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導入編

side:ウィリアム

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いくつもの露店が並び、がやがやと賑わう通りを、私、ウィリアムは心躍らせながら歩いていた。
多くの人が行き交い、活気がある街だということがうかがえる。
「すごい、たくさんお店があって、次々目移りしてしまうな。」
きょろきょろして歩く私に、少し後方を歩く彼から声がかかる。
主様あるじさま、しっかり前を見て歩きませんと、この人混みではぶつかって転んでしまいます。」
声の主に目をやると、私よりも頭一つ分は背が高く体格の良い私の従者が心配そうにこちらを見ていた。
それはまるでご主人様の様子を窺いながら散歩をする大型犬のようで、そんな健気な態度が、彼の大きな身体といかつめの強面にギャップを生む。
そんな彼を見て、私は思わずくすり、と微笑んでしまう。
「ヴァン、私はそんなに子どもでは……っと」
後方を見て歩いていたせいで前から来た人とすれ違いざまにぶつかってしまったようだ。
少し後ろに傾いてしまった身体を、ヴァンが危なげもなく支える。
「ウィリアム様、大丈夫ですか?」
見上げると、心底慌てたような顔がこちらを見下ろしている。
私の両腕は彼の大きく頼もしい手がしっかりと握っていた。
「すまない、助かったよ、ありがとう。」
これは私の不注意が原因だというのに。
彼は本当に私に甘い。
何があっても守ってみせるといった信念が、その真っ黒な瞳から伝わってくる。
そんな彼に私はいつも甘えてしまうのだ。
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