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3話

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 シロについて行って気づいたが、この学校は寮だった。なので、部屋から教室まではそこまで距離はなかった。
 教室に着くとシロは居なくなっていた。一人で知らない教室に入るというのはまるで転校生になった気分だ。恐る恐る扉を開けると、すでにほとんどの生徒がいた。遅刻しそうだったのだからそれも当然だけれど。コソコソと隠れるように教室に入ったら、色んな人に不思議がられた。自分の教室なのにコソコソと入る必要はない。それでも知らない所というのは緊張する。と、ここで重大な事に気づく。自分の席が分からない。ヤバいやつだと思われるかも知れないけれど聞くしかないな。
「おはよう。突然で申し訳ないんだけど、僕の席ってどこだっけ?」
 相手は不思議そうな顔をしながら、
「君はそこの席だろう?」
 と教えてくれた。親切な人で良かった。多分、僕の評価がヤバい人ってなってるだろうな。この世界は貴族階級っぽそうだから間違えて高貴な人の所に座ったら終わりだろう。あえて「何が」とは言わないが。
 座ってひと段落すると何人かが、挨拶をしてくれる。この体にも友人はいたんだな。ひとまず安心だ。ここで、ある事に気づく。名前を呼んでくれているのに名前が聞き取れない。名前以外はちゃんと聞き取れるし、会話も出来る。なのに、名前の所になると聞こえなくなる。いや、違う。何かを言っているのだけれど何て言っているかわからない。文字におこすのならば、「〇〇〇〇」という感じだ。ふと窓を見るとうっすらだけども自分が映っていた。その自分を見て、前髪が長い訳でもないのに目元に影が入っていた。これを見た瞬間に察した。この世界でも脇役なのだと。
 いきなり主役をやるくらいなら、元いた世界と同じような立ち位置の方が楽だとは思う。でも異世界転生をしたのなら、少しなからず期待をするものだろう。もしかして、なんて教室に入った自分が恥ずかしい。でも早くに知れて良かった。主人公なんて思いながら何日もすごすのは耐えられない。だから良かったと捉えるべきだろう。
 いつも通りに過ごして一日を終える。特別仲が良い友人がいる訳でもないらしく、頻繁に声をかけられなかった。一緒にお昼を食べたぐらいだ。その時も会話に困ったなんてことはなかった。授業も難なくこなせた。まるで今までが夢でこれが現実なんじゃないかって勘違いするくらいだった。でも、ふと瞬間に家族の事や友達の事を思い出すとなんとなく寂しい気持ちになった。
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