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しおりを挟む朝目が覚めるとなんだな今日は世界が眩しく見えた。
珍しく目も冴えている。
いつもより20分も早く起きれたのでそのまま洗面所に向かうと妹と鉢合わせた。
妹は私服を着ているのでこれから遊びに行くらしい。
驚いたような妹を横目に会話もそこそこに顔を洗う。
俺が早起きしたことなどどうでも良さそうに『準備終わったよ、だーりん』と猫なで声で電話して出ていったので彼ピにでも会うのだろう。
我が妹ならリア充が過ぎる。
とはいえ今日から…いや、実際には1週間前から俺もリア充の仲間入りをしている。
気分が乗ったので軽くワックスをつけてオシャレをすると母親からたいそう驚かれて『あんたは本当によく見ればイケメンなのよねぇ』としみじみ言われて玄関を閉められた。
俺も今から出るんだが。
無意味に閉められた鍵を開けて外に出ると今日も快晴。
あまりの天気の良さに思わず目を細めた。
「……あっつ」
思わず漏れ出た声に注意を惹いたのか草むしりをしていた隣の家のおばあちゃんがこちらを見た。
「まぁまぁ…そーちゃん?あら。昨日までそんな男前だったかしら…?1日で随分な男前になって…」
そんなわけが無い。
人間の顔は1日でイケメンに変化したりはしないのだ。
元からこの顔ですおばあちゃん。
それにしても母も隣のおうちのきみこおばあちゃんも言いたい放題すぎる。
「きみこばあちゃん、俺は元からこの顔だよ」
「あら……そーちゃんは髪型で一気に垢抜けるのねぇ…」
「そう?まぁ…ありがとう。じゃあ学校行ってくるよ」
「はいはい。いってらっしゃい」
駅周辺から視線を多く感じるようになって、電車の中に入った瞬間いつもとは違う熱量の視線に気がつく。
やたら女子中高生に見られている気がする。
髪型だけでそれほど垢抜けるものなんだろうか。
正直鬱陶しい視線にうんざりとしながら脚を組むと小さな声で叫び声が一瞬聞こえた。
電車の中では静かにしような。
推しの動画か何か見ているんだろうが、電車は公共の乗り物なのでそういうのは良くないぞ。
やたらザワザワとしている車内も慣れればなんてことはなく無事最寄り駅につき、学校に向かう。
そこでミヤの背中を見かけて大股で近寄るとその肩をぽんぽんと優しく叩く。
振り返ったミヤのほっぺたに俺の人差し指が埋まりその頬歪んだのを見て可愛くて何度もつついた。
「おはよ、ミヤ」
「ーーーっそ、蒼先輩…」
「…おはようは?」
「お、おはようございます」
朝からミヤの驚き顔が見れて頬が緩む。
表情豊かで可愛いやつだ。
そして今日はなんだかいつもよりそわそわしている。
「えらいぞ。朝は挨拶からだからな」
「蒼先輩今日は早いんですね…!?」
「ん~、早く起きたから。髪もセットしてみた。ど?かっこいい?」
「えっ」
何故か後ずさられたので1歩近寄るが、また後退りをされる。
なんかの遊びだろうか。
「え?じゃなくてさ、どう?」
そう言って首を傾げた瞬間にワックスで纏めていた前髪が1束顔にかかった。
邪魔だったので再度指で整え耳にかけると周りから黄色い歓声とどよめきが起きた。
こんなに騒々しいということは今日はもしかして俺が知らないだけで有名人のイベント配信かなにかしているんだろうか。
「えっ、と…かっこいい…です」
「ふっ…だろ?お隣のきみこおばあちゃんにもそーちゃんイケメンになったねって言われてきた」
「…蒼先輩は毎日かっこいいと思いますけど」
その言葉にミヤは笑いながらそう言ってうつむく。
「…なに?もしかして今口説かれてる?」
「く…?!いや、そうじゃない、って言うか。蒼先輩今日どうしたんですか!?そんな髪整えたりとか…ほっぺたつんつんしてきたりとか…」
「ん?いや。特に意味は無いけど」
普段そんなに色んなこと考えて生活していない。
気分が乗れば髪も整える。
普段は睡眠欲に負けているため未セットなだけだ。
「俺明日は講習も部活もないんだけど、ミヤはある?」
「ないです」
「じゃーさ、デートしようよ」
「で!?」
ミヤは何でもかんでも驚きすぎでは無いだろうか。
付き合っているのならデートの一つや二つするに決まっている。
