puppenspiel

ゆにゆに

文字の大きさ
5 / 9

電車の旅

しおりを挟む
 仕事からの帰り道。いつもの様に電車に揺られていると、降りる駅を過ぎている事に気付いた。慌てて電車から降りると、見た事も聞いた事もない駅だった。

 勿論、存在する全ての駅を覚えている訳もないから、自分が知らない駅かも知れない。こう言う時こそ落ち着いて、乗り換え検索アプリで帰り道を調べれば良い──そう思い、スマホに指を滑らせてみるが…どうやら此処は、存在しない駅だった。

「…きさらぎ駅、かな?」

 自分ひとりしか居ないのだから、わざわざ声に出す必要もない。不安や恐怖から目を逸らす為、無意識に声に出してしまったのだろう。声に出した所為で、更に不穏な空気を感じている様な気がしてならないが。

 此処が本当にきさらぎ駅と似た様な場所だとすれば、どうすれば帰れるのか。火を起こせば帰れると聞いた事があるが…自分は煙草を吸わないから、火を起こす道具は持っていない。駅から出ると帰れなくなると聞いた事もあるが、ここでじっとしていれば電車が来るのかどうかも分からない。

「もしかして、詰んだ…?」

 こんな事なら某ちゃんねるにスレ立てでもしておけば良かったと思うが、スマホの充電が残り少ない。今から立ててもあまり書き込みも出来ないだろう。モバイルバッテリーを持ち歩くタイプではないので、充電がなくなればそこで終了だ。

 誰か周りにいないだろうかと辺りを見渡すが、そう上手く誰かがいるなんて事もなく。こうなったら暫くここでボーッとするかと、ホームに備え付けてあるベンチに寝転んだのだった。

──マ…ナク、イチ……ムヘレッシャガ…リマス。

 不意にそんな声が聞こえ、飛び起きた。今、何て聞こえた?「列車が参ります」?
 先程まで無人だったホームはたくさんの人でごった返している。どう言う事だと周りを見渡すと、大丈夫ですかと駅員から声を掛けられた。

「ええと、すみません。此処は何処でしょうか?」

 駅員にそう問い掛けると、普段はあまり使わないが聞き慣れた駅名を告げられた。どうやら自分はホームをふらふらと歩いている所を不審に思われ、声を掛けられる直前に倒れたそうだ。だとすると、先程までの事は夢だったのだろうか。ひとまず駅の救護室で休ませてもらう事になった。

 救護室へと連れられ、家族へと連絡をする為にスマホを取り出した。通話履歴が全て不在着信で埋まっている。何があったのかと不思議に思いつつも、駅で倒れたらしい事を伝える為に電話を掛けた。

『今何処!?何してるの!?大丈夫!?』

 初めて聞く狼狽えた声に驚きながらも、迎えに来てくれないかと駅名を伝える。すぐに行くから消えないでと妙な事を言い残し、電話は切れた。
 何故だろうかとスマホの画面を見ながら考えると、おかしな事に気付いた。昨日から1年経っている。と言う事は、アレは夢ではなかったのだろう。どう話せば良いのか考えながら、迎えが来るまでの間、救護室で少し眠らせてもらった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...