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プロローグ 果ての地
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壊れた本部はレラによりすぐに修復され、面々はリビングで向かい合っていた。
マリアは本を開くと、皆に伝える。
「農作エリアの開設は続行する。しかし神様に魔石を食われたため、農作エリアの開設はおろか、この本部でさえエネルギーの供給はままならない状態となっている」
レラは本部の修復のために持っている魔石を全て消費してしまった。灯りもついていないこの建物は、日が落ちれば暗闇に包まれることだろう。
「そこで嶺二、お前に魔石の採掘を頼みたい」
嶺二は一人、ソファに横たわっている。気だるげに手を振った。
「無理。疲れた」
「嶺二さんは行けます!」
「おいガキンチョ。勝手なこと言ってんじゃねぇ」
マリアは真剣な表情のターシャを見て頷く。
「よし」
「よしじゃねぇ!」
嶺二は身を起こし、抗議の声を上げた。
「こっちはレビギルとかいう化け物と戦って疲労困憊なんだぞ! ここはブラックなんか!?」
「びりゅい~!」
嶺二の腰に立つドロビィも短い腕を精一杯あげて彼に同調しているようだ。
「しかしこのままではまともな活動ができない。……………嶺二、頼む」
目つきは相変わらず鋭いが、切なく俯く瞳に嶺二の言葉は詰まる。
「ぐっ……あーちくしょ! やればいいんだろやれば!」
立ち上がった嶺二は、リビングの戸を開く。
「すまない嶺二。無理をさせる」
「ちっ……謝ってんじゃねぇよ。おしとやかは似合わねぇんだっつの」
「嶺二! それは私に言っているのか!」
マリアが立ち上がったと同時に、嶺二は逃げるように外へ走った。
嶺二が外に出ると、すぐにソールが本部から出てくる。
「ソール? ついてくるのか。悪いけど俺のスピードには……」
「……北、五百メートル……地下、二百メートル」
言いながら、ソールは嶺二に袋を渡す。
「あ……おけおけ。了解だ」
地面が沈んだと同時、嶺二は前方へ飛び上がった。
「びゅりぃぃぃい~!」
嶺二の肩に必死で掴まっているドロビィを気遣いながらステップし、彼は砂の地面を捉えた。
「ここらへんかな」
上空から振り下ろされる一撃。それは期待通りの威力を以て地面を破壊する。
「お、あったあった」
穴の壁に埋まるいくつもの光る石。それらを掘り出して袋に詰めていく。
しばらくすると、袋はごろっと膨らんでいた。
「こんなもんかね」
「びゅり!」
ドロビィが両手で持ち上げた魔石をひとつ運んでくる。
「おお! サンキューなドロビィ。ここに入れてくれ」
「びゅ~!」
ドロビィがポイと放ると、嶺二は袋を閉じて飛び上がった。
嶺二が本部に戻り、リビングに戻ると。
「あれ、誰もいねぇ……」
誰もいないリビングを後にした嶺二は、二階にあがって最初にターシャの部屋を訪ねた。
「ターシャ……っと、ノックノック」
コンコン、と扉を小突くが、中から返事がないので、その扉をあける。
「あ……れ」
ターシャはいなかった。
次にソールの部屋。
「ソール、いるか?」
いない。次は。
「レラ?」
いない。最後に。
「マリア、皆がどこにも……」
マリアも、部屋にいなかった。
「何だ……?」
嶺二が本部に入るまでは誰とも会わなかったので、外にいることはない。では、どこに。
「神隠しにでもあったのか」
リビングに戻ると、意味もなくキッチンの方へ足を進める。
「………………」
食器棚の下の扉から、桃色の頭髪がはみ出ていた。
「ちっ……」
数秒後。
「わぁ!」
笑顔のターシャが飛び出してきた。
「びっくりしましたか? ……って、わわ!」
嶺二はターシャの襟首を掴みあげ、彼女を右手にぶら下げながらテーブルに向かい、そこへ乗せた。
