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29話ー『正体不明の暗殺者』
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「今晩の宿を借りたいんだが、空き室はあるだろうか?」
ミントと共に再びルナイトキャットの受付カウンターへと訪れる。
そこにアランの姿はもちろん見えないが、大人びた雰囲気のバニーガールが代わりに立っている。
黒髪のポニーテールに、ふわりとした丸いウサギの尻尾。
目つきの悪いキレ長の青い瞳が、俺たちの来訪に気がつくとスッと細められるのが見える。
(何から何まで、さっきと同じシチュエーションだ……)
ーーだが、今回は前回とは異なるルートを選択した。
ミントの告白と言う死亡トリガーを回避した状態で、再び宿を借りようと言う状況だ。
革袋から銀貨を取り出し、カルトンの上へと置く。
それを見ていた目つきの悪い店員さんが、「チッ」と舌打ちして受付業務に取り掛かる。
「さっさとアンアンして来い。エロスケ共」
「しねえよ!!」
訂正しよう。
どうやら俺とミントの今後の行動が、彼女にはお見通しではないようだ。
「あんた誰に対してもそう言ってるだろ!!」
「だって宿を借りようなんて、そういうことじゃないんですか?」
「ちげえよ!!」
俺にそう言われて目つきの悪い店員さんは、ことりと小首を傾げる。
まるでしないほうが不自然みたいに、どこか訝しんだ態度だ。
「あなた達、人間ですか?」
「あんた人間をなんだと思って見てるんだよ!?」
「隙あらば交尾に勤しむ猿ですけど?」
そう言って目つきの悪い店員さんは、「ハッ」と鼻を鳴らしてほくそ笑む。
邪悪な笑みが張り付いているのに、クールービューティー感満載で美しい。
それに半分ぐらいは間違ってない辺りが、なんだか言い返しづらくて困るのだ。
「お前もその猿の一人なんだけど」
「ウキー!!」
ムキになって胸からバナナを取り出した店員さんは、皮を向くと憤慨した様子で食べ始めてしまう。
「やっぱ猿だわ、あいつ……」
そう言って俺は彼女を放置し、ミントと共に脇の階段を上がって行った。
★
ギシギシと軋む木材の床。
階段を上がってすぐの踊り場では、廊下は木製で、両端には無数の扉が見えている。
そこから伸びる一本道の廊下の突き当たりに、一番最奥の部屋が見受けられる。
「それにしても、告白を断られたばかりだって言うのに、随分とケロっとしてるんだな?」
そう言って俺がミントに尋ねると、ミントは不思議そうに目を丸くする。
「だって別に、私がターニャさんを諦めない限りは、恋はいつでも無限にしていられますからね?」
「なんだ、結構思ったより元気じゃんか?」
告白を断ったことで、元あった友人としての関係性が壊れるんじゃないかと心配していたけど、案外そんな様子もなさそうでホッとする。
「意外とメンタル強いんですよね~、私って」
「確かに、なんたって2番でも良いって言うぐらいだからな?」
そう言うとミントは、小首を傾げて再び目を丸くした。
★
シングルサイズのベッドが、ちょうど二つ分並んでいる部屋の入口隅には、観葉植物が置かれていてアジアンな雰囲気を醸し出していた。
ベッドの中間に置かれた木棚の上では、ゆらゆらと揺らめくアルコールランプの灯火が見えている。
暖色で満ちた室内は薄暗く。
普通に寝るには、ピッタリのシチュエーションだ。
カチャリと施錠をして一呼吸。
これから寝ようと言う俺は、真っ先にベッドの上で仰向けになり、大の字になって寝転がる。
その横のベッドにちょこんと腰を落ち着かせたミントは、
「そう言えば、ターニャさんって女の子なんですよね?」
「うん、まぁそうみたいだな……」
「どうして姿を隠しているんです?
せっかく可愛らしいのに勿体ない……」
「まぁ、俺がこの姿のほうがやりやすいからかなぁ」
「ふーん、それって男の子になりたい的な?」
「まぁ何かと、男の姿のほうが便利だってことだよ」
そう言って俺は、首にかけられた“変わるくん”に手を触れる。
先端にハート型のアクアライト鉱石がついている、カメラ内蔵型のペンダント形魔道具。
「いつかこの代金、ちゃんと支払うよ」
「あっ、そのペンダントだったらあげますよ」
「良いのか?」
「はい、随分とターニャさんに気に入って貰えているようですし、そのほうがおじいちゃんも喜ぶと思うので」
「おじいちゃんって、ミントのおじいちゃんだよな?」
一体どんな人だったんだろう?
「おじいちゃんは、7年前に他界してしまいました。
それから私がお店を引き継いで、今の魔道具店の惨状になっちゃってますね……」
「ふーん、7年前におじいちゃんがねえ?
なんで亡くなっちゃったの?」
「さぁ? それがさっぱり私にも分からなくて……」
「分からないってことは、無いんじゃないのか?
