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三章 二人だけの世界
75.説得②
「この森自体に...」
当たりを見渡そうとも明らかにおかしい箇所は見当たらない。
どうしたものかと頭を抱える皆を見ながら、足を止めて背後を振り返った時、遠方に見える一番背の高い大木を見て進路が無意識に左に逸れていたことに気がついた。
試しにそのズレを修正するように進むと気がついたスズが怒気を含ませて叫ぶ。
「ちょっと!ぼくのマジックエリアから勝手に出るなんて、何を考えてるんだい?」
「進行方向がズレています」
「え?そんなはずは...」
「あの1番背の高い大木を見ていただければ分かります。あの木、この森に入ってすぐのころは左にあったんです」
その言葉に三人は目を見張り当たりを見渡すとその大木を見て顔を合わせる。
「君、魔法が使えないんだよね」
「はい」
「見た限り少ないとは思っていたが、まさかそれはなんの調整もしていない魔力量なのかい?」
「調整⋯?」
「分かりやすく言うなら魔力がないんですか?」
「ええ。そうですが...」
正確にはどう頑張っても魔法は使えないと言わしめるほどごく少量であるが、魔力は存在する。
けれど魔力ゼロと言う人間は生まれないようなので極めて珍しいらしい。
基本的に生活魔法を使うレベルの魔力は庶民でも持ち合わせているので、貴族でそれほど魔力を持たない人間と言うのは自分以外に見た事ない。
学がなく使えない子などはいるが魔力が無くて使えない人間というのは珍しいのは事実である。
両親が魔力がある中どうすれば魔力無しが生まれるのかと思うものの、両親よりも弱い魔力の子もいれば強い魔力を持つ子もいるので、それのかなり下ぶれと考えるとおかしくは無いのかも知れない。
「⋯もしかして魔力が少ない人間は直接的に肉体に作用する物理攻撃以外の精神干渉系魔法は影響を受けにくいのか?」
「先程も異変に気がついたのはノヴァーリスでしたわね」
「⋯そうなのでしょうか?正直よく分かりませんが⋯」
魔法に関しては本当に今まで学んだことがないので、子どもでも知っているような事を知らない可能性まである。
難しいことを問いかけられても曖昧に答えることしか出来ずそう答えてた時その場の空気が変わった。
先程まで聞こえていた木々の擦れる音などが一気に聞こえなくなり、その場が静寂に包まれる。
「ーーっ」
慌てて後退るとスズが不思議そうにこちらを見ていて残り2人も同様に訝しむ表情を浮かべている。
「一体どうしたんだい?」
そう言ってスズがノヴァーリスより前に足を踏み入れて、足を止める。
「ーーーー、ーーーーーーーーーーーーー」
振り返ったスズの口が何か訴えているが、こちらには何も届かない。
「声が聞こえない」
「いま、スズさん、お話していらっしゃいましたよね」
同様にこちらの声も届いていないらしく、スズが首を傾げてこちらに向けて『来い』と手招きする。
ランツィとスイレンはそれに倣って足を踏み入れて驚きの表情を浮かべたり納得したように頷いているのが動作だけで察せられた。
ノヴァーリスも再び足を踏み入れると皆の声が聞こえるようになって、ここが何かしらの領域を仕切る場所だと理解した。
「どうやら屋敷側にも仕掛けをしてあったようですね」
「こちらは領域そのものを認識させないような仕掛けか、音が遮断されることも加味するともっと複雑なものだね」
「いずれにしても国家施設顔負けの防犯システムだと言えるのは間違いないですわ」
少し離れたところに先日門前まで訪れた屋敷がある。
無意識に喉を鳴らした時ノヴァーリスの足元に見覚えのあるそれが敵意を持って飛んできた。
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