ちょこんとテーブルに乗せられたターシャは苦笑い。
「えへへ……」
「何してんだ……てめぇ」
「か、かくれんぼ……してたんですぅ……」
ならばと、嶺二は辺りを見回す。開く扉はいくつもある、ひとつひとつ探していては滑稽だと思った嶺二は一言。
「おいレラ。お前パンツ履いてないだろ」
「は、履いてますぅ~! ……って、きゃぁあ!」
金髪の露出狂がキッチンの戸棚から転げ落ちた。
嶺二は気にせず、もう一言。
「ソール。魔石なんてなかったぞ、お前の探査能力はそんなものか」
「……そんなはずは……ぬっ」
天井に張り付いていた。
そして。
「マリア……はいいや。ソール、安心してくれ。ちゃんと魔石は取ってきた――」
「良いわけがないだろー!」
「ばっ……ふぁ!」
マリアは床の戸からアッパーの格好で飛び出し、嶺二の顎を殴りあげる。
「お前ら何やってんだよ! 人が頑張って魔石採掘してる時によ!」
マリアが前に出て、本を開く。
「魔石は回収できたようだし、早速作業にとりかかる」
「っておい! 聞け!」
レラは笑いを堪えるかのように口元を歪ませていた。
「嶺二ったら……ばっふぁ! ですって……ぷぷっ」
「おいレラ、パンツ履いてないことマジでバラすぞ、てっいうかバラしたわ」
「だ、だから履いてますってばー!」
ターシャが苦笑いで嶺二に言う。
「ごめんなさい嶺二さん。これはレラさんが提案したことなんですけど、遊びも取り入れて皆の気持ちをリフレッシュしようって思ったんです」
「何?」
マリアは面倒くさそうに頭をかいている。ソールも目を閉じて黙秘。皆はレラの提案に乗ってあげただけのようだ。嶺二は拳を握りしめてすぐに緩め。
「………ま、こういうのも大事か」
魔石が入った袋をレラに渡す。彼女は上目遣いで嶺二を見つめて申し訳なさそうに袋を受け取った。
「ご、ごめんなさい……嶺二さんが頑張っているのに、私は無神経なことを」
「いや? 面白いじゃねぇか。レラがこんなことするだなんて思わなかったし、まさかソールやマリアも乗ってくるだなんてな。お前ら案外気さくな奴らじゃねぇかよ」
マリアは嶺二から目を逸らすが、ターシャは彼の腕に抱きつく。
「嶺二さんが楽しめたようなので良かったです! またやりましょうね! レラさん!」
レラは目を輝かせて。
「はい!」
それから、皆は真剣な表情で作業を始めた。
本部の外で、本を開いて指をさすのはマリア。
「レラ! 設計図通りにやれ、そこはもう少し手前だ!」
「は、はい!」
「ソール! 回路は仕上がっているのか」
「……問題ない」
「嶺二! ターシャ! もたもたせず耕せ! いつ神様の試練がやってきてもおかしくないんだぞ!」
「わぁってるよ!」
「はぁ! はぁ! もう……ダメぇ」
クワを持ったままぱたりと倒れたターシャに、マリアが寄る。
「もうギブアップか? 最強の癒術師とはこの程度なのかターシャ」
「うへぇ……だって癒術師は体力作りなんて……」
「つべこべ言わずに立て!」
「うう……は、はいぃ!」
根性で立ち上がるターシャは再びクワを振るった。
しばらくして、立てられたクワが地面を盛大に破壊する。
「終わったぁぁあ!」
「嶺二! この馬鹿力が! せっかく作った農作エリアが崩壊したらどうする!」
「へーい。すんまへーん」
出来上がった農作エリアを前に、嶺二が腰を降ろすとその横にターシャが倒れ込む。
「ぶへぇ……生まれて初めてこんなに疲れました」
「お疲れさん。ターシャ、見てみろよ」
「うぇ……ん……雨?」
彼らの目の前には、広大な畑が広がっていた。レラの魔法によりそこには雨が降らされている。
「びゅりりぃ!」
ドロビィは畑に飛び込むと、気持ちよさそうに雨の中で飛び跳ねた。
「ん……もう芽が出てきやがった」
