【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで

猫都299

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【夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで・上】

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 床に仰向けになる。幼馴染に見下ろされている。

「本当にいいの?」

 幼馴染で、当時仲のよかった男の子……タイチ君が確認してくる。相手の瞳へ、まっすぐに頷いて見せる。

「喪女だった人生を変えたいの」

 はっきりした声で伝える。

 外で雷が鳴った。雨音が酷く響いている。だから……私たちの会話は、一階にいる兄には聞こえないだろう。

 焦る心と、いっぱいいっぱいな気持ちで涙が出る。目の前の相手へ願う。

「手伝って」



 彼、タイチ君とは……この人生では今日の朝、登校中に再会した。

 家を出てすぐの細い坂道を下っていた時、後方から誰かの走る音が聞こえてきた。懐かしい心地よさにハッとする。振り返る前に、左肩を叩かれた。

「玻璃」

 普段は落ち着いた印象の声が、僅かに弾んでいる気配がある。振り向いて、彼の顔を見上げる。

 中学時代の男子の制服……紺のズボンと白のシャツという出で立ちで、私と同様に黒の鞄を持っている。やや茶色がかった黒髪は、サラサラで短め。前髪が少し長めで、目の上に掛かっている。


 私には過去に三人、好きになった人がいる。


 夫も含め、三人とも……私からの一方的な片想いだった。

 「タイチ君」は、二番目に好きになった人。幼馴染の間柄だった。

 今いる時間より未来で、たまたま再会した思い出がある。「あの時の彼より若い!」とびっくりした。「当然か」考えて微笑んだ。

 前世では高校時代から再会した日まで、彼とは疎遠になっていた。

 高校に進学した頃。私の家で二人で遊んだ際に「好きな人がいるんだ」と、言われたので身を引いた。私の恋は終わったと思った。私は「私も」と言った。「お幸せにね。もう会わないね」と、無理して笑顔を作った。つらくて寂しかったけど「彼」への想いを、私の中から閉め出した。彼女さんの邪魔になるのは、私の純愛ルールから外れる行いだから。


 思い返して、しんみりしてしまう。

「玻璃? どうした?」

 私の暗い心模様も、敏感に読み取って心配してくれる。余計に、胸が痛くなる。

 ……今なら。誘ったら、逆ハーレムに入ってくれるかな?

 そんな考えが、脳裏に過る。慌てて首を横へ振り、打ち消す。

 ダメダメ! それはダメ! 好きだったのは私だけで。彼は私の事を、何とも思ってないよ。この人はダメだ。もっと、自分のレベル上げをしてからじゃないと……。それに。彼には既に、好きな人がいるかもしれない。私じゃ太刀打ちできない……あっ。

 目まぐるしく思考している途中で気付く。

 彼に挑む事すらできない私のままじゃ、ずっと一生変わらない。「夫」は、今……目の前にいる相手どころのレベルではない。遥か遠い存在なのだ。怖気付いたらダメだ!

 私……昨日、自分の思想を変えるって決めたよね? これまで、純愛という理想を夢見ていたけど。私の欲しいものは、手に入らなかった!

 ゴクリと唾を飲み込む。

「タイチ君」

 改めて、幼馴染を見つめる。頼み事をする。

「大事な話があるから……今日の帰り、家に寄ってほしい。いいかな?」

 私の真剣さが伝わったのかもしれない。タイチ君の喉仏も、唾を呑むような動きをしている。

「い……いよ?」

 よかった。悪くない返事をもらえた。



 午後から雨が降った。私たちは、帰りが一緒になった。学校を出た際は、ふわっとした優しい雨だったのに。家に近くなる頃には、大分容赦がなかった。傘を持っていなかったら、大変な惨事になっていただろう。

 家に着いた。お兄ちゃんも帰っていた。二人分のタオルをもらった。タイチ君と私、それぞれ濡れた鞄や服を拭く。

「私たち、今から大事な話をするから。絶対に、二階には来ないでよ。お兄ちゃん」

 兄へ強く釘を刺し、タイチ君を引き連れて階段を上った。



「で、話って……?」

 自室へ入り、すぐに。本題を尋ねられる。

 タイチ君の……僅かに居心地の悪そうな、そわそわした雰囲気に気付く。私も意識してしまう。迷いを振り払う為に、はっきりと口にする。


「私、記憶がある。前世の」


 暫く……タイチ君に見つめられた。彼は目を大きく開いて……大層、驚いている様子にも見える。指摘される。

「え? まさか…………発症した?」

「中二病じゃないよ!」

 即座に、彼の言葉を切り捨てる。

 こんな大事な話をしているのに。お兄ちゃんの時といい、タイチ君といい……伝えるのむずいよ。

「好きな人に、私の事も好きになってもらいたい。前世は奥手過ぎたのと純愛にこだわり過ぎていたのもあって、好きな人に振り向いてもらえなかったの」

 俯いて説明する。

「だから。今回の人生では逆ハーレムを作って、自分の純愛志向を矯正したいと思ってる。前回の人生で好きだった人も、凄くモテる人でね。その……彼に挑む前に、自分に自信をつけたくて」

「いいよ。手伝っても」

 聞こえた返事に、目を開く。自分でも、何てお願いをしているんだと……居た堪れない心持ちだったので、こんなに快く応えてもらえるとは予想していなかった。

「え、あ……ありが……」

 「ありがとう」と伝えたかったのに、最後までお礼を言えなかった。肩を押されて、床に仰向けに寝かされる。視界に、天井が映る。幼馴染に見下ろされている。

「本当にいいの?」

 目を逸らさずに、頷く。

「喪女だった人生を変えたいの」

 外で雷が鳴っている。雨音が酷く響く。

「手伝って」

 言い切る。相手の喉が、息を呑むように動くのが見える。

 もう、どうなってもいい。半ば、やけっぱちになりつつ……決意を固めていた。
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