ヤミのマギア~ヤンデレ♂がヤンデレしか登場しない乙女ゲームのヒロイン……の親友キャラ♀に転移した~

桜野うさ

文字の大きさ
13 / 49
ゲームスタート:攻略開始

二人目の男、攻略開始

しおりを挟む
 観覧車に乗るなんて生まれて初めてだ。床は不思議な浮遊感があり、正直言うと乗る時は少し怖かった。ゆったりとした速度でゴンドラは上昇して行く。
 ダイチは迷うことなくボクの隣に座った。テレビで見たが、普通こういう時は向かいの席に座るんじゃないか? ゲームのこいつとの観覧車デートイベントの時も今と同じく隣に座っていたが。パーソナルスペースの狭い奴だ。

「うわー、ここの敷地ってめっちゃ広いんだなー!」

 ダイチは窓の方に体ごと向いて外の景色を楽しんでいた。

「おっ、ミナと狩人がいるぜ! おーい!」

 そして放置した二人に向かって手を振る。一見すると天真爛漫な振る舞いに思えるが、こいつの性格を考えるとどこまでがわざとなんだろうかと考えてしまう。
 観覧車に乗ってからダイチは一度もボクに話しかけず、視線も合わせず、いないものみたいに扱った。

「……話しがあるんじゃなかったの?」

 痺れを切らしてボクは問いかけた。

「あー、そうだったなぁ」

 ダイチはこちらを向くことなく素っ気なく答える。

「マモリちゃんはさー、ミナのことどう思ってんの?」
「えっ?」

 驚いてみせたがこの会話はすでに履修済だ。三人で休日デートをするイベントこそ原作ゲームにはなかったが、ミナセのことで嫉妬したダイチからこういう会話をされるイベント自体はある。

「ミナは、絶対にマモリちゃんのことが好きだぜ」

 それは知っている。姫野マモリの好感度チェックでも「王侍ミナセは貴方を好きみたいよ」となっていた。

「わたしも好きよ。優しいし、いつもよくしてくれるし」
「そういうんじゃなくてー」

 呆れた様に言うダイチは相変わらずこちらを見ない。

「あいつってさー、昔っからめっちゃモテるんだよなー。すげー可愛い子とか綺麗な子からも何度も言い寄られているのに、誰にもなびかねーの。まぁ、あいつの家があれだから、将来の結婚相手とかも決められてるだろーし、誰とも恋愛しないのはしかたねーのかもしれねーけど」

 ダイチは急にこちらを向いた。

「なのにあいつ、マモリちゃんに恋してんだよ。バカなおれでもわかっちゃうくらい、はっきりと」

 めずらしく真剣なまなざしだ。エメラルドグリーンの猫目からは、戸惑い、不安の感情が読み取れた。

「おれさー、あいつには幸せになって欲しーよ。けどあいつに彼女できたら、おれのことなんかどうでもよくなるかなって」
「そんなこと無いと思うけど」
「わかんないじゃん、そんなの」

 ダイチは頬を膨らませる。弟か妹に大好きな親を取られた子どもみたいな顔だ。

「……みんな、おれのことなんかどーでもいいんだからさー」

 視線は床に落とされた。普段の明るさはどこへやら、かなりの落ち込みを見せている。そんなやつにボクがかける言葉は……、

「咲衣君って、自分のことばっかりね」
「っ……!」

 咲衣ダイチを攻略するには、優しい言葉を並べるだけではいけない。こいつは勘が鋭い。薄っぺらな社交辞令など言ったところで好感度が下がるだけだ。とにかく本音に聞こえることを言うのだ。その辺が難しくてボクは何度もこいつの攻略を失敗した。