耕された土から頭を出す多くの農作物の芽。それは見る見る背を伸ばし、太く、高く育っていく。
「レラのやつ、すげえな」
それらは最後に木となり、枝の先にいくつもの果物が実っていった。
ソールは畑の中心で雨に打たれながらも地面に手をつけてエネルギーを供給している。
「……完成だ」
種々、無数の木にぶら下がるふくよかな果物は、日光に照らされて光沢を放っていた。それらは全て嶺二にとって見慣れない形状、色をしているが、どれも美味しそうに見える。
嶺二の横に立ったのはマリア。
「嶺二、お前が言っていたミカンとやらを教えろ」
「あ? そんなもん知ってどうすんだよ」
「いいから、ここへ目を向けてイメージするんだ」
嶺二の前に、マリアの本が開かれる。何も書かれていない白紙の見開きだが、嶺二は言われた通りにミカンを想像した。
「んん…………まだ、ダメか?」
「もういい。……レラ、悪いがこれを追加で頼む」
「あ、はーい!」
空いたスペースに透過した三本の木が出現すると、レラがそこへ魔力を注ぎ込み始める。
嶺二は立ち上がってマリアに言う。
「お前、どうして」
マリアは嶺二に顔を向けることなく答えた。
「お前は私たちを救ってくれたからな。その礼だ」
「お前マジか……ひょっとしていいやつなんじゃねぇの?」
「お前は私をどう思っているんだ」
「キレ症、短気、男勝り、未婚」
嶺二は顔面をグーで殴られ、その場に伏せた。
「次言ったら殺す」
「な……なんてやつだ」
ターシャは呆れた様子で嶺二に手を添えた。
「嶺二さんはもう少し女性の気持ちを考えてあげてくださいね?」
チラと見えた光景に、嶺二はガバッと起き上がって見据える。
「おお! ミカンだ! ミカンだぁあ!」
早速、その木に飛びついてミカンを採取するとそのままかじった。
「うめぇ~! こんな場所に来てミカンが食えるとは思わなかったぜ! サンキューなレラ!」
木にしがみついてミカンを頬張る嶺二を見上げたレラは、笑顔で手を振り。
「喜んでいただけて良かったのですわ。私にもおひとつくださいませんか?」
「おう! ほらよっ」
「わっ、と……」
放られたミカンをうまくキャッチしたレラは、ミカンをあらゆる角度から観察してからかじった。
「んむ……なんだか酸っぱいですの」
「レラ、ミカンは皮をむいて食べるんだ」
「え? でもあなたは……」
「俺は皮までも愛するミカン愛好家だからな。普通はこうやって……ほら、皮をむいたら実が出てくるから、それを食べる」
レラは嶺二の真似をして皮をむき、その実をひとつ口に入れると。
「んん! お、美味しいですわ! とっても美味しいのですわ!」
「だろ~? 栄養満点だぜ! 知らんけど」
レラは頬でも落ちるのかと思わせるように顔を押さえ、幸せそうに咀嚼している。
「これはきっと、マリアも他の皆も気に入ること間違いなしですわ!」
「ったりめぇよ! ミカンが嫌いな奴なんていねぇんだからよ!」
そうとは限らないが、この通り嶺二は無類のミカン好きで、好きなジュースもミカンジュースで、アイスも同様。自身が強く好んでいるせいか、これほど美味しいミカンを嫌う者なんているはずがないと、生きとし生けるもの全てがミカン好きだと思っている。
「ドロビィも食うか?」
「びゅりぃ?」
ミカンの実を切り離してひとつ渡すと、ドロビィは両手で掴んで不思議そうに眺めている。
「びゅり……びゅ!」
ミカンの果汁がドロビィにかかると、飛び跳ねた。
「びゅりぃ! りりぃ!」
「おおそうかそうか! 美味いか!」
ドロビィは頭上から果汁を浴びて、幸せそうに鳴いている。
そこへソールがやってきた。
「……マリアが呼んでいる」
「分かりましたわ。私たちも行きましょうか嶺二」
嶺二は木から降りると、後から降ってきたドロビィを受け止める。
「よし、行くか」
