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第三章 ハテノチ統一へ
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しおりを挟む空を駆けるのは嶺二。高度が落ちていくと再び飛び上がろうとするが、躓くようにそのまま着地した。
「おっとと……何だこれ?」
嶺二の前方では草原が広がっており、さらに多くの建物と人で賑わっている。それはまるで村のよう。城壁に囲まれないその場所に魔族たちがいた。
嶺二は頭をかきながら、その場所へ進む。
「こんな場所、乙都に来る時には気付かなかったな」
無神経な嶺二は、その村の入口に立つ門番らしき二人の魔族を気に留めることなく進んでいくが、やはり。
「止まってください」
両脇から長い槍で阻まれた。
「ん? 何だお前たち」
「「れ、嶺二さん!?」」
「堅苦しい奴らだなぁ。こんな場所歩いてる奴なんて、大体俺たちの仲間だろうに」
驚いた様子の二人。
嶺二にとっては見覚えのない顔でも、彼らからすると嶺二は有名人。すぐに気づいた二人の魔族は槍を除けて姿勢を正す。
「失礼しました!」
「どうぞお入りください!」
とは言われるが、嶺二は立ち止まったまま訊く。
「お前たち、ヘリブなんたら王国から来た奴らだよな?」
「ヘリブカリア王国ですが……」
「ずいぶんと賑わってるみてぇだが、ここは何だ?」
二人の魔族は顔を見合せると、嶺二に向いて。
「丙都です」
「丙都? おお、これが……」
甲都のような都市感や乙都のような力強さは無く、都というよりは村と表したくなる穏やかな場所。建物は木造のものがほとんどで、一見すると子どもが多い印象。
何も知らないような顔の嶺二を見てか、魔族が説明をしてくれる。
「丙都は……甲都と乙都に挟まれる小さな都です。城壁はおろか、武装もほとんどありません。ここでは主に農作業や開拓を行っております」
「ふーん。開拓って何すんだ?」
「周辺の何も無い大地に生命を広げます。生命とは我々だけではなく、植物や動物たちも含め暮らしやすい環境にするのです」
嬉しそうに話す魔族に、嶺二は笑って。
「そっか。頑張れよ」
「はい!」
今度は顎に手を当てて「でも」と。
「城壁も武器も無いんじゃ、敵に襲われた時やばくねぇか?」
「そうですね。ですから甲乙の両都間に建てられたのです。嶺二さんならすぐに駆けつけてくれますし」
「へへっ。まあな」
嶺二が嬉しそうに鼻をかいて笑いを零すと、今まで黙っていたもう一人の魔族が補足するように。
「戦力がない分、敵襲には敏感にならなければなりません。加えてそれらに少しなりとも対抗できるものが必要になります。我々が仮にも、イブソルニア様の元で戦っていた兵士といえど、分散された戦力では微力もいいところでしょう。ですので一人だけ、ここに優秀な魔族を在籍させていますよ」
「優秀な魔族?」
つまりここには彼らと比較すると、飛び抜けて優れた魔族がいるということだ。
嶺二は気づいたように言う。
「セリスか!」
彼女は丙都の責任者として任命されている。そしてやはり魔族なのだからその可能性は高い。
「いえ。セリス様はここの司令官ではありますが、戦力に期待はできません」
彼はハッキリと言ってしまったが、セリスが聞いていたらどうなっていたことか。
「じゃあ誰だ? ……あ、ひょっとしてシェミルか?」
嶺二がその名前を思い出したように言うと、すぐ背後で。
「……なに」
ぬぅっと、嶺二の顔面横にジトーっとした目が浮き出る。
「うお。ビックリした……いたのかシェミル」
今まで嶺二にひっついて離れなかったシェミルは、今では丙都の用心棒を任されているようだ。
門番の魔族二人は彼女に向かって敬礼した。嶺二よりも厚い待遇で迎えられるシェミルを見て、彼は感心するように腕を組む。
「シェミルすげぇな。何か大将みたいだぞ」
「……うん」
シェミルにとってそんなことはどうでもいいようで。早速、嶺二の背中にしがみついておんぶの格好。
それを見た門番の二人は、慌てて付近の台車を引いてきた。
「シェミル様! お疲れのようでしたらこのネコグルマでお運びいたします!」
「どうぞシェミル様!」
それは土などを運搬する際に使用する、タイヤが一輪ついた台車。当然汚れている。
「……いや。嶺二が作ってくれた服、汚れちゃう」
「も、申し訳ございませんでした!」
「我々が出過ぎた真似を!」
門番たちが即座に頭を下げた後、嶺二は腰を落としながら言う。
「お前たちも大変だな、これからも頑張れよ」
「……嶺二、どこに行くの」
背中から下ろされたシェミルが問うと、嶺二はその方向に親指を向けて返した。
「甲都だ。マリアに呼ばれてな」
「……じゃあ、私も行く」
「おう、いいぜ?」
そこでドタバタと割り込んでくるのは門番たち。
「じゃあ、ではありませんよシェミル様! あなたには丙都に居ていただかないと困ります!」
門番の言うことは最もだ。異世界衝突という戦争の真っ只中で、いつ敵襲があってもおかしくは無い。戦力の主砲と監視塔の両方を担うシェミルがいなくなっては安心できないだろう。加えて、恐らくそれはマリアから任命された仕事なのだから簡単に放棄してはならないはず。
「だってよシェミル」
「……むぅ」
ボーっとしながら、ふてくされたように頬を膨らませるシェミル。
「どうするんだ?」
「……嶺二と行く」
「分かった」
嶺二はシェミルを抱えて飛び上がった。その遠く目下で。
「シェミル様ぁぁぁぁ!」
「お戻りくださぁぁぁい!」
手を振って大声を上げる彼らに、シェミルは見向きもせず嶺二の腕の中で風を受ける。
「……ありがとう。嶺二」
「いいや、礼を言いたいのはこっちだぜ? マリアのやつ、どうせ憂さ晴らしに俺をシバキたくて呼んだだけなんだ。シェミルなら俺を守ってくれるだろ?」
「……もちろん」
微笑んで返すシェミルに、嶺二もまた笑顔を返した。
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