「マモリちゃんさー、ちょっと厳しくなーい?」
「事実じゃない」

 ダイチは押し黙った。

「自分自分ばっかりじゃ周りに誰もいなくなるわ」

 ボクはゲームでセカイが言っていたセリフをなぞった。

「王侍君だって、いつか貴方に呆れて離れて行くかもね」
「……そんなの、言われなくても知ってるって」

 か細い声でダイチは言う。
 友情(そして自分に)に自信がないからこそわざわざ気を引いたり、ベタベタするのだ。ボクには友達がいないからすべて想像だが……。

「あいつはやさしーから側にいてくれるけど、やさしーから別におれがいなくても近くにいっぱいひとがいる。おれと違って周りからめちゃくちゃ期待されてるし」

 ダイチがミナセにコンプレックスを抱いているというのも、こいつのルートに入ると明かされる。ミナセは押しつぶされる程のプレッシャーを家から与えられているが、逆にダイチはほぼいない者扱いされている。二人の境遇を足して二で割ればちょうどいいのかもしれないが、ままならない。
 観覧車はてっぺんまでやって来た。

「……もしも」

 あとは降りて行く一方の観覧車の中で、ボクは口を開いた。

「貴方の周りに誰もいなくなったら、馬鹿にして笑ってあげる」
「はぁ?!」

 ダイチのリアクションのせいでゴンドラが揺れた。

「な、なんだよそれぇ!」
「それが嫌なら頑張って。……ふふ、咲衣君を笑う日が楽しみだわ」
「……マモリちゃんって結構ワルい女の子じゃん。ミナにばらしてやるー!」
「別に言ってもいいけど、王侍君に嫌われないようにね」
「むぅ~。あー、ほんといい性格してるよー」

 ダイチはケラケラと笑い出した。「周りからみんながいなくなってもお前のことを見ていてやる」とやみに伝えたし、ダイチの心を擽るポイントは押さえた。
「そーゆーちょっとワルい女の子って、優等生のミナよりおれに合ってると思うんだよねー」
 ダイチはボクの頬に手をやって顔を近づけて来た。

「……おれにしとかない?」

 小首を傾げるあざといポーズをしているが、エメラルドグリーンの猫目には色気が宿っている。猫耳パーカーとか着ている癖に、だ。
 お前なんかこうしてやる。ボクは両手で思いっきりダイチの頬をサンドイッチした。

「んにゃっ?!」

 アイドルみたいに端正な顔がひしゃげた。

「はにふんはほぉ!」
「親友の好きな女の子を盗るつもり? 泥棒猫さん」

 そう言いながらダイチをサンドイッチから解放した。

「親友をワルい女の子から守ってやるんだよー」
「どうだか」
「けどさー、マモリちゃんって思ったより面白い子だよな。んー、本気で狙っちゃおうかなぁ」
「ふふ、どんな風にしてくれるのか楽しみだわ」

 本気でなんて言っているが、こいつのことだ、どうせまだ少し気になっているレベルだろう。だけど悪くない反応だ。順調に好感度は上がっている。
 徐々に地上に近づいて行くゴンドラの中で、ボクは目標に近づいているのを感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

乙女ゲームの中の≪喫茶店の店長≫というモブに転生したら、推しが来店しました。

千見るくら
恋愛
社畜OL、乙女ゲームの世界に転生!? でも私が転生したのは――女主人公でも攻略対象でもなく、ただの喫茶店の店長(モブ)だった。 舞台は大人気乙女ゲーム『ときめき☆青春学園~キミの隣は空いてますか?~』。 放課後、女主人公と攻略キャラがデートにやってくるこの店は、いわば恋愛イベントスポット。 そんな場所で私は、「選択肢C.おまかせメニュー」を選んでくる女主人公のため、飲料メーカーで培った知識を駆使して「魂の一杯」を提供する。 すると――攻略キャラ(推し)の様子が、なんかおかしい。 見覚えのないメッセージウインドウが見えるのですが……いやいや、そんな、私モブですが!? 転生モブ女子×攻略キャラの恋愛フラグが立ちすぎる喫茶店、ここに開店! ※20260116執筆中の連載作品のショート版です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

処理中です...