こうして、農作エリアは開設されることとなる。
次にマリアから言い渡されたのは……本部の増強、そして労働力の確保であった。
マリアは本を開くと、皆に伝える。
「農作エリアの開設は続行する。しかし神様に魔石を食われたため、農作エリアの開設はおろか、この本部でさえエネルギーの供給はままならない状態となっている」
レラは本部の修復のために持っている魔石を全て消費してしまった。灯りもついていないこの建物は、日が落ちれば暗闇に包まれることだろう。
「そこで嶺二、お前に魔石の採掘を頼みたい」
嶺二は一人、ソファに横たわっている。気だるげに手を振った。
「無理。疲れた」
「嶺二さんは行けます!」
「おいガキンチョ。勝手なこと言ってんじゃねぇ」
マリアは真剣な表情のターシャを見て頷く。
「よし」
「よしじゃねぇ!」
嶺二は身を起こし、抗議の声を上げた。
「こっちはレビギルとかいう化け物と戦って疲労困憊なんだぞ! ここはブラックなんか!?」
「びりゅい~!」
嶺二の腰に立つドロビィも短い腕を精一杯あげて彼に同調しているようだ。
「しかしこのままではまともな活動ができない。……………嶺二、頼む」
目つきは相変わらず鋭いが、切なく俯く瞳に嶺二の言葉は詰まる。
「ぐっ……あーちくしょ! やればいいんだろやれば!」
立ち上がった嶺二は、リビングの戸を開く。
「すまない嶺二。無理をさせる」
「ちっ……謝ってんじゃねぇよ。おしとやかは似合わねぇんだっつの」
「嶺二! それは私に言っているのか!」
マリアが立ち上がったと同時に、嶺二は逃げるように外へ走った。
嶺二が外に出ると、すぐにソールが本部から出てくる。
「ソール? ついてくるのか。悪いけど俺のスピードには……」
「……北、五百メートル……地下、二百メートル」
言いながら、ソールは嶺二に袋を渡す。
「あ……おけおけ。了解だ」
地面が沈んだと同時、嶺二は前方へ飛び上がった。
「びゅりぃぃぃい~!」
嶺二の肩に必死で掴まっているドロビィを気遣いながらステップし、彼は砂の地面を捉えた。
「ここらへんかな」
上空から振り下ろされる一撃。それは期待通りの威力を以て地面を破壊する。
「お、あったあった」
穴の壁に埋まるいくつもの光る石。それらを掘り出して袋に詰めていく。
しばらくすると、袋はごろっと膨らんでいた。
「こんなもんかね」
「びゅり!」
ドロビィが両手で持ち上げた魔石をひとつ運んでくる。
「おお! サンキューなドロビィ。ここに入れてくれ」
「びゅ~!」
ドロビィがポイと放ると、嶺二は袋を閉じて飛び上がった。
嶺二が本部に戻り、リビングに戻ると。
「あれ、誰もいねぇ……」
誰もいないリビングを後にした嶺二は、二階にあがって最初にターシャの部屋を訪ねた。
「ターシャ……っと、ノックノック」
コンコン、と扉を小突くが、中から返事がないので、その扉をあける。
「あ……れ」
ターシャはいなかった。
次にソールの部屋。
「ソール、いるか?」
いない。次は。
「レラ?」
いない。最後に。
「マリア、皆がどこにも……」
マリアも、部屋にいなかった。
「何だ……?」
嶺二が本部に入るまでは誰とも会わなかったので、外にいることはない。では、どこに。
「神隠しにでもあったのか」
リビングに戻ると、意味もなくキッチンの方へ足を進める。
「………………」
食器棚の下の扉から、桃色の頭髪がはみ出ていた。
「ちっ……」
数秒後。
「わぁ!」
笑顔のターシャが飛び出してきた。
「びっくりしましたか? ……って、わわ!」
嶺二はターシャの襟首を掴みあげ、彼女を右手にぶら下げながらテーブルに向かい、そこへ乗せた。
ちょこんとテーブルに乗せられたターシャは苦笑い。
「えへへ……」
「何してんだ……てめぇ」
「か、かくれんぼ……してたんですぅ……」
