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三章 二人だけの世界
76.説得③
四人の視線がその火球を打ち込んできたであろう相手が居る方向に吸い寄せられる。
感情を削ぎ落としたような無機質な顔に怒気をそがれて、黙り込んだノヴァーリスやランツィ、スイレンは静かにシュオウを見つめた。
「何をしているんだい!君は!仲間も見分けられなくなったのかい?」
「次、この場に現れたら命は無いと思ってくださいとお伝えしましたよね。そんなに死にたいのですか?」
声を上げたスズは勿論、他の二人のことも眼中に無いと言わんばかりに視線すら配ることなくノヴァーリスに笑いかけるシュオウは、その笑みを嘲笑に変える。
「ああ、それとも前回のような優しい言葉では理解できませんでしたか?ハルキにはあなたが必要ないと言ったのですが」
「……っ」
「ハルキはあなたに助けて欲しいなんて欠片も思っていないんですよ」
その言葉に込み上げてきた気持ちを形にする言葉は【怒り】【悲しみ】【自尊心を傷つけられた不快感】。
煽られていると気がついているのにノヴァーリスは思わず歯を食いしばった。
とても不愉快な言葉は思考を乱す。
それは戦闘になりうるこの場では避けるべきことだと、自分に言い聞かせて真っ直ぐにシュオウを見つめ返した。
この様子の変わってしまった友人を救い、己の英雄を救い出すために、自分が正しいと信じて。
「この目で確かめるまで、信じないと私は決めている」
「そうですか。あの門はくぐらせないと言ったことをお忘れのようだ」
一触即発の中スイレンは眉根を寄せてシュオウを見つめ重々しく口を開く。
「彼は本当に洗脳されているのですか?」
「なに?」
信じられない言葉にノヴァーリスがスイレンを見るが、その言葉を受けたほか二人が黙り込んでいる様を見て言葉を失った。
「洗脳?まさか、そんなふうに思われていたとは心外ですね」
嘲笑うようなシュオウの声に、混乱に苛まれた。
洗脳でないのならどうして彼は自分たちを拒み、ハルキを監禁しているのか。
あのような尊厳を奪うような手枷や足枷、そして魔力封じの首輪。
大きな男の手がその首を絞めるあの映像の犯人がシュオウだと言うのか。
「分からないのなら教えて差し上げましょう。人間は分かり合える大衆の普通の人間と、分かり合えない異常な人間がいるですよ。僕のように」
「…………な、ぜ」
「まさか僕が洗脳されているから異常だと思っていたなんて。さすが絵本の主人公のように清廉潔白なノヴァーリスですね」
その【主人公】という嘲笑を含む言葉に苛立ちが募る。
まるで自分とノヴァーリス生きている世界が違うとでも言いたげな明確な一線。
「……正気になりなさい。シュオウ。あんなことをして許されるわけが無い」
「僕は正気ですが?ほら、分かり合えない。僕達は同じ人間という姿形をした別の生き物なんです」
シュオウの言葉は嫌に耳障りな言葉であること以外何も分からなかった。
これが彼の言う【分かり合えない】だと気がつくことは無かった。
「僕は殺されなければ止まりませんよとお伝えしましたが?」
前回は作り出していた剣を今回は腰に帯刀していて、それを引き抜いてこちらに刃を向ける。
まだこちらに明確な殺意は感じないものの、いつでも躊躇いなくその刃を振るうとひしひしと感じる威圧感がある。
「何故僕たちを拒むんだい?」
スズの少年のような高い声が殺伐とした空気を少しだけ緩和したのもつかの間、シュオウの空気がグンと温度を下げる。
「誰にも奪われるわけにはいかないんです」
「……は?」
「ハルキには僕だけいればいい」
「君は良くてもハルキは良くないと思うけどね」
スズの言葉に表情を崩すことなくシュオウは口を開く。
「なんにせよ、あなたたちがハルキを助けたいのなら僕を殺してからにしてください」
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