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第0夜
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人生でいちばん古い記憶は?
これは、話題に上るたびにわたしを一番困らせる質問だった。
お腹の中で母親の声を聞いただとか、家族で遊園地に行っただとか、仲の良いともだちと公園で砂遊びしただとか、いろいろ答えはあるはずなのに、どれもわたしにはなかった。
わたしの記憶は、事故の影響である日突然はじまっていて、それ以前の記憶は一切ない。
ひとつだけ朧気に覚えている記憶は、微かに夢か幻か本当にあったことかもわからない。記憶らしきもので、口にするのも躊躇われる凄惨な出来事。記憶を失う原因となった事故かと人に聞いたり、大きくなってからインターネットで調べても、そんな出来事が起こった記録はなかった。その事実が、余計に子どもの作り話と思われそうで、だれにも言えなかった。
いちばん古い記憶を尋ねられるたびに、覚えてないと曖昧に答えを返しながら、頭の中では作り物めいた記憶が何度も再生されている。
―――――燃えさかる炎の中で、黒煙が立ち昇る大破した車が何台も転がっている。高速道路の一面が火の海になっている。散らばった破片の上に投げ出され、息苦しさと全身の痛みに声も出せずに涙を流すことしかできなかった。道路に転がり、絶望的な状況の中で死を待つだけのわたしに、全身黒ずくめの綺麗な男の人が近づいてくる。
【おまえのせいだ】
業火に囲まれながらも、その白い肌に汗のひとつもなく、汚れもなく、涼しげな顔をして、わたしを見下ろして言う。
【おまえのせいで、これまでも、そしてこれからも、多くの人間が死ぬだろう】
はっきりとした姿、声、かたちはわからない。
黒ずくめで、綺麗な男の人ということしかわからない。
【おまえもオレも■■■■■、■■■■■■】
ただなんの感情もない調子で告げられた言葉に、幼いわたしはやっぱりと納得をしていて。
痛む身体を動かして見上げた男の人の死んだような金色の瞳に、恐怖を感じるべきなのに、幼いわたしはなぜか痛みも忘れて見惚れる。
【………おにいさんも■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■?】
恐怖は去っていた。幼いわたしの命を脅かすのは、炎と煙だけだった。
男の人と幼いわたしが発した言葉にノイズが走り、はっきり思い出せなくなっていく。
【ふ、■■■■。■■■。おまえ■、■■■■■■■■■】
何事かを言ったわたしに対して、無機質な雰囲気だった男の人の表情が崩れ、口角が微かにつり上がる。
【わぁ】
【……緊張感のない子供だな】
男の人の表情の変化に、場違いな感嘆の声をあげれば、呆れたように肩を竦められる。
【いいだろう。恨むなら、軽率な自分を恨めよ】
そう言って男の人の腕が伸ばされる。綺麗に切り揃えられた、鋭く尖った爪が、わたしのやわらかな首の肉に食い込んで。
―――――そこで、記憶はいつも途切れて、終わる。
これは、話題に上るたびにわたしを一番困らせる質問だった。
お腹の中で母親の声を聞いただとか、家族で遊園地に行っただとか、仲の良いともだちと公園で砂遊びしただとか、いろいろ答えはあるはずなのに、どれもわたしにはなかった。
わたしの記憶は、事故の影響である日突然はじまっていて、それ以前の記憶は一切ない。
ひとつだけ朧気に覚えている記憶は、微かに夢か幻か本当にあったことかもわからない。記憶らしきもので、口にするのも躊躇われる凄惨な出来事。記憶を失う原因となった事故かと人に聞いたり、大きくなってからインターネットで調べても、そんな出来事が起こった記録はなかった。その事実が、余計に子どもの作り話と思われそうで、だれにも言えなかった。
いちばん古い記憶を尋ねられるたびに、覚えてないと曖昧に答えを返しながら、頭の中では作り物めいた記憶が何度も再生されている。
―――――燃えさかる炎の中で、黒煙が立ち昇る大破した車が何台も転がっている。高速道路の一面が火の海になっている。散らばった破片の上に投げ出され、息苦しさと全身の痛みに声も出せずに涙を流すことしかできなかった。道路に転がり、絶望的な状況の中で死を待つだけのわたしに、全身黒ずくめの綺麗な男の人が近づいてくる。
【おまえのせいだ】
業火に囲まれながらも、その白い肌に汗のひとつもなく、汚れもなく、涼しげな顔をして、わたしを見下ろして言う。
【おまえのせいで、これまでも、そしてこれからも、多くの人間が死ぬだろう】
はっきりとした姿、声、かたちはわからない。
黒ずくめで、綺麗な男の人ということしかわからない。
【おまえもオレも■■■■■、■■■■■■】
ただなんの感情もない調子で告げられた言葉に、幼いわたしはやっぱりと納得をしていて。
痛む身体を動かして見上げた男の人の死んだような金色の瞳に、恐怖を感じるべきなのに、幼いわたしはなぜか痛みも忘れて見惚れる。
【………おにいさんも■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■?】
恐怖は去っていた。幼いわたしの命を脅かすのは、炎と煙だけだった。
男の人と幼いわたしが発した言葉にノイズが走り、はっきり思い出せなくなっていく。
【ふ、■■■■。■■■。おまえ■、■■■■■■■■■】
何事かを言ったわたしに対して、無機質な雰囲気だった男の人の表情が崩れ、口角が微かにつり上がる。
【わぁ】
【……緊張感のない子供だな】
男の人の表情の変化に、場違いな感嘆の声をあげれば、呆れたように肩を竦められる。
【いいだろう。恨むなら、軽率な自分を恨めよ】
そう言って男の人の腕が伸ばされる。綺麗に切り揃えられた、鋭く尖った爪が、わたしのやわらかな首の肉に食い込んで。
―――――そこで、記憶はいつも途切れて、終わる。
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