ならばと、嶺二は辺りを見回す。開く扉はいくつもある、ひとつひとつ探していては滑稽だと思った嶺二は一言。
「おいレラ。お前パンツ履いてないだろ」
「は、履いてますぅ~! ……って、きゃぁあ!」
金髪の露出狂がキッチンの戸棚から転げ落ちた。
嶺二は気にせず、もう一言。
「ソール。魔石なんてなかったぞ、お前の探査能力はそんなものか」
「……そんなはずは……ぬっ」
天井に張り付いていた。
そして。
「マリア……はいいや。ソール、安心してくれ。ちゃんと魔石は取ってきた――」
「良いわけがないだろー!」
「ばっ……ふぁ!」
マリアは床の戸からアッパーの格好で飛び出し、嶺二の顎を殴りあげる。
「お前ら何やってんだよ! 人が頑張って魔石採掘してる時によ!」
マリアが前に出て、本を開く。
「魔石は回収できたようだし、早速作業にとりかかる」
「っておい! 聞け!」
レラは笑いを堪えるかのように口元を歪ませていた。
「嶺二ったら……ばっふぁ! ですって……ぷぷっ」
「おいレラ、パンツ履いてないことマジでバラすぞ、てっいうかバラしたわ」
「だ、だから履いてますってばー!」
ターシャが苦笑いで嶺二に言う。
「ごめんなさい嶺二さん。これはレラさんが提案したことなんですけど、遊びも取り入れて皆の気持ちをリフレッシュしようって思ったんです」
「何?」
マリアは面倒くさそうに頭をかいている。ソールも目を閉じて黙秘。皆はレラの提案に乗ってあげただけのようだ。嶺二は拳を握りしめてすぐに緩め。
「………ま、こういうのも大事か」
魔石が入った袋をレラに渡す。彼女は上目遣いで嶺二を見つめて申し訳なさそうに袋を受け取った。
「ご、ごめんなさい……嶺二さんが頑張っているのに、私は無神経なことを」
「いや? 面白いじゃねぇか。レラがこんなことするだなんて思わなかったし、まさかソールやマリアも乗ってくるだなんてな。お前ら案外気さくな奴らじゃねぇかよ」
マリアは嶺二から目を逸らすが、ターシャは彼の腕に抱きつく。
「嶺二さんが楽しめたようなので良かったです! またやりましょうね! レラさん!」
レラは目を輝かせて。
「はい!」
それから、皆は真剣な表情で作業を始めた。
本部の外で、本を開いて指をさすのはマリア。
「レラ! 設計図通りにやれ、そこはもう少し手前だ!」
「は、はい!」
「ソール! 回路は仕上がっているのか」
「……問題ない」
「嶺二! ターシャ! もたもたせず耕せ! いつ神様の試練がやってきてもおかしくないんだぞ!」
「わぁってるよ!」
「はぁ! はぁ! もう……ダメぇ」
クワを持ったままぱたりと倒れたターシャに、マリアが寄る。
「もうギブアップか? 最強の癒術師とはこの程度なのかターシャ」
「うへぇ……だって癒術師は体力作りなんて……」
「つべこべ言わずに立て!」
「うう……は、はいぃ!」
根性で立ち上がるターシャは再びクワを振るった。
しばらくして、立てられたクワが地面を盛大に破壊する。
「終わったぁぁあ!」
「嶺二! この馬鹿力が! せっかく作った農作エリアが崩壊したらどうする!」
「へーい。すんまへーん」
出来上がった農作エリアを前に、嶺二が腰を降ろすとその横にターシャが倒れ込む。
「ぶへぇ……生まれて初めてこんなに疲れました」
「お疲れさん。ターシャ、見てみろよ」
「うぇ……ん……雨?」
彼らの目の前には、広大な畑が広がっていた。レラの魔法によりそこには雨が降らされている。
「びゅりりぃ!」
ドロビィは畑に飛び込むと、気持ちよさそうに雨の中で飛び跳ねた。
「ん……もう芽が出てきやがった」
耕された土から頭を出す多くの農作物の芽。それは見る見る背を伸ばし、太く、高く育っていく。
「レラのやつ、すげえな」
それらは最後に木となり、枝の先にいくつもの果物が実っていった。
ソールは畑の中心で雨に打たれながらも地面に手をつけてエネルギーを供給している。
