世界最強が集う果ての地に召喚された彼らはそこで異世界最強を目指す

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第六章 閃血の精霊

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 誰が見てもおかしい状況。ハテノチを破滅させんとしていたヌルなど、二人の見開いた眼中には既に無かった。

「かかってこいやイブソルニア」
「望むところだ」

 瞬く間に距離を詰めた時、拳が互いの頬に深く抉り込む。嶺二は頬で押し返すように踏ん張って、さらに拳を放った。

「「ぐっ……」」

 イブソルニアの頬に拳、嶺二のこめかみには足の甲が入り込んでいる。一瞬の後、両者が振り切ったそれらは互いの体勢を崩し、しかし同時に立て直した直後に同じ方向を見据えた。

「…………」

 向かってきていたヌルは振り下ろされた二つの踵によって地面に埋まる。もはや声も発することなくヌルを地に伏した。
 ヌルの後頭部に片足を並べる二人が顔を合わせた時。

「いい加減しろお前たち! ケンカなどしている場合か!」

 後ろからマリアの怒号が響き渡る。続いて甲高い声も。

「今はそこの敵に集中してくださいまし! あとでいくらでも殴り合えばいいのですわ!」

 ヌルが手を着いて起き上がろうとした時、嶺二は頭を掻きながらやれやれと。

「しょうがねぇな……イブソルニア、悪いがちょっと休戦だ。さすがに体力が持たねぇ。あとでや――」

 イブソルニアが嶺二の股間、その膨らみを掴んでいる。その感触に彼の顔が青ざめた瞬間。

「ぎ……」
「よそ見をするな!」

 垂直に投げ飛ばされた嶺二は、空中で絶叫をあげた。

「ギャァァァァァ!」

 イブソルニアの傍らに落ちたのは、袋のようになった皮と肉の棒。滑稽な音を立てて着地したソレが、だらしなく寝そべっている。
 それらの持ち主であろう男は股間から血を吹いて空から帰ってくる。

「イブソルニアぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 どすん! と着地した時。股間からぴゅっと血が出た。隠すべき場所を失った嶺二は堂々と立って彼女を睨みつける。

「てめぇ……マジでこれだけは許さねぇぞ」

 イブソルニアは起き上がろうとしていたヌルの頭を再び地面に踏みつけてから言う。

「何を怒っている?」
「怒るだろうがよそりゃ…………言ってみろよイブソルニア、今の俺とお前の違いは何だ?」
「貴様の方が我より少し背が高い」
「とぼけてんじゃねぇぞ……コラ」

 嶺二の顔は今までに無く歪んでいる。本気で怒っている様子。
 二人の後方では、ターシャが飛び出そうとしていたがローゼンに止められていた。
 イブソルニアは寝そべるソレを指さして嶺二に言う。

「ぶら下げているだけ無駄だ。去勢の功を成した我に感謝せよ。ヌルは我がやっておく、お前は大人しく寝ていろ……あの粗末なモノのようにな」

 嶺二のこめかみで太く血管が走った。
 震える声で呟く。

「あの粗末なモノのように……?」

 瞬間、ほのかに赤を彩った風が彼の周囲を吹き始める。

「――――っ……!」

 直後にそれは真っ赤となって閃光し、嵐のごとく血の旋風を巻き上げ、

「チンチンのことかァァアアァアァァアッッ!」

 世界を喰らうかの如く、視界の限りを閃く血筋が荒れ狂う。吹く風はイブソルニアの肩を切りつけ、足をきりつけ……まるで刃のよう。
 異様な光景を目の当たりにしたイブソルニアはヌルから離れると、これを形成したであろう嶺二を怪訝に見つめる。

「貴様……一体何を身に宿している?」
「イブソルニアァァァァァァァァア!」

 向かってきた嶺二の拳を受け止めたイブソルニア。血筋を纏うその拳は、彼女の腕で眩むほどに赤く閃光している。直後に殴り飛ばされた嶺二は盛大に地面を割って着地すると、すぐに体勢を立て直して閃く血をさらに巻き上げた。再び飛びかかろうとしていた時。

「出力最大」

 二人の前方で、激しく駆動音が鳴り始める。それが両手を広げて赤い玉を光らせている。全身の隙間から濃く立ち上る煙は正常のものとは思えない。
 それが激しく閃光した時。

「邪魔だッボケェェェ!」

 嶺二が腕を振り払えば、血筋が彼の動作に従って吹き荒れる。それはヌルの身体を飲み込み、木っ端微塵の見てくれにまで刻んだ。

「何という力だ……」

 さすがのイブソルニアも一歩後ずさる。この赤い風に当たればヌルのようになると察した。しかし逃げ場などない、一帯は空まで赤い風に覆われているのだから。
 再び向かってきた拳を受け止めたイブソルニアが激しく地面を抉りながら後退する。

