんて。
「どいてろてめぇらァァァァ!!」
後ろからシオラの声。振り向くとエクスプロージョンの時とは比べものにならないくらいの巨大な魔法陣。おおよそ聖なるものとは思えない闇の色。収束していくのはドス黒い光。
シオラの表情もまた、怒りに満ちていた。
「消し炭すら残らねぇ一撃をお見舞いしてやんぞオラァァァ!」
慌てて距離をとる。
「喰らいやがれ! ――ゼクスプロージョン!!」
一帯をちらつく闇色。その一瞬の沈黙の後。
――ドォオオオオオオオオン!!
エクスプロージョンなど比べ物にならないほどの爆発がオーディンを捉えた。
「うぉぉお!! バカ……俺たちまで巻き込まれるだろうがァ!!」
吹き荒れる闇色の炎は城内を焦がした。
さすがにこれを打ち消すことはできなかったようで、爆炎は思うがままに城内を暴れ回った。
煙が晴れ、姿を現すのはオーディン。
「……殺、す……」
確実に体力を減らすことができたみたいだ。
だがさっきの魔法はソーサラーの最終奥義ではなかろうか。それを受けても傷を負った程度では、本当に勝ち目が見えない。
「クソが……」
膝をつくシオラは魔力の限界か。やはりあの魔法はソーサラーのとっておきだったようだ。
「……殺す」
「――はがっ……!」
俺の横を、ナニかが通過した。
「シオラさん!」
絶叫にも似た声を発するサラのそれに振り向くと、シオラの胸に大槍が突き刺さっていた。
「お、おい……シオラ?」
シオラは吐血した後、ふっと笑う。
「オーディン様に狩りとって頂けるなんざ、光栄この上ないぜ……」
ふと気づく。
シオラには悪いが……。
「その大槍をオーディンに取らせるな! それがなきゃこいつは俺たちをやれない! シオラ! 息が続く限りそいつを握りしめてろ!」
「へっ……しぶといぜ私はっ……がっぶふ――」
大槍は胸を貫いたまま回転し、自らオーディンの手の元へ飛んでいった。
「シオラさん!!」
「シオラ!!」
血溜まりの中、地に頭を付けたシオラは微動だにしなくなった。
「この、野郎……」
その時、俺の体から電気が走る。
「何だ!?」
現れたのはミカン。少女姿の彼女だ。
「ミカン! 出てきて大丈夫なのか!?」
ミカンは周囲を見渡す。
「もう少し、早く目覚めていれば……」
「ヴァル……キュリア?」
おいおい、オーディンはお前のことを狙ってるんだぞ。今現れたりなんかしたら更にこいつが高ぶってしまうだろう。
「力を帰してもらうぞ」
「殺す……殺す! ヴァルキュリアァァァ!!」
飛びかかってくる。
「これは裁きでは無い、復讐だ――サーガ・インテンション」
「ぁがっ!!!」
光の柱がオーディンを貫く。その切っ先には金色に輝く大きな宝石のようなものが。
体内に隠していたのか。
「殺……す――ぐばっ!」
吐血しながらも殺意は消えない。何という執念だ。にしてもミカンはやっぱりすげえな。これで完全体じゃないんだから本当、こいつの本気は底知れない。
光の柱が消えると、ミカンの体はやはり小さくなる。
「コウタ、今のあやつにさっきまでの回復力はない。……だが、一撃必殺に期待できるシオラは既に動けないようだ。オーディンがコアを食ってしまう前にトドメをさせ」
「そんな事言われても……」
オーディンは這ってコアへ向かっていく。
「はぁぁぁぁぁあ!!!!」
風圧に背中を押される。
「サラ!?」
その目からは涙が零れていた。
「よくも私の仲間を……。絶対にあなただけは許さない!!」
巨大な魔法陣。闇色に広がる歪な形態。その技はまさか。
「人類最古の歴史が生み出した至高の極技、全てを燃やし、塵すら存在を許さない、大魔道士の最終奥義――」
いや、これは――。
「ファイナル・ゼクスプロージョンッッ!!!」
城を、天めがけて闇の柱が突き破る。そこに城などなかったかというくらいに、すべては闇に包まれた。
もちろん俺がいた場所も全て燃え尽きたであろう。
この身は、宙を飛んでいた。
「ネーシャ!?」
「何?」
「何じゃねぇよ! お前生きてたのかよ!?」
ネーシャは俺を抱えてサラの魔法を避けたらしい。
ていうか、何でこいつピンピンしてるんだ。
「勝手に殺さないでもらえるかしら? 忘れたの? ウチには師範級のプリーストがいるのよ?」
「アッ……」
そういうことは早く言えよ! 俺、何かネーシャに恥ずかしいこと言った気がするぞ!?
