世界最強が集う果ての地に召喚された彼らはそこで異世界最強を目指す

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第六章 閃血の精霊

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 嶺二は突進するその身を捻らせて、踵を振り下ろした。

「絶対こめかみ砕くカカト落としィッ!」

 ヌルが眼前で防御すると、周囲の地面がその衝撃に割れる。嶺二はもう片方の足を突っ張ってヌルを蹴飛ばし、間髪入れずにその体躯を追う。その間はあっという程の暇もなく、すぐに彼の手がヌルの顔面を掴み、地面へ叩きつける。
 嶺二は地に伏したヌルを見つめながら言う。

「こんなもんかよ?」
「最大出力、回復完了」
「あ?」

 直後、今度は嶺二の体が地面を割って叩きつけられた。一瞬で入れ替わった体勢に狼狽する余裕などなく、すぐに彼の頭は掴みあげられる。
 嶺二は苦しげにも笑顔を浮かべて訊く。

「お、お前……ひょっとして強いのか?」

 ヌルは答えるかのように再び彼を地面に叩きつけ、

「ごっ……へ」

 次に嶺二の足を″握り潰し″て、彼を逆さまにぶら下げる。しかし嶺二は笑っていた。

「へへっ……暇くれてんじゃねぇぞ!」

 掴まれていない方の足でヌルの顎を蹴りあげ、ヌルが仰け反った隙に身を捻った。

「飛んでけぇ!」

 嶺二の足がヌルのこめかみを叩きつけるが、それは飛ぶでも転ぶでもなく、平然と立っている。

「ありゃ?」

 その足も掴まれた嶺二は、ヌルに布団でも扱うように幾度となく叩きつけられ。

「ごへ! ばふぁ! どへぇ!?」

 空へ投げられたのは嶺二の両足。彼の胴体は血を撒き散らしながら粗末に転がっていく。
 匍匐ほふくの体勢で肘を立てた嶺二は、今し方となりに降ってきた自分の足を眺めて唾液を飲み下した。

「う、嘘だろ……? こいつ、バカ強ぇじゃん……」

 視線を前に向けると、見えたのは遠くに立つマリアたちの姿。多くの者は唖然とこちらを眺めているが、マリアは冷静に彼を見張っていた。何か隠しているのだろう? と言わんばかりに。
 嶺二は苦笑いを浮かべて呟く。

「な、なぁノン……早々で悪いんだが、力貸してくれ」
『貸してるよ。使うのは嶺二』

 頭の中にそんな声が届いた。嶺二が聞き返そうとした時、ヌルの足が背中を踏みつける。

「ちょ……タンマタンマ! た……いでででで!?」

 内臓を潰す勢いで踏み込んでくる足裏は、鈍い音を立てながら嶺二の身を歪ませていく。
 嶺二は拳を握って叫んだ。

「ドロレムゥゥゥッ!」

 瞬間、ヌルの背後で地面が割れると、そこから巨大な四肢を持つ生物が飛び出してきた。胴体から生える太い根の四肢は、一本一本が絡み合うように腕や足を形成した姿。元々は可愛らしい土の生物であるドロビィが、無数のそれらと合体したそれは……ドロレム。

「びゅり!」

 愛嬌のある声音で鳴きつつも、隆々とした両腕でヌルを締め上げた。

「サンキューだドロレム!」

 嶺二は自分の両足を掴むと、カサカサとマリアたちの元へ這って迫る。それを待ち受ける彼女たちは一様に顔を蒼白とさせていた。その様子が最も顕著であるのはレラだ。

「き、気持ち悪っ……おえ」

 無理もない。人の形をしたものが血痕を引きながら上半身だけで迫ってくるのだ。しかも両手には自分の脚を持っていて、それをバタバタと地面に叩きつけながら高速で向かってくる。ここにゴキブリでも居ようものなら、彼を仲間として快く受け入れてくれることだろう。
 マリアは嶺二を目で追って、その頭が足元にやってきた所で踏みつける。

「寄るな」
「ゲばァ!?」

 前方に現れたドロレムは、体躯の一部をドロビィに変化させながら器用に体積を減らしてヌルの攻撃を躱している。しかしこれではヌルを倒せない。その様子を見たマリアはしゃがむと、嶺二の頭を掴み起こして言う。

