未完成な運命は仮初の星で出逢う

猫都299

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 立ち去ろうとするように背を向ける岩木さんに悪態をつく。

「これって願いを叶えるミサンガじゃなくて呪いのミサンガだろ。高額な壺を強引に売り付けられた気分だ」

「ああ」

 岩木さんはそう呟きながら岩に足を掛けた。僕が瞬きをしている一瞬の後、彼女は岩の上にいた。月の白い光に浮かぶ、こちらを振り返ってニタリとした顔。

「もちろん今日私と話した内容は口外しないように! ……由利花を守りたかったらね」

 笑みを消した冷たい瞳で一瞥を寄越してきた。踵を返し山のある方へと進む後ろ姿を呆然と見送った。

 あれ? 山の上の方が騒がしいような……。

 懐中電灯の光が幾つか見える。何かを捜すように動くそれらが段々山を下りて来る。
 まずい。先生たちに宿泊施設を抜け出した事、気付かれたようだ。

 あたふたしたのも僅かな間。迷っている時間はない。座った姿勢で腕に抱えていた由利花ちゃんの上半身を慎重に岩の上に下ろす。その横で自分も俯せに眠っているフリをする。

 先生たちが僕たちを発見し、僕らは背に負ぶわれて宿泊施設へと運ばれた。細い階段を数人の先生が一列になって上って行く。長い階段の途中で僕を背負ってくれていた担任の西宮先生へ話しかけた。

「先生……」

 あまり驚かさないようにとボソッと小さな声だったのに、先生の背全体がビクッと震えた。

「び……ビビったぁ! 鈴谷君、大丈夫っ? どこか怪我してない?」

 歩みを止めた先生に背中から下ろしてもらう。長身で肩まである髪を後ろで一つに縛った出で立ちの西宮一文先生。普段不健康そうな顔色をしている彼はこの状況のせいなのか、いつもより蒼白く見える。

「大丈夫です。すみません、ご迷惑をおかけして。僕、未神石を手に入れたくて。探しに行ったんです。笹木さんは僕を止めようと追いかけて来てくれたみたいで。悪いのは僕だけで、笹木さんは何も悪くないから怒るなら僕だけにして下さい」

「……っ」

 膝を折った西宮先生に両腕を掴まれた。目線を合わせて僕へ言い含めてくる。

「先生の注意を聞いてなかったのは二人とも同じだから、どちらにも先生の話を聞いてもらう。後できっちりとな」



 宿泊施設の一室に運ばれた由利花ちゃんはまだ目を覚まさない。
 修学旅行中彼女と同室になった女子たちが部屋の前で沈んだ顔をしている。僕も廊下の離れた場所から由利花ちゃんが目を覚ますのを待っていた。

 遠目に女子たちの中にあいつがいる事を知る。……岩木雪絵。どうやって先生たちにバレずに山の上にあるここまで戻って来たんだ? 由利花ちゃんを眠らせた元凶。
 僕の向ける険悪な視線に気付いた岩木さんがこちらを見て片方の口の端を上げた。小馬鹿にしたような笑いにムカッとした。

 僕と由利花ちゃんの為にしている事だと信じていいんだろうか。由利花ちゃんがこのまま目を覚まさなかったらと考えてしまいゾッとする。
 そんな事になったら岩木さんを許さない。岩木さんの言葉を信じた自分も。

 それに……ミサンガを左手首に結んでしまった後で大きな不安が押し寄せてきた。

 由利花ちゃんを好きじゃないフリしたら……由利花ちゃんは僕を諦めてほかの奴の所へ行ってしまうんじゃないかと。彼女には過去、両想いだった男が何人かいる。

 同じクラスの志崎大紀……。一度目も二度目も三度目の人生でも奴が由利花ちゃんに近付かないように邪魔した。三度目の、この人生では二人が付き合う事になって焦ったけど由利花ちゃんが二度目の人生での出来事を思い出し僕を選んで志崎と別れてくれた。物凄く嬉しかった。

 ……二度目の人生で、僕と由利花ちゃんは夫婦だった。子供にも恵まれた。でもそれは一度目の人生で僕が未神石に願ったから叶った事だ。

 三度目の人生でやっと……彼女が僕を見てくれたと思ったのに、こんな事になってしまった。

 そして絶対に忘れてはいけない透君の存在。一度目の人生での由利花ちゃんの伴侶。岩木さんと同じ『マスター』だと思う。

 ライバルではあるけどこの状況を相談したかった。岩木さんに口止めされてなければアドバイスをもらえたかもしれないのに。

 彼はまだ小学二年生だけど僕たちと同じように前の人生の記憶を持っているし、とてもしっかりした子だ。

 後は……由利花ちゃんの『初恋』だった沢野明良。彼も由利花ちゃんの事が好きだった。
 由利花ちゃんがアキラを好きだったのは一度目の人生で幼稚園に通っていた頃。二人が両想いになる事はなかった。今学年で彼女が志崎と付き合い始めアキラが落ち込んでいるのを知っている。今は気持ちの整理をつけ前を向こうとしているようにも見える。

 岩木さんの話では前の人生もその前の人生も……由利花ちゃんを好きだった奴が岩木さんの上司の縁者で、僕と由利花ちゃんが十八歳で結婚できなければそいつと由利花ちゃんが……。

「っざっけんな……っ」

 押し殺していた思いが抑えきれず、ごく小さく口から漏れた。その瞬間、左手首のミサンガが温かくなった気がした。

「……っ?」

 力が抜ける。ぼうっとする視界。廊下の床を虚ろに眺めつつ考える。

 ああ、ミサンガの効果か。

 願いを叶える補助で岩木さんが付与したらしい。感情の過多な部分を悟られにくく……って、こんな感じに抑えるのか。何かつらいな。

 どうせなら、このどうしようもない不安を抑えてくれればいいのに。

 僕から由利花ちゃんの手を放したら……十八歳になる前に……もしかしたらその後すぐ。

 ――僕はまた独りになる。

 片想いに戻って彼女がほかの男と結婚する様を、再び見ないといけなくなるのだ。
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