「……完成だ」
種々、無数の木にぶら下がるふくよかな果物は、日光に照らされて光沢を放っていた。それらは全て嶺二にとって見慣れない形状、色をしているが、どれも美味しそうに見える。
嶺二の横に立ったのはマリア。
「嶺二、お前が言っていたミカンとやらを教えろ」
「あ? そんなもん知ってどうすんだよ」
「いいから、ここへ目を向けてイメージするんだ」
嶺二の前に、マリアの本が開かれる。何も書かれていない白紙の見開きだが、嶺二は言われた通りにミカンを想像した。
「んん…………まだ、ダメか?」
「もういい。……レラ、悪いがこれを追加で頼む」
「あ、はーい!」
空いたスペースに透過した三本の木が出現すると、レラがそこへ魔力を注ぎ込み始める。
嶺二は立ち上がってマリアに言う。
「お前、どうして」
マリアは嶺二に顔を向けることなく答えた。
「お前は私たちを救ってくれたからな。その礼だ」
「お前マジか……ひょっとしていいやつなんじゃねぇの?」
「お前は私をどう思っているんだ」
「キレ症、短気、男勝り、未婚」
嶺二は顔面をグーで殴られ、その場に伏せた。
「次言ったら殺す」
「な……なんてやつだ」
ターシャは呆れた様子で嶺二に手を添えた。
「嶺二さんはもう少し女性の気持ちを考えてあげてくださいね?」
チラと見えた光景に、嶺二はガバッと起き上がって見据える。
「おお! ミカンだ! ミカンだぁあ!」
早速、その木に飛びついてミカンを採取するとそのままかじった。
「うめぇ~! こんな場所に来てミカンが食えるとは思わなかったぜ! サンキューなレラ!」
木にしがみついてミカンを頬張る嶺二を見上げたレラは、笑顔で手を振り。
「喜んでいただけて良かったのですわ。私にもおひとつくださいませんか?」
「おう! ほらよっ」
「わっ、と……」
放られたミカンをうまくキャッチしたレラは、ミカンをあらゆる角度から観察してからかじった。
「んむ……なんだか酸っぱいですの」
「レラ、ミカンは皮をむいて食べるんだ」
「え? でもあなたは……」
「俺は皮までも愛するミカン愛好家だからな。普通はこうやって……ほら、皮をむいたら実が出てくるから、それを食べる」
レラは嶺二の真似をして皮をむき、その実をひとつ口に入れると。
「んん! お、美味しいですわ! とっても美味しいのですわ!」
「だろ~? 栄養満点だぜ! 知らんけど」
レラは頬でも落ちるのかと思わせるように顔を押さえ、幸せそうに咀嚼している。
「これはきっと、マリアも他の皆も気に入ること間違いなしですわ!」
「ったりめぇよ! ミカンが嫌いな奴なんていねぇんだからよ!」
そうとは限らないが、この通り嶺二は無類のミカン好きで、好きなジュースもミカンジュースで、アイスも同様。自身が強く好んでいるせいか、これほど美味しいミカンを嫌う者なんているはずがないと、生きとし生けるもの全てがミカン好きだと思っている。
「ドロビィも食うか?」
「びゅりぃ?」
ミカンの実を切り離してひとつ渡すと、ドロビィは両手で掴んで不思議そうに眺めている。
「びゅり……びゅ!」
ミカンの果汁がドロビィにかかると、飛び跳ねた。
「びゅりぃ! りりぃ!」
「おおそうかそうか! 美味いか!」
ドロビィは頭上から果汁を浴びて、幸せそうに鳴いている。
そこへソールがやってきた。
「……マリアが呼んでいる」
「分かりましたわ。私たちも行きましょうか嶺二」
嶺二は木から降りると、後から降ってきたドロビィを受け止める。
「よし、行くか」
こうして、農作エリアは開設されることとなる。
次にマリアから言い渡されたのは……本部の増強、そして労働力の確保であった。
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