世界最強が集う果ての地に召喚された彼らはそこで異世界最強を目指す

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第五章 異世界出張、新能力習得への修行

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 セビュマス王国の王都。その中心部は閑散としていた。日光でも照りつければ穏やかな大都市の風景が姿を現すことは分かる。しかし今では暗闇の中で、所々に松明の火が揺れているだけ。

「誰だ!」
「嶺二だ。デカい声出してんじゃねぇぞ」

 気配に勘づいた男が振り向き、嶺二を凝視している。

「お前は……?」
「俺は嶺二、人間だ」

 嶺二がそう言うと、隣にいるレキナが慌てて彼の背中に隠れた。

「人間だと? ここで何をしている」

 この男は人間と聞いただけで嶺二を罵ったりはしなかった。しかし怪しんでいる表情は分かりやすい。

「ルークの別荘を探してるんだが、ここら辺にあるのか?」
「ルーク様の別荘? なぜお前はそれを知りたいのだ」

 嶺二は鉄のリングを見せつけながら答える。

「俺はルークの友達だからよ。ほら、鍵も持ってる」

 男は目を凝らすようにして鉄のリングを眺めた後、頷いて言った。

「確かにこれはルーク様の……。分かった、ついてこい」

 歩き出した男の後を、嶺二とレキナはついていく。視界の悪い街路を歩き、時々は階段を登ったり、下ったり。およそ十分程度でルークの別荘と思しき場所に到着した。
 ルークが住んでいた小屋を想像しながらそこへ至った嶺二とレキナ。その両者の口が唖然と開きっぱなしとなる。

「で、でけぇ……」
「っていうかこれ……」

 セビュマス王国・本部。王都の中心部のさらに中心。円状に広がる庭園の真ん中に巨大な城が鎮座している。

「飛んでた時に見えてはいたが、まさかのこれだったのかよ」
「確かにこれなら、王都の人は誰でも知ってるね……」

 本部を別荘にしてあの小屋で暮らしているルークは、少々変わり者なのかもしれない。恐らくここがルークの本拠地だ。とはいえ案内してくれた男は、別荘と聞いて迷わずここへ連れて来てくれた。しかしどう考えてもこれが別荘なわけがない。
 嶺二は本部の巨大な扉の前でポケットをまさぐる。取り出したのは鉄のリング。

「んじゃ、お邪魔しますかね」

 捻るでも回すでもなく、鉄のリングは線状の鍵穴に入り込んでいった。確かな手応えを感じた嶺二は扉を押し開ける。視界に映ったのは真っ暗な空間で、とにかく広いということは分かるが。突然にそこが眩しく照らされて空間の全貌が明らかとなる。
 光を灯したのは、嶺二たちをここへ連れて来てくれた男だろう。天井へ向けて手を伸ばしている。
 この空間の景色を見た嶺二とレキナは驚くことなく、その表情は予想通りといったもの。

「やっぱりエルフってのは落ち着いた雰囲気が好きなんだな」
「そうだね。木のいい匂いがする」

 石と木材の両方を使って床や壁が形成されている。石の光沢と木の乾いた色合いがバランスよく組み合わされていた。
 そんな二人の様子を見ていた男が訊く。

「ルーク様はやはりあそこで?」
「そうだ。……にしても、こんな立派な家持ってんのにどうしてあそこに住んでんのかね」

 嶺二の言葉に、男は肩を落として返した。

「ルーク様はその……あまり人を好まれない」
「ん。そうなんか? そんな風には見えねぇけどな」
「セビュマス王国からすれば、神体級の精霊使いであるルーク様を玉座に座らせておきたいところだが……あの方はそれが嫌みたいだ」

 嶺二はふーんと鼻を鳴らした直後、素朴な疑問を発する。

「ってことは、ルークはこの国の王様なのか」
「そう。ルーク様はこの国の象徴とされている。何せ神体級の精霊使いであるからな」

 男は扉から覗いて出ている鉄のリングを取って、嶺二に渡す。

「私はこれにて失礼する。ルーク様のご友人であれば、私にはそちらを疑う余地もない。本部は君に任せた。朝になればここは少々騒がしくなるから、最上階の部屋で眠るといい」
「おう。あんたがいてくれて助かったぜ」

 嶺二は男を見送った後、上半身を捻って背後のレキナと目を合わせる。
 レキナは丸い瞳で嶺二を見上げた。

「なに?」
「腹、減らないか?」


 約一時間後、本部内にある食堂のテーブルには大層な料理の数々が並べられていた。
 大きなテーブルの前でちょこんと座るレキナは唖然として料理を眺めている。

「これ……誰がつくったの?」

 今し方、料理が盛られた皿をテーブルに置いた男は嶺二。くるくると指先でレードルを回しながら答える。

「俺だ」
「嘘」
「本当だ」

 主に肉料理。テーブルの至る所で、その表面に乗る脂がテカテカと照明に照らされて輝いている。次に多いのは魚で、塩焼きのようにしたものは食欲を唆る香りを醸しており、刺身は一寸のずれも無く端正な間隔を保って重ねられていた。
 納得できない様子のレキナはゴクリと唾液を飲み下しながらも、反抗的な目を嶺二に向けた。