「おい嶺二。なぜお前がやられている」
「ばっかお前! やられてなんかねぇ!」

 誰がどう見てもやられている。

「今ここにターシャはいない、もちろんイブソルニアも。この状況をどうすればいいのだ?」

 待ち侘びていた男がこの有様だ。しかも当の本人はこの状況を軽視しているのか、笑っているときた。

「へへっ。ドロレムがいればあんなやつ……」
「びゅりり!」
「びゅり!」

 戦っているはずのドロレムを形成しているドロビィたちが、彼の傍らに集まってくる。きょとんとした顔で嶺二は訊く。

「お前たち……何で」

 嶺二以外の者は既に分かっている。ドロレムのちぎれた体躯がドロビィとなって分解され、それらが行列を成して向かってきていることを。
 
「ドロレムはお手上げのようだ。……ほら、奴がこちらに向けて手を伸ばしているぞ? このままではドロビィたちが焼かれてしまうぞ? いいのか」

 嶺二のこめかみでゴロっと血管が浮いた時、彼を取り巻いたのは薄い赤色の霧。

「いいわけねぇだろ……いいわけが……」
「ふん……」

 マリアは口角を上げた。正体不明の赤い霧を纏う嶺二を見て。
 背後から不敵に笑ったのはローゼンだ。

「ふふっ。どうやら、私が待っていたものを見せてくれるようね?」

 ここにいる中で″彼女″の力を知っている者はいない。唯一可能性のあるローゼンでさえも、その時は気絶していたのだから。
 赤い霧がプチっと空中で弾けた。

「うらァァァァァァァッッ!」

 両手を押し出して跳ね上がった嶺二は、くるっと回転してカサカサとヌルに突進していく。
 マリアは目を輝かせ、這って進む彼の背中に向けて声を上げた。

「嶺二の本領発揮か!」

 それに倣って皆が期待の眼差しを向ける中、ローゼンだけが肩を落としてため息をつく。呆れたように額に手を当てて呟いた。

「はい、おバカ」

 今の嶺二には赤い霧も、精霊を連想させる力でさえも纏われていない。ただの人間が上半身で突っ込んでいく光景。精霊をよく知るローゼンにはすぐに分かった。
 彼女は嶺二を指さしてマリアに言う。

「彼、やられちゃうわよ?」
「何だと!? 嶺二の秘めたる力が発揮されているのではないのか!」

 雄叫びを上げながらドロビィの群れを突き進んでいく嶺二を、ローゼンはさらに示して言い返す。

「見たらわかるでしょう? ちなみに、嶺二くんが宿しているのは閃血の精霊といって、最強の精霊なの。でもその力を発揮できないことには意味が無いわ」
「閃血の……聞いたことがあるな。嶺二のやつ、そんな精霊を味方に……」

 そんなことを言っている場合ではないとマリアが気づいた時には、既に嶺二がヌルの手前で飛びかかるべく跳ねていた。
 今にもヌルの手から閃光が飛び出さんとしている最中、両者の間で地面が飛び上がる。ヌルは直前に飛び退いており、嶺二はゴミのように吹き飛んで帰ってきた。

「ごへっ!」

 すぐに肘を立てて身を起こすと叫ぶ。

「イブソルニアァァァ! てめぇ俺を殺す気かコラァ!」

 嶺二にはその一瞬で、地面を割ったのが誰の仕業であるか分かっていた。もちろん、その声を聞いて前方を向いたマリアたちも今に分かった。

「イブソルニア……ということは」

 マリアが空を見上げると、ターシャとシェミルが降下してきていた。

「れ、嶺二さん!?」
「……嶺二」

 嶺二のとなりに着地した二人。彼の姿を見た一人は慌てて治癒魔法を展開し、もう一人はその背中にしがみつく。

「……嶺二、だいじ無いか」
「よう、シェミルじゃねぇか。俺はこの通りピンピンしてら」

 この通りとは、血だらけの両脚が繋がっていく光景のことを示しているのだろうか。直後に嶺二の背中が仰け反る。

「いたたた! ターシャ、もっと優しく……いだっ!?」

 ターシャの丸い拳の底面が、嶺二の脳天を小突いた。

「終わりましたよ。早く立ってください」
「さ、サンキューな……ええと」

 そろりと立ち上がると、数々の怪訝な瞳が嶺二に向いている。彼は頭をかいて一言。

「へへっ、こんなはずじゃ……」

 言い切る前に、背後で轟音が鳴り響いた。嶺二は振り返ってすぐに目を見開く。

「お、おいあいつ……」

 倒れている者はヌル。それを見下ろすイブソルニア。前者はすぐに飛び起きてイブソルニアへ拳を放つ。両腕で受けた彼女は押し出され、踵で地面を抉りながら制動する。直後にヌルへ迫ると、それからは鈍い音を立てる連続の攻防。
 イブソルニアの顔面に拳が入ったかと思えば、同時にヌルの懐にも拳がめり込んでいる。攻守がほぼ同時に行われている光景を前に、まず狼狽したのはマリアとレラだ。

