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一章
4.適性検査
しおりを挟むこの国にやってきて三日目の昼下がり、王命にて呼び出された陽貴は広さ十二帖程度の部屋に居た。
そこには三人の司祭。うち一人には見覚えがある。
「お待ちしておりました。勇者様」
「スイレンさん…でしたよね」
「名前を覚えていただけるなんて光栄に思います。ハルキ様」
スイレンは相変わらず性別を感じさせない美しさで、彼がいるだけでこの空間の空気が浄化されている気がする。
それにしても司祭が三人もいるところに呼び出されるなんて一体何が始まるのだろうかと思案する陽貴にスイレンは微笑みかけてその場からどくと彼のいた場所の後ろには六つの水晶らしきものが並べておいてあった。
「ハルキ様には適性検査を受けていただきます」
「適性検査?なんのでしょう」
「魔法の属性です。歴代の勇者様はそれぞれお持ちの適性が違いまして、適性が違えば使える魔法も違いますので、講師をつけるにあたって検査が必要なのです」
講師を頼んだ覚えはないのだが確かに魔法に関しては当たり前だが無知であるし、自分の身を自分で守るには魔法の知識がないわけにもいかない。
「右端から水属性・火属性・土属性・雷属性・光属性・闇属性の検査用魔法石になります。勇者様は基本光魔法の適性が一番高いはずです。闇魔法は光魔法に適性がある場合必ず適性が出てきますので力が強い方はこの制約魔法を施したロザリオで封印いたします」
そういうとスイレンは首元にかかったロザリオを持ち上げてさらに言葉をつづける。
「闇魔法は精神や身体に大きく影響を及ぼす禁忌の魔法が多くありますので、基本的に使用はしません。しかし陛下の許可を得た場合にはその限りではありませんし、対魔族の場合相手が使用する可能性がありますので必ず知識は入れておいてください」
「そうですかわかりました。それで俺はどうすれば?」
素直に聞き入れた陽貴にスイレンは少し黙り込み静かにロザリオを下ろす。
「ご理解ありがとう存じます。まず一番右端の魔法石に触れてください。適性があれば魔法石が水色に光るでしょう」
魔法石と呼ばれたその石はハルキの拳より1回り大きいくらいで、そっと掌をおくと強く光り輝いた。
あまりに強い光だったので直接太陽を見た時のように視野がおかしい。
「う…こんなに強い光…さすが勇者様ですね。勇者様は水属性をお持ちのようです」
「そうですか。とは言っても全然そんな感じはしないんですけどね」
「基本的には適性検査の魔法石はそれほど強く光ることはないのです。適性の高さも測れるよう一般的なレベルであればランタン程度の明かりになるのです。ハルキ様の場合かなり適性が高いですね」
確かに一般的にランタン程度の輝きであればあの輝きはとても強いと言えるだろう。
自分が特別と言われても全然そんなふうには思えない陽貴ではあるが、勇者として召喚された人間が普通の能力しかなければ目も当てられないので納得はしてしまう。
「歴代の勇者様は複数属性を持つ方も多かったと聞きますので、順番に触れてください」
「わかりました」
二つ目、三つ目と水晶に触れていくたび場の空気は重くなっていくのを陽貴は感じていた。
四つ目の水晶も強く輝きを放った瞬間二人の祭司の表情に恐怖が浮かぶ。
「歴代の勇者もせいぜい二、三種類の適正だと書物には書いてあったのに…こんなことあり得ない」
その表情はまさに『化け物』を見る目であった。
「歴代最強の勇者様が私達の代でお越しになられるなんて…これなら魔王討伐もできるかもしれません」
一人喜ばしげに声を上げたスイレンは崇拝するように陽貴に向かって手を組み目を伏せた。
陽貴は畏怖の感情も崇拝も全て他人事のように何も言葉を発することなく、光魔法の魔法石に触れたと同時に強い光と共に砕けた。
正確には触れようとした瞬間水晶はその場で目も開けられないほどの強烈な光を発して、陽貴の手が触れた瞬間粉々に砕け散ったのだ。
「…今何が……起こったのですか」
「こんなことあり得るはずがない、魔法石が割れたことなんて歴史上一度だって…!」