「ぐっ……!」
「……喰らえ」

 目前で掲げられた拳には、閃血と呼ぶに相応しい鮮やかな赤が纏っていた。
  
「嶺二……!」

 その時、横風に乗った閃血がイブソルニアの長い襟を切り裂く。隠れていた顔が露わになると、彼女は即座にしゃがみこんで鳴いた。

「にゃあ……」
「おっ……ぶッッ――」

 色々と脳内で渋滞したであろう嶺二は盛大に体勢を崩し、掲げていた拳で何故か自分の後頭部を打ち付けた。

「どぎゃぁぁぁあ!」

 ボールのように転がっていく嶺二。

「うぅ…………」

 うずくまるイブソルニア。

「………………」

 赤い風はおさまり、辺りを沈黙が支配する。
 嶺二は頭をさすりながら彼女の傍らに歩み寄った。

「いってて……危ねぇなおい、いきなり無防備になってんじゃねぇぞ」

 殺す気満々の顔で殴りかかっていたが、それでも彼の中に正気は残っていたようだ。

「ごめんなさい……私……あなたがこあいの」

 先ほどまでとはまるで変わった声音に、嶺二の表情は引きつる。
 丸くなって震えているイブソルニア。この状態の彼女に嶺二が命名した。

「おい、イブソルニャア」
「やだ……」

 掴んで起こそうとするも、首を振って抵抗される。
 今度は蹴り小突いた。

「おいコラ」
「……いたい」

 嶺二はため息をついて、前方を見やった。

「しょうがねぇ、あの鉄野郎は俺が――」

 直後の鈍痛にぱたりとうつ伏せに倒れる嶺二。それを見下ろしているのは本の角を手に乗せたマリア。

「奴は既に消し飛んでいる。しょうもないケンカを始めおってからに。このバカ共が」

 うずくまるイブソルニャアと、うつ伏せの嶺二を見てそう言い捨てた。
 今回、嶺二が成した活躍といえば、登場時にヌルの最大出力を散らしたことだろうか。それはローゼンの活躍でもあるが、しかし最後にヌルを倒したのは彼だ。
 イブソルニアと嶺二の拳を受けても一向に砕けないヌルの体躯を、簡単に散らした精霊の力。マリアからすれば大収穫とも思える。

「起きろ」

 がつっとつま先を打ち付けられた嶺二はため息をついて起き上がる。視線の先では鋭い目つきでマリアが睨んできていた。

「何だよ」
「すまなかった」
「あぇ?」

 マリアは切なげな瞳を向けて嶺二の胸ぐらを掴みあげた。表情と動作が合っていないようだが、その手は震えている。

「お前をカシュエドに送っていなければ、仲間を多く失わずに済んだかもしれない」
「バーカ。お前は戦ってねぇから分かんねぇだろうがよ?」
「む?」
「あいつには本気で殴り入れても飛ばすくらいが関の山だ。俺たちの攻撃がまるで効いちゃいなかったのさ。あのままじゃこっちの体力が先に尽きちまってた。………な! イブソルニャア!」

 唐突に聞かれたイブソルニャアは肩をピクっと揺らして短く答えた。

「……うん」

 マリアは疑問の表情で。

「では、その閃血の精霊とやらは役に立ったのか……?」
「おう! バカ強ぇぞ! どうやって奴を倒したのかは覚えてねぇが、多分やったのはノンだ!」

 嶺二が「邪魔だボケ」と言って消し飛ばしたわけだが。それもノンの力ありきのもの。

「そうか……異世界への出張は無駄ではなかったのだな」

 マリアの呟きを他所に、嶺二は渋い顔で言った。

「かァ~それにしても力の引き出し方が分からなくて焦ったぜ。まさかチンち……」

 今度は何かを思い出したかのように唖然とした表情を浮かべる。
 視線を恐る恐る下げた嶺二は、自分の股間を確認して顔を蒼白とさせた。
 口をパクパクと開閉しながら辺りを見渡すが、ソレは見当たらない。風に飛ばされたか。
 その間も彼の胸ぐらは離されず、睨みを効かせたマリアから低い声音が放たれる。

「であれば嶺二……お前は精霊の使い方も分からないまま敵を視野の外に置き、イブソルニアとケンカをしていたのだな?」
「い、いや……それよりも俺の……」

 そこで、右方から甲高い声が飛んでくる。

「嶺二さーん!」

 ターシャが走ってやってくる。挙げた片手には嶺二の望むモノがしっかりと握られていた。

「でかしたぞターシャ! くっつけてくれ!」
「はい!」

 何の躊躇ためらいもなく握りしめているが、さすがは癒術師といったところか。このような治療も数多く経験したのだろう。
 繋がったソレを見て満足気に頷いたターシャは、レラを呼んだ。

「レラさ~ん!」

 走ってくる。一度止まったが、走ってくる。そして飛んだ。

「きゃぁぁぁぁ!」
「バっ……か」

 せっかく治療したというのに、早速の飛び蹴りである。

「レラさん。嶺二さんのズボンを……」
「わ、分かってますわ!」

 嶺二はズボンを拵えてもらい、ご機嫌な様子。蹴り突かれた方はもう大丈夫みたいだ。
 
「さて、と……」

 マリアが向いた先にはアルバ先遣隊。アルバに掴まれているのは小太りの男性。

「貴様をどうしてやろうか……ダン」
「ひっ……」

 顎を震わせて怯えている。そこでレラが提案した。

「″献身的″に、皆さんが一発ずつシバいてさしあげるのはどうでしょう?」
「良い案だ。採用とする」
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