だって亡くなったってことは、何かしらの死因があるんだろ?」
「いえ、それが何も見つからなくて……。
ただ、その日は、ダンジョン配信者の友だちとゴルド山脈に行くって言ってて……。
確か日付けは、王歴2024年の12月31日だったかと思います……」
「12月31日にゴルド山脈に?」
ひょっとしてミントのおじいちゃんって、俺がゴルド山脈に入山した日と、同じ日付けに山頂してるんじゃ……。
「何の為にゴルド山脈に行ったんだ?」
「さぁ、確か珍しいゴブリンが出るとかどうとか、その調査も兼ねて向かったんだと思います……」
(ーー間違いない。多分ブラックゴブリンのことだ……)
じゃあ、ミントのおじいちゃんも、ひょっとしてアランと籠の目の冒険者に襲われた犠牲者なんじゃ……。
(その可能性はあり得るな……)
なにせあの山の天辺にあった亡骸の数は、ざっと見ただけでも数千人規模はあった筈だ。
(それに確か、まだ死んで間もない新しい死体もあったっけ……)
とは言えそんな話、ミントにできる訳もないしな……。
(昨日の一件に関しては、たまたま二人揃って死んだから俺の死に戻りが発動して生きている……)
だけど、それがない状態で、もしもミントだけが死んだら。
セーブポイント次第では、次に死んで戻って何とかすることも出来なくなるかも知れない。
(そうならないようにする為にも、この話をミントに深堀りさせる訳にはいかないんだ……)
「おじいちゃんがよく読んでいた本の中に、珍しいゴブリンが出てくる本があるんですよ。
多分、その影響を受けて登山したんでしょうね」
「それで……還らぬ人にか……」
確かにそれなら、ミントにおじいちゃんの死因が分からないのも無理はない。
何せあのクエストに出てくるブラックゴブリンは、行ったら誰も帰って来られないように、そもそもアランと籠の目の冒険者が待ち伏せしているクエストなのだから。
「話はわかった。まぁでも、おじいちゃんを探そうなんて、下手な考えだけはやめるんだぞ?」
ミントの命を最優先に考えるなら、彼女に詮索なんてさせる訳にはいかない。
(関わる必要なんて無いんだ。
ミントがあの7年前の事件になんか……)
何も知らないでいられることは、時に幸せなことだと俺は思う。
無知のままで居られることは、残酷な真実の前には救いでしかないのだから。
「眠くなって来たし、俺はこの辺でそろそろ寝るよ」
そう言って俺は横になり、明日に備えて眠気を噛み締める。
瞳を閉じれば、次第に意識はぼんやりとして来て、気がつけば完全に意識が途切れていた。
ーーそうして俺は、やがて次の日の朝を迎える。
ミントと共に再びルナイトキャットの受付カウンターへと訪れる。
そこにアランの姿はもちろん見えないが、大人びた雰囲気のバニーガールが代わりに立っている。
黒髪のポニーテールに、ふわりとした丸いウサギの尻尾。
目つきの悪いキレ長の青い瞳が、俺たちの来訪に気がつくとスッと細められるのが見える。
(何から何まで、さっきと同じシチュエーションだ……)
ーーだが、今回は前回とは異なるルートを選択した。
ミントの告白と言う死亡トリガーを回避した状態で、再び宿を借りようと言う状況だ。
革袋から銀貨を取り出し、カルトンの上へと置く。
それを見ていた目つきの悪い店員さんが、「チッ」と舌打ちして受付業務に取り掛かる。
「さっさとアンアンして来い。エロスケ共」
「しねえよ!!」
訂正しよう。
どうやら俺とミントの今後の行動が、彼女にはお見通しではないようだ。
「あんた誰に対してもそう言ってるだろ!!」
「だって宿を借りようなんて、そういうことじゃないんですか?」
「ちげえよ!!」
俺にそう言われて目つきの悪い店員さんは、ことりと小首を傾げる。
まるでしないほうが不自然みたいに、どこか訝しんだ態度だ。
「あなた達、人間ですか?」
「あんた人間をなんだと思って見てるんだよ!?」
「隙あらば交尾に勤しむ猿ですけど?」
そう言って目つきの悪い店員さんは、「ハッ」と鼻を鳴らしてほくそ笑む。
邪悪な笑みが張り付いているのに、クールービューティー感満載で美しい。
それに半分ぐらいは間違ってない辺りが、なんだか言い返しづらくて困るのだ。
「お前もその猿の一人なんだけど」
「ウキー!!」
ムキになって胸からバナナを取り出した店員さんは、皮を向くと憤慨した様子で食べ始めてしまう。
「やっぱ猿だわ、あいつ……」
そう言って俺は彼女を放置し、ミントと共に脇の階段を上がって行った。
★
ギシギシと軋む木材の床。
階段を上がってすぐの踊り場では、廊下は木製で、両端には無数の扉が見えている。
そこから伸びる一本道の廊下の突き当たりに、一番最奥の部屋が見受けられる。
「それにしても、告白を断られたばかりだって言うのに、随分とケロっとしてるんだな?」
そう言って俺がミントに尋ねると、ミントは不思議そうに目を丸くする。
「だって別に、私がターニャさんを諦めない限りは、恋はいつでも無限にしていられますからね?」
「なんだ、結構思ったより元気じゃんか?」
告白を断ったことで、元あった友人としての関係性が壊れるんじゃないかと心配していたけど、案外そんな様子もなさそうでホッとする。
「意外とメンタル強いんですよね~、私って」
「確かに、なんたって2番でも良いって言うぐらいだからな?」
そう言うとミントは、小首を傾げて再び目を丸くした。
★
シングルサイズのベッドが、ちょうど二つ分並んでいる部屋の入口隅には、観葉植物が置かれていてアジアンな雰囲気を醸し出していた。
ベッドの中間に置かれた木棚の上では、ゆらゆらと揺らめくアルコールランプの灯火が見えている。
暖色で満ちた室内は薄暗く。
普通に寝るには、ピッタリのシチュエーションだ。
カチャリと施錠をして一呼吸。
これから寝ようと言う俺は、真っ先にベッドの上で仰向けになり、大の字になって寝転がる。
その横のベッドにちょこんと腰を落ち着かせたミントは、
「そう言えば、ターニャさんって女の子なんですよね?」
「うん、まぁそうみたいだな……」
「どうして姿を隠しているんです?
