思いオソレリ

夜行回

文字の大きさ
1 / 8
1、一章

1、1体験入部にて

しおりを挟む
 高くなった日差しが落ちていく頃。放課後の調理室にて多くの生徒が集まり野菜を切ったりイモをゆでたりしている。

 ゆで上がった野菜たちにカレールーを入れて、そのスパイスの香りが調理室内を満たしていた。

「いい香りだ」

「そうですねえ」

「お互い体験入部だけど。篠原、俺とでいいのか?」

「いいよー。颯太くんなんか手つきが慣れてたし、油入れる時とか」

「それは慣れ関係なくない?」

「そんなことないよー。なんか広がり具合がね、なんか良かった」

「わからん。けどまあ、褒めてもらったしいいか」

 俺の隣にいた穏やかな顔の学生が玉ねぎをみじん切りにして、俺の前のフライパンに入れた。

「鍋でやった方が楽じゃない?」

「玉ねぎを炒めるのはフライパンの方が水分が飛びやすくていい具合になる」

「へー。颯太くんは物知りだねえ」

「母さんに習った程度だけどな。篠原だって結構みじん切り上手くない?」

「うん。包丁を研ぐところから始めましたのでー」

「んな悠長な。でもありがとう」

 俺はコンロのひねりに手をかけた。やや汗で滑ってしまう指の照準を合わせる。フライパンを持つ手にも力がこもった。火だけは苦手だった。

「ここまでは覚えているんだけど……」

 ひねりを回して、クリック音がした。家では電子コンロのためにいつもより緊張している。ガスの流れる音がして。

 ボッ! 

 火のつく音がした。コンロの中に青い火が見えた。その音だけで視界が真っ白になる。耳の奥で山火事の音が聞こえる。降り注ぐ火と枝、地面いっぱいの葉が燃え盛り、ゴウゴウと大きな音を立てて。

 お願いしてごらんと言う声。

 俺の手が止まり、体が震える。

「颯太くん! 颯太くん!」

 誰かが俺の手に触れて、フライパンから手が離れた。強く握っていたと思ったのに、簡単に引き剥がされる。

 そして、目の前には火が燃えていた。フライパンの中にあの時と同じ赤い炎が。

「うぅぁぁ!!」
 
 近くにいた先輩が慌てて消化器を持ってきて噴射する。

「大丈夫?」

 俺の怯えように、優しく声をかけてくれたのは篠原だ。側にいる先輩や同級生たちも心配そうに俺を見ている。

 体験入部すらもできない俺は手の火傷を抑えて、その場に謝罪をするしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...