「やだ?」
付き合っていても気分に乗らない日もあると思う。
それなら仕方ないなと思いつつも、せっかくの休みだしミヤと2人で遊んだこと無かったし、遊びたいなぁと言う気持ちが消えない。
自然と首を傾げて『おねがい』の顔をしてしまう。
「……ぅ…その、『やだ?』って聞くのやめてください…」
「なんで?」
「…………負けちゃうからです!!!」
「……なにに?」
今の話のどこに勝ち負けの話があったのだろうか。
ミヤも結構不思議ちゃんな気がする。
「ねぇ、やなの?」
「嫌じゃないです…」
なぜそんなに負けたような顔をしているのかよく分からないがどうやら遊んでくれるらしい。
嬉しくなってその可愛い頭頂部にキスをするとミヤは後退りをして頭を押えていた。
モグラ叩きのモグラみたいだ。
「ミヤってもぐらみたい」
「モグラ…?」
「うん。可愛い」
突然の騒々しい周囲のノイズをカットすべく近寄るとミヤはまた後退りをして、足元の花壇に躓いた。
そのまま倒れると今綺麗に咲いている花達が潰されてしまうので慌ててその手を掴むと思いの外、易々とその身体はこちらに戻ってきた。
むしろ引く力が強すぎたみたいで俺の胸に鼻をぶつけたらしいミヤが鼻を押さえている。
「ごめん。痛かった?大丈夫?」
「大丈夫れす…すみません…ありがとうございます」
「ううん。所で今のなんの遊び?」
「……なんの遊びとは?」
「俺が近寄ったら1歩後退る遊び?」
ミヤが俺から逃げるなんてことはありえないのでそう考えたのだけどミヤは困ったように視線を不自然に動かして少々視線を下げる。
なにやら言いにくそうなので俺は少し考え込んで質問を撤回した。
「まぁいいや、その遊びやめよ?逃げられてるみたいでやだし」
「ーーーうう…!何その顔……ごめんなさい…」
「いいよ。遊ぶならもっと楽しい遊びにしよう」
そんなことを言ったけれどどんな遊びがいいか全く思い浮かばないでいた時ジャンケンしている生徒を見て電撃が走った。
ビスコとかいいかもしれない。
「ビスコは?」
「え?ビスコ?」
「知らない?ジャンケンして勝ったら進めるやつ」
「先輩、それグリコです…っ」
渾身の力を振り絞るようなミヤの言葉に俺はまたしても電撃を受けたように固まった。
そうだ。グリコだ。ビスコはお子様むけお菓子だ。ビスコではない。
「グリコか!間違えた…」
「まって…可愛すぎる……先輩…まって」
「…???」
待ってと言われたので待つが何を待つかが分からないので一旦ミヤの悶えている姿を鑑賞することにした。
笑っているみたいで肩が震えている。
可愛い。
「…ふぅ……先輩、今ここでちよこれいと、とかしようとしてるの?」
「うん」
「さすがにそれはギャップで風邪引く子が多いかもしれない」
「俺のギャップなんてスロープくらいないよ」
「間違いなく3階建ての学校くらいはあると思いますよ」
それはもはや風邪ではなく骨折レベルの大惨事じゃないのか?と思わなくもないが俺のことなんてそれほど気にされないだろう。
なんと言ってもよく見ればイケメンの足が速いオジイイケメンである。
俺よりもイケメンはその辺にゴロゴロいることだろう。
「今日の先輩モデルさんみたいですもん」
「お立てすぎだ。それに俺ミヤだけ気に入ってくれたらそれでいいし。他の人がどうなっても関係ない。風邪ひかせとこ」
「…………あぁぁ…蒼先輩が蒼先輩過ぎるのになんでこんなにめろいんだ…」
めろいはようやく最近覚えた流行り言葉だが、とにかくなんかいいってことしか分からん。
まぁミヤがいいと思っているのならそれでいいような気もする。
「俺、めろい?」
「ーーーほんとそういうとこ!」
「ありがとう」
多分褒められているので礼を言うとシャットアウト出来ないくらい黄色い声で『可愛いすぎる』だの『めろ男じゃん』だの『だから綾野くんかっこいいって言ったじゃん』だの聞こえてくる。
もう少し声を抑えて話してはくれないだろうか。
ミヤの声が聞にくい。
「……ふ、楽しみだな明日」
そう言ってその頬を両手で撫でると真っ赤な顔のミヤが小さく頷いたのだった。
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