「イブソルニアが互角に戦っているだと?」
「さっきまでとは大違いですわ……」

 そこでアルバが言う。

「ヌルの攻撃を見切っている。避けきれないものは僅かに急所を逸らし、それも次の一手に繋げる予備動作の一部に変えているのだ。一度戦った相手の癖を把握する能力に長けているのだろう」

 感嘆の声を漏らす一同だが、嶺二は愉快そうに笑っている。

「へへっ……あいつ、やるじゃねぇか」

 彼が足を踏み出した時、マリアが止めた。

「待て、何をしに行く」
「決まってんだろ。戦うんだよ」
「お前は行くな、足でまといだ。イブソルニアの方が強い」

 ピキっと、こめかみが鳴る。

「お前、今なんつった……?」

 嶺二がマリアに視線を向けようとしていた最中、その視界の端で一瞬のこと。

「なっ……」

 激しい打ち合いの中、イブソルニアが嶺二を見て指を返した。「かかってこい」と言わんばかりに。

「待て嶺二!」

 ドゴンと地面が割れた時、既に嶺二の拳は標的めがけて引かれている。

「上等だコラァァァ!」

 衝突音と同時に、そこで地面が弾き出されたように舞い上がる。その拳を受けたのはイブソルニアだ。であれば、嶺二の標的とは彼女。イブソルニアに殺意を向ける嶺二とヌル。明らかにおかしい構図だ。
 イブソルニアが嶺二に向いたのをいいことに、ヌルが彼女の背中へ拳を放とうとした瞬間。

「どけぇぇッッ!」

 嶺二のもう片方の拳がイブソルニアのこめかみ直近を通過し、ヌルの顔面に入った。その衝撃にたまらず地面を転がり飛んでいくヌル……さて、対峙する青い瞳と、血走った瞳。

「イブソルニア……お前ちょっと気分がいいみてぇだな?」
「ああ。お前より幾分か強い者を見つけたのでな。久々に血がたぎっている」
「へへっ…………」

 嶺二の拳が風に切られ、血を噴いた。

「絶対倒すパンチィィィッッ!」

 イブソルニアは飛び退いてそれを躱す。空を切った拳によって生み出された風圧は地面の破片を舞い上げた。
 遠く背後から、マリアの声が飛んでくる。

「何をやっている嶺二! 味方と戦ってどうするのだ! とうとうバカがその域にまで達したか!」

 嶺二はその声に振り向くことなくイブソルニアを睨み続け、徐々に声音を強くして言った。

「バカは……死んでも治りませんでしたァァァッッ!」

 瞬間、地面が悲鳴を上げるように崩壊。軋む拳と歪む顔が対面していた。
 苦しげに歪んだ瞳で、イブソルニアが言う。

「ふははっ……いいぞ嶺二……我はお前の本気が見たかった」
「仰せのままに……!」

 嶺二がイブソルニアの顔面へ蹴りを放つ。鈍重な音はそれを防いだ彼女の片腕から鳴った。イブソルニアはその足を掴んで振り下ろし、嶺二の片足を地面に突き刺すようにして埋めた。

「おらァァ!」

 直後、蹴りあげるように地面を割って引き抜いた足はイブソルニアの脇に挟まれる。嶺二がすぐに拳を突き出すもそれさえ躱され、今度はイブソルニアが彼の顔前に片手を伸ばした。そこからは今にも紫電が放たれることだろう。

「ガァァァ!」

 そんなことはさせまいと、嶺二は大口開けてイブソルニアの手に噛み付いた。イブソルニアはその口内で下顎を握り、背後へ投げ放つ。
 簡単に転がっていった嶺二が立ち上がる頃、彼の背後でヌルの拳が迫っていた。
 ヌルの拳は嶺二の顔横をすり抜け。

「邪魔すんな!」

 彼の上げた右肘がヌルの顎を突き上げた。邪魔なものを放るように、嶺二はその足を掴んで遠くへ投げ飛ばす。

「かかってこいやイブソルニア!」
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