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4話

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 この学園に来てから数日間経った。ある程度の交友関係やヒエラルキーを理解した。まず、主人公であろう人は同じクラスのクラリスという女生徒だ。あくまで想定でしかないけれど、なんでも彼女はこの学校唯一の庶民出身なんだとか。しかも子爵であり、僕達の先輩にあたるエドワーズ・ルドルフさんと恋仲。まさしくシロが教えてくれたあの題名通りだ。しかも物語も終盤らしく、同じクラスのある生徒が苛められている。彼女の名前はアンジェリカ・メレンドルフ。エドワーズさんの元婚約者。庶民であり、婚約者をそそのかしたのでクラリスさんを苛めていたらしい。いかにも「悪役令嬢」っぽい感じだ。クラスメイトも便乗してクラリスさんを苛めていたみたいだけど、公の場でアンジェリカさんとの婚約を破棄してクラリスさんと婚約すると公表したら事態は一変した。クラリスさんを苛めていた人達は皆、標的をアンジェリカさんに変えた。今はまさにその真っ只中だ。
 貴族の学園でも苛めのやり方?は同じらしく、まさに絵に書いたような苛めを行っていた。彼女が教室に入ると話しをしていた人達が一斉に黙り、ヒソヒソと何かを話し出す。そして彼女の机にはゴミが置いてあり、教科書もボロボロだ。ようやく慣れてきて、余裕が出てきた僕は流石に耐えきれなかった。アンジェリカさんがゴミを拾っている時に僕も手伝った。彼女も含めクラスメイト全員が驚いた。クラスメイトの視線がアンジェリカさんから僕に移った。視線が刺さるとはこの事なのかと痛感した。数秒驚いたかと思ったら今度は僕に向けて何やらヒソヒソと話しだした。苛めの主犯格らしい人が近づいてきて、
「お優しい殿方ですこと。でも手伝わなくてよろしくってよ。全て、この女が悪いんですもの。自業自得ですわ。」
 皮肉たっぷりに言われた。生前の僕ならここで止めていただろう。しかし、人間は不思議なもので一度死んでしまうと存外、怖いもの知らずになってしまう。
「彼女がクラリスさんを苛めていたし、それは許される事じゃないけど、だからといって同じ事をしても良いって事ではないと思うよ。」
 口走ってから後悔する。でも無視するよりは良いのか?どの道、主犯格さんの逆鱗に触れたのは事実だ。
「素敵なお考えをお持ちなのですね。けれど皆が皆、同じ考えではありませんのよ。クラリス様がどれ程心を傷つけられたか、貴方にお分かりですの?」
 やっぱり皮肉たっぷりだ。蛇に睨まれた蛙の気持ちが凄く分かる。怯んではいけないと思いつつも次の言葉が出てこない。
「よくまぁいけしゃあしゃあと。貴女だってあの女を苛めていたではありませんの。」
 アンジェリカさんが反論した。漫画だったら二人の間に火花が散っているだろう。どうしよう、凄く逃げだしたい。
「それに貴方。」
 アンジェリカさんが僕の方を指して言った。
「助けてくださらなくて結構です。迷惑ですの。」
 キッパリと断られた。本人に断られた以上、僕にはどうする事も出来ない。それを聞いた主犯格さんはここぞとばかりにあれよこれよと言っている。でも何故か僕にはそれが本心のようには感じなかった。
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