「あぁ…神よ…ついに我らに勝利と安寧をもたらしてくださるのですね…!!歴代で最高の能力を持つ勇者様が来てくださった今我々は救われるでしょう」
畏怖も崇拝も全てに等しくどうでも良い。
そう言っているかのように陽貴はただ砕け散った水晶を眺めていた。
「最後ですよね」
「ええ!陽貴様の場合光魔法の適性が規格外ですので闇魔法の適性も強く出るでしょうが安心してくださいね。先ほども申し上げましたとおりロザリオがあれば闇魔法は封印することができますので」
闇魔法が封印できるかどうかは陽貴にとっては気になる箇所ではないがルサレレム帝国が闇魔法が多いとのことなので敵対意識からくるものだというのは安易に想像が付き、それに対しては微笑むにとどめた。
「では触れますね」
そう言って陽貴はゆっくりとした動作で水晶に手をかざすが先ほどのような光はない。
そのまま手を乗せるとひんやりとしたそれに手のひらの熱が奪われた。
「…光らない」
それがどれくらい異例のことなのかはわからなかったが司祭の様子を見れば稀にあることではなさそうなことだけは陽貴にも分かった。
「やはり勇者様になると普通の人間に当てはめてはいけないのかもしれません」
「しかし…そんな事あるわけが…」
「…神子と我々を一緒に考える事が間違っているのでは。…おそらく勇者様の思考全て崇高である、ということでしょう」
どんな反応をしていいのかわからないまま曖昧に微笑むとスイレンはさらに熱っぽい視線で陽貴の前に跪いた。
それを慌てて止めようとかがみ込み手を差し伸べるがスイレンはそのまま床につく勢いで頭を下げた。
「スイレンさんやめてください。ほら立って」
「ハルキ様、我が命は貴方のもの。誠心誠意お仕えさせていただきます。何卒この国をお救いくださいませ」
「スイレンさん、顔をあげてください。俺はそんな大層な人間ではありません。俺は魔王を討伐するつもりはないんです。貴方の気持ちには応えられない」
陽貴がそういうとスイレンは悲壮感を漂わせながら震える声で問いかけた。
「なぜ…」
「俺はこの国のことを何も知らない。そしてもちろん魔王のことも。俺はここにきたばかりでこの世界の実情を知らないから…貴方たちの言い分だけでは決められない。戦わなくて済むなら戦いたくない」
再び落ちた沈黙の中、一人の司祭が握りしめた拳で机を叩きつけた。
その司祭は怒りに満ちた表情で陽貴を睨みつける。
「…っ戦わない勇者など意味がない!なぜそれほどの力がありながら救いの手を差し伸べてくれないんだ!!」
「呼び出したのは君たちで俺の意思はそこにはない。なぜ君たちが嘘をついていないと確信できるんだ?本当に君たちが被害者なの?…なんて言ってもしょうがないか。ごめんね。召喚された勇者がこんな薄情者で」
そう言った陽貴の表情からは言葉から受けるような嗜虐感も憤りも何も感じなかった。
ただ淡々とした表情で怒りを向けてきた司祭を見ている。
「ーーーっこんな人間が勇者だなんて…そんなわけない。こいつは偽モノに決まってる!」
「やめなさい。勇者様のいうことにも一理あります。我々は神の慈悲のもと勇者様を召喚するのです。本来は我らが神に選ばれた勇者様にお願いをすることすら烏滸がましいことなのです。身の程を知りなさい」
「そうです…彼のいう通りです。神に選ばれた勇者様は間違えない…。彼は全人類に等しく平等でありたいとそう…そういう美しいお心をお持ちなのです」
動揺した様子を隠しきれないまま、なかば自分に言いにかせるように諭したスイレンは貼り付けた微笑みで陽貴に再び頭を下げた。
それに倣うようにもう一人の冷静な司祭も膝をついて首を垂れる。
異様なほどの忠誠心になんと言葉を返していいのかわからないまま陽貴は俯くと小さく顔を上るよう再び促した。
「その美しい心根に賞賛の意を込めて我々は勇者様のご意志を尊重いたします。
我らが慈悲を与えるに値する人間であれば何卒ご慈悲を頂戴したく思います。あなた様の未来が輝かしいものであるようお祈り申し上げます」
「勇者様の歩む道が幸多きものでありますようお祈り申し上げます」
言葉にできない胸の混沌は静かに陽貴の身の内に溶けていった。
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