せっかく可愛らしいのに勿体ない……」
「まぁ、俺がこの姿のほうがやりやすいからかなぁ」
「ふーん、それって男の子になりたい的な?」
「まぁ何かと、男の姿のほうが便利だってことだよ」
そう言って俺は、首にかけられた“変わるくん”に手を触れる。
先端にハート型のアクアライト鉱石がついている、カメラ内蔵型のペンダント形魔道具。
「いつかこの代金、ちゃんと支払うよ」
「あっ、そのペンダントだったらあげますよ」
「良いのか?」
「はい、随分とターニャさんに気に入って貰えているようですし、そのほうがおじいちゃんも喜ぶと思うので」
「おじいちゃんって、ミントのおじいちゃんだよな?」
一体どんな人だったんだろう?
「おじいちゃんは、7年前に他界してしまいました。
それから私がお店を引き継いで、今の魔道具店の惨状になっちゃってますね……」
「ふーん、7年前におじいちゃんがねえ?
なんで亡くなっちゃったの?」
「さぁ? それがさっぱり私にも分からなくて……」
「分からないってことは、無いんじゃないのか?
だって亡くなったってことは、何かしらの死因があるんだろ?」
「いえ、それが何も見つからなくて……。
ただ、その日は、ダンジョン配信者の友だちとゴルド山脈に行くって言ってて……。
確か日付けは、王歴2024年の12月31日だったかと思います……」
「12月31日にゴルド山脈に?」
ひょっとしてミントのおじいちゃんって、俺がゴルド山脈に入山した日と、同じ日付けに山頂してるんじゃ……。
「何の為にゴルド山脈に行ったんだ?」
「さぁ、確か珍しいゴブリンが出るとかどうとか、その調査も兼ねて向かったんだと思います……」
(ーー間違いない。多分ブラックゴブリンのことだ……)
じゃあ、ミントのおじいちゃんも、ひょっとしてアランと籠の目の冒険者に襲われた犠牲者なんじゃ……。
(その可能性はあり得るな……)
なにせあの山の天辺にあった亡骸の数は、ざっと見ただけでも数千人規模はあった筈だ。
(それに確か、まだ死んで間もない新しい死体もあったっけ……)
とは言えそんな話、ミントにできる訳もないしな……。
(昨日の一件に関しては、たまたま二人揃って死んだから俺の死に戻りが発動して生きている……)
だけど、それがない状態で、もしもミントだけが死んだら。
セーブポイント次第では、次に死んで戻って何とかすることも出来なくなるかも知れない。
(そうならないようにする為にも、この話をミントに深堀りさせる訳にはいかないんだ……)
「おじいちゃんがよく読んでいた本の中に、珍しいゴブリンが出てくる本があるんですよ。
多分、その影響を受けて登山したんでしょうね」
「それで……還らぬ人にか……」
確かにそれなら、ミントにおじいちゃんの死因が分からないのも無理はない。
何せあのクエストに出てくるブラックゴブリンは、行ったら誰も帰って来られないように、そもそもアランと籠の目の冒険者が待ち伏せしているクエストなのだから。
「話はわかった。まぁでも、おじいちゃんを探そうなんて、下手な考えだけはやめるんだぞ?」
ミントの命を最優先に考えるなら、彼女に詮索なんてさせる訳にはいかない。
(関わる必要なんて無いんだ。
ミントがあの7年前の事件になんか……)
何も知らないでいられることは、時に幸せなことだと俺は思う。
無知のままで居られることは、残酷な真実の前には救いでしかないのだから。
「眠くなって来たし、俺はこの辺でそろそろ寝るよ」
そう言って俺は横になり、明日に備えて眠気を噛み締める。
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