地面に立つと、未だ燃え上がる炎の柱を眺める。
「ということは、シオラも無事なのか?」
「彼女は……」
「……そうか」
あのやられようでは、さすがに回復はできなかったか。
「ぶふっ……!」
「大丈夫かネーシャ!?」
ネーシャは吐血して膝を崩した。
傷が開いたか……。
「大丈夫よこのくらい」
「コウタ! 大丈夫かにゃ!?」
「おおシャミーか! なんとかな」
良かった、シャミーは無事か。
ミカンは……ひょっとして巻き込まれたか?
――ビリビリビリビリ!!
「うわ!」
ポケットから電気が走ったかと思うと出てきた光から形成されたのはミカン。
「サラのやつめ、無茶をする」
「ミカン……」
咄嗟にカミダマに入ってたんだな。
さて、と。もしオーディンがまだ生きているとなると、戦えるのはサラとテシリー、そして俺だけ。ネーシャに戦わせるわけにはいかない。
炎が消えた頃、やはり気になるのはオーディン。
さて、炭くらいにはなっててくれると嬉しいんだが。
「殺す……殺、す……」
化け物かアイツは!?
オーディンは立ち上がって、コアに手を伸ばす。
「コウタ! あいつにコアを飲ませるな!」
「俺じゃ間に合わない! サラは……」
魔力の限界か、その場で倒れていた。
「テシリー! どこにいる!?」
見渡していると、見覚えのある弓と矢筒を発見する。
「おいおいマジかよ!」
巻き込まれたとか言わないよな!?
オーディンがコアを手に取る。
「誰でもいい! あいつに! あと一撃……一撃食らわせてくれぇえ!!!」
そのコアがオーディンの口に入ろうと、その瞬間だった。
「バァァアサァァァァアク!!!」
「――ごべぶっ!!」
オーディンが瓦礫に激突。何かに飛ばされたように。
彼女の体を瓦礫に押し込んでいるのは屈強な男。師範級のベルセルク……ゲザだ。
「ゲザ!? お前……」
「コウタ! 今のうちにコアを回収するぞ!」
「お、おう!」
落としたコアの元へ駆け寄る中、視線はゲザに向く。
あいつ、オーディンには手出し出来ないんじゃなかったのか?
「貴様……崇高なるこの私に牙を剥く気か……」
「あなたは崇高なるお方だった。だが! 仲間を傷つける奴を許しはしない!!」
デルタでも随一の仲間思いであるゲザにとって、崇拝は友情の前に抗えなかったのだろう。
「貴様……貴様ァァァ!!!」
「一人は仲間のために、仲間は明日のために!! 神よここに眠れ――ギガクローズゥゥウ!!!」
「ゥガァァァアアアアァア!!!!」
ゲザは瓦礫ごとオーディンを締め潰す。
パタリとその場に崩れ落ちるのはオーディン。
ゲザはそれに背を向けた。
「安らかに眠れ」
「……」
――立ち上がった!
「ゲザ! ――ソードラッシュ!!」
「貴様……!」
ゲザの背後で立ち上がる彼女にその一突き。
詰めると同時にゲザに渡した冒険免許証を、彼は操作。もちろんスキルの解除だ。俺のスキルポイントはスカーレットマグナム戦と今の一撃でガッポリ溜まっている。
かつてネーシャと共に戦っていた彼が解除するスキルは恐らく。
「ライトニングブレード!!」
「イガァァァァア!!!」
貫いた刀身をそのまま横なぎに払うと、光の刃がオーディンを真っ二つにした。
そして、その身体は光となって消える。
「ふぅ……」
「助かったぞコウタ」
「ゲザもナイスだった!」
その頃、ミカンがコアにたどり着くと、彼女は早速それを拾い上げる。
「ミカン、それがお前の全てなんだな?」
「そうだ」
その時。
――ドォオオオオオン!!
背後で、唐突の爆発。
「今度は何だ!?」
もしかしてオーディンが復活したのか!?
さすがにあれより強くなられるともう手の打ちようがないぞ!!
「ゴラァァァァどこ行きやがったクソガミオラァァァ!!!」
振り向くと、暴れるシオラを必死で押さえ込んでいるサラ。
「シオラさん落ち着いてください! もう終わったんです!」
「うぉりゃぁぁぁあ!! あ? 終わった?」
ネーシャが歩いてくる。
「おいネーシャ。シオラ生きてるじゃないか」
「誰も死んだなんて一言も言ってないでしょ? 最後まで話を聞かないあんたが悪いんじゃない」
アレ?