「絶対、他に誰かいるよね? 本部の中に」
「いないぞ? これは本当に俺が作ったんだ。レラが作ってた料理を毎日見てたからな」

 確かにレラが作る料理と似ているが、彼女は錬金術を以てこしらえている。だから人の手による工程など、嶺二は一切知らないはずだが。嶺二の新たな才能を垣間見ることができた瞬間だ。
 彼の指先で器用に操られているレードルを見つめるレキナは、フォークを持って言う。
 

「嶺二って、料理できたんだ……意外。ええと、いただきます」

 レキナが肉を口に入れた瞬間、隣が騒ぎ立つ。

「美味いかァ!?」
「んぐっ!?」

 苦しそうな顔で自分の胸を叩くレキナ。嶺二が至近距離で大声をあげたから、びっくりして喉に詰まらせたのだろう。
 レキナはコップを持ち上げて、急いで喉に水を流し込んでいる。

「どした、レキナ? も、もしかして不味かった……のか?」

 悲愴の面持ちで後ずさる嶺二に視線を向けたのはレキナ。彼の行動に対して不満はあるかもしれないが、舌は正直だったようだ。のほほんとした笑顔で言う。

「うめぇんだよ、ちくしょうが」


 二人は食事を終えると風呂へ向かう。

「おお……!」

 タオル一枚、腰に巻いた嶺二は感動するようにそこを見渡した。
 本部の浴場はひとつの″大″では足りないほどに広い大浴場だった。嶺二たちが来ていなければ誰もいないはずの本部なのに、浴槽は湯気を立ち上らせている。木で作られた浴槽は、嶺二に懐かしさを覚えさせた。

「そういや俺の実家の風呂もこんなだったな。さすがに広さでは勝てねぇけど」

 そう言った嶺二の表情は少し切なげだ。それも当然のこと。嶺二はこの先の一生でどう足掻いても、もう実家の風呂には入れない。彼の住んでいた世界は消滅したのだから。
 嶺二の隣が言う。

「ねぇ嶺二。何であなたがここにいるの」
「ん? ああ……何でだろうな」

 腰にタオルを巻く嶺二の隣には、胸にだけタオルを当てて隠しているレキナがいた。
 何も嶺二が無神経に女湯へ立ち入った訳では無い。その逆も然りだ。二人は確かに別々の戸を開いて脱衣所に入り、服を脱ぎ、浴場へ足を踏み入れた。この浴場の入口もひとつでは無かった。嶺二はなるほどと手を打って言う。

「ここ、混浴だ」
「そうなんだ。じゃあ殴ってもいい?」

 笑顔で拳を掲げて提案するレキナ。嶺二は視線を前に向けたまま言い返す。

「落ち着けよ。お前は子どもなんだ。恥ずかしがることはねぇ」
「私、今年で二十歳なんだけど」

 嶺二はやれやれとレキナに視線を向けた。

「嘘つけ、その割にはお前……」

 押し当てられたタオルからは、胸の谷間が敷き詰まるようにしてはみ出ていた。嶺二の心中は、レラには劣るがマリアといい勝負か……そんなのんきなものだった。

「お前、着痩せ――」

 言い終わる前に、嶺二の体は床に伏していた。

「全くもう……」

 レキナは拳を擦りながら浴槽に向かう。身体を流し終えると、湯気の立ち込めるお湯の中へ足先を沈め、ゆっくりと全身に浸かった。

「ふぅ~……。お風呂に浸かったのなんていつぶりだろう……」

 とろーんと表情を溶かして脱力するレキナの視界端で、一本の引き締まった右足が姿を現す。

「ふぃ~! 極楽極楽」

 肩までしっかりと浸かって天を仰ぎ見ているのは嶺二。レキナは俯いて、頭を揺らしながら言う。

「ねぇ嶺二」
「ん? お前まだ怒って……」
「おやすみ……」

 嶺二の肩に力なく頭を乗せたレキナは、すぅすぅと寝息を立てて眠ってしまった。恥部を隠していたタオルは指から抜けて湯船を泳いでいく。それをボーっと眺め続ける嶺二は、しばらく経ってから。

「……」

 未だ眠っているレキナへ視線を向けて、その顔をじっと見つめる。

「っ……レキナ」

 嶺二は彼女の鎖骨の辺りまで視線を巡らせると、ごくりと唾液を飲み下した。今度はその華奢な体躯に身を寄せると抱くように腕を回す。そして水面が激しく波打った。

逆上のぼせてんじゃねぇかお前ぇぇぇえ!」

 嶺二は真っ赤な顔のレキナを抱えて立ち上がり、脱衣所へと走り出す。滑って転倒したりでもしたら大変だ。嶺二は足元に気を遣いながらできるだけ急いで走る。出口の取っ手を握ろうとした時。

「バカぁー!」
「――ゴハァァ!」

 嶺二の顎へ突如の打撃。仰向けに転倒した嶺二の腹を下敷きに座って、彼を見下ろしているのはレキナ。赤らめたままの頬を膨らませて立ち上がる。

「嶺二のおたんこなすー! ばか! あほ! どんかん! まぬけ!」

 そんなことを言い残して、彼女はひとり脱衣所へと去っていった。
 嶺二は後頭部を擦りながら身を起こすと、呆れたように呟く。

「……ったく。寝たり騒いだり忙しいやつだなあいつは」

 こうして今日、二人は何事もなく夜を越すことになる。
 明日はルークと再会し、最高位の精霊である実体級のそれと会うことになっている。
 
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