「彼女は……私よりも重傷だったから、回復するまで時間がかかるって言いたかったのよ」
ああ、なるほど。元気みたいで何よりです。
じゃあそこの穴に、パンツ丸出しで頭から突っ込んでる緑の奴も大丈夫だな。
皆が集まり、ついにミカンが力を取り戻す時がきた。
「これで私は本当のヴァルキュリアに……」
「ああ、見せてくれ。お前の本当の姿を」
ミカンは光り輝くコアを飲み込んだ。
「っ……!」
眩い閃光に目を覆う。
そして俺の肩に優しく手が置かれた。
「ん……」
目を開けると、そこには神々しく輝く金髪の美女が立っていた。
「おお……ミカン、なのか?」
「そうだ。これが私の真の姿である」
唾液を飲み下す。
身長は俺よりも少し高いくらいで、胸が大きくて凛々しい立ち姿。今までのミカンからは想像もつかない。
「わぁ! ミカンあなたすごく綺麗ね! 惚れ惚れしちゃうわ!」
「ふん。当然だ」
「この白い服はどこの店で売っているのだろうか。というか、いつの間に着替えたのだ?」
「これは神装束だ。売られてなどいないし、着替えた訳でもない」
おいおい、何だよミカンのやつ。普段は俺を油断させておいて、今になって本気で魅了してきやがる。
視線は俺に向けられる。
「おいコウタ。どうだ? 私の真の姿は」
「ま、まぁ、いいんじゃねぇの?」
「すまない、惚れさせてしまったか」
「ホ、ホ! 惚れてなんかねぇよ!」
「あら~? コウタ何か顔赤くなってない?」
こいつら俺を笑いものにしやがって!
「で! ミカンはこれからどうするんだ?」
「コウタ、お前はどうしたい?」
「俺か? そりゃもちろん故郷に帰るよ」
テシリーが肩を掴んでくる。
「三日以内に帰ってこい。デルタの指揮官は忙しいんだぞ」
それは難しい注文だな。
「ちょっとばかし遠いもんでな。三日以内は厳しいかも」
次にシオラ。
「単独行動は許さん。私も連れて行け」
「バカ言うなよ。あんなやつと戦ったんだ。こんな時くらい、一人でのんびりさせてくれてもいいだろ?」
そしてシャミー。
「コウタ! お土産はお魚がいいのにゃ! コウタの国のお魚も食べてみたいのにゃ!」
「……おう」
シャミーの頭を撫でてやる。
「ふにゃぁ……」
頷きながらゲザ。
「これからも共に精進しよう」
「ああ、お互い精進しよう」
サラは俺の手を取って。
「くれぐれもお体には気を付けてくださいね? ちゃんとご飯を食べるんですよ? それと、帰ってくる時は連絡してくださいね?」
「母親かよ。分かった……」
最後に、ネーシャ。
「……じゃあね、コウタ」
「ああ、さようなら。それと、形見ってわけじゃないけど、これはネーシャが持っていてくれ」
ダガーホルダーを外し、二本の小太刀を渡す。
すまない皆、もうお前たちとは冒険に行けないけど。これからも仲良くやるんだぞ。
「別れの挨拶は済ませたか?」
「ああ、行ってくれ。それとミカン。もうお前が″来る″ことのないよう、祈ってるよ」
「同意だ」
ミカンは両手を天に広げた。
「ゲート!」
あの時、俺がこの世界に来た時と同じだ。黒い闇に吸い込まれ、そしてそれが見切れた頃に、懐かしのあの世界が――。
◇
「ん……」
目を覚ませば、懐かしの天井が視界に映る。
……帰ってきた。
「帰って来たぞぉぉおお!!!」
ベッドの上に立ち、歓喜の声を上げた。
いやーそれにしてもオーディンと戦ってる時は何もできなかったなぁ。こんな終わり方でいいのだろうか。いやいいんだ。そもそも駆け出しの冒険者があんなやつと戦うこと自体。間違ってる。ともあれ結果オーライ。
拳を握りしめる。
「溜めたアニメ、消化してくぞーー!!!!」
「うるさいぞ!」
「ごめんよー!」
あはは、家族に怒られてしまった。はしゃぎすぎたな、大人しくアニメでも……ちょっと待て、俺は一人暮らしだぞ?
ふとした気配に、確か声がしたであろう場所に硬い首を捻った。
「私の名はオーディン! 戦争と死の神である!」
幼女が、立っていた。
どうやら神は、何もしないままの俺の物語を閉ざすつもりは無いらしい。
0
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