見掛け倒しと呼ばれた御影多緒〜黒人女子高生がバスケでがんばる話〜

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第4話

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 次の日。
 多緒は期待と不安で、放課後が早くきてほしいような、きてほしくないような複雑な気持ちで、長く感じるような、あっという間のような1日を過ごした。そんな気持ちに関係なく放課後はやってくるわけで、多緒は昨日と同じ場所で燈と美卯に合流した。
 多緒の手には、カバンの他にバスケットシューズの入ったシューズケースが下がっている。それを見た燈は、笑顔で拳を突き出した。
「やったね。」
「うん。ちゃんと持ってきたよ。」
 多緒は自分も拳を突き出し、燈の拳に当てた。
「それで……。」
 この先をどう切り出そうかと躊躇している燈と美卯を見て、多緒はキッパリと言った。
「あたしも行くよ。」
 本入部はまだわからないが、体験入部に行くことは昨日の時点で決意していた。多緒の晴れやかな表情を見て美卯はホッとした。昨日燈から「多緒ちゃんも行くかも」と連絡をもらっていた美卯だが、自分たちが多緒を悩ませ、苦しい決断に追い込んだのでは?と心配していた。しかし多緒の晴れやかな表情を見ると迷いはなさそうだ。

 3人は体育館へと向かう。近づくと、ボールが床やポードに当たる音が聞こえてくる。「バスケの音だ」と思うと、多緒と美卯はしだいに緊張が高まり、燈はワクワクしてくる。テンションが上がってきた燈は先頭をズンズン進んでいく。が、体育館の前に着くと、一瞬固まってしまう。
「なんて言えばいいかな?『たのもう』って言って入ってみる?」
 緊張を和らげる冗談のつもりだろうが、半分本気かもしれないところが燈らしい。
「いや、『たのもう』はないから。」
「じゃあなんて言う?」
 などと言っていると、背後から声がした。
「バスケ部に用ですか?」
 心の準備ができていなかった多緒と美卯はビクっとして振り向いた。そこにいたのは、きれいなロングヘアーの制服姿の生徒。一昨日、多緒にチラシを渡したバスケ部のマネージャー、松嶋璃子だ。
「あら、あなた、」
 璃子は振り向いた多緒を見ると、
「こないだ会ったわよね。覚えているかしら?」
 璃子が聞いてきたので多緒は緊張して
「あ、は、はい。覚えてます。」
 と答えながら、この先輩の名前を必死に思い出そうとした。松本だっけ?松下だったかな?あのときはバスケ部にくるつもりがなかったので覚えようとしなかったのだが、今となっては先輩の名前を忘れるというのは大失態だ、と悔やむ。
「見学に来てくれたのかしら?こちらの2人はお友達?」
「あたしたち、体験入部したいと思いまして。」
 今度は燈が、バスケットシューズの入ったシューズケースを掲げながら答えた。璃子がよく見ると3人ともシューズケースを持っている。
「3人とも?しかもシューズまで持ってきてくれて。用意がいいわね。」
 璃子は嬉しそうにそう言うと、体育館の扉を開けて中に入る。そこにいるバスケ部員たちに「みなさーん、新入生が来てくれましたよー」と言おうとしたが、それより先に体育館の中から大きな声が響いた。
「あーっ!」
 一昨日、松嶋璃子と一緒に多緒に会った高瀬翠だ、多緒の姿を認めた翠はすぐに駆け寄ってきた。
「君、こないだの。すげー。来てくれたんだ。やっぱバスケやる気になってくれた?」
 興奮気味の翠は多緒の手握ってブンブンと振るが、またもや璃子に制された。
「翠、圧強いって。」
 璃子はいったん翠を離れさせ、3人を体育館に招き入れてから、当初言おうとしていたセリフを言った。
「みなさん、新入生が来てくれました。ひとまず体験入部だそうです。」
 部員たちからは「おー」という歓声と拍手があがる。一際体格のいい、この中では(多緒を除いて)一番背の高い選手が、一歩前に出てきて言う。
「部長の吉澤美由紀だ。来てくれてありがとう。歓迎するよ。体験入部ってことは、練習に参加してくれるのかな?」
「3人ともシューズも持って来てくれてます。」
 璃子か答える。
「シューズって、バッシュ?じゃあ経験者?3人とも?」
 今度は燈が答える。
「あ、はい。3人とも中学でバスケ部で、あ、いや、あたしは別の中学なんですけどみうちゃんと多緒ちんは同じで、えーと…。」
 しどろもどろだ。こう見えてけっこう緊張していたらしい。
「まあまあ、落ち着いて。」
 今度は優しい声のおっとりした感じの人が出てきた。
「副部長の大槻楓です。あなたたちも名前を教えてくれるかしら?」
「あ、はい。雪谷燈です。」
「森下美卯です。」
「御影多緒です。」
「雪谷さんに、森下さんに、御影さん、ね。」
 大槻楓は1人ずつ手で示しながら繰り返した。それから、ちょっと遠慮がちに尋ねた。
「えっと、御影さんは、留学生ってわけじゃないのね?」
「あ、はい。生まれも育ちも国籍も日本です。」
「ありがとう。一応確認したかっただけよ。気を悪くさせてしまったならごめんなさい。」
「いえ、全然大丈夫です。」
 多緒にとってはあるあるな質問だ。このくらいでいちいち気分を害することはない。大槻楓の優しい顔と柔和な態度ならなおさらだ。
 それから3人は他の部員に紹介された。


 一ノ瀬歌織(ゲームキャプテン):3年生 156cm PG
  見た目の印象=クールで大人っぽい。得意なプレイ=冷静なゲームメイク。
 吉澤美由紀(チームキャプテン、部長):3年生 174cm C/PF
  見た目の印象=身体の幅もあり力強く豪快。得意なプレイ=インサイドのパワープレイ。
 大槻楓(副部長):3年生 166cm PF/SF
  見た目の印象=おおらかで柔らかい感じ。得意なプレイ=ディフェンスとリバウンド。
 滝口由里香(副部長):3年生 161cm SG/SF
  見た目の印象=もの静かでおとなしそう。得意なプレイ=3ポイントシュート
 高瀬翠:2年生 167cm SF
  見た目の印象=精悍な感じでいかにもスポーツウーマン。得意なプレイ=なんでもできるが特にドライブが得意。チームのエース。
 堤亜梨沙:2年生 160cm SG/PG
  見た目の印象=可愛らしい女の子といった感じ。得意なプレイ=3ポイントシュート。ボール運びもできる。
 田原知佳:2年生 171cm PF/C
  見た目の印象=低い声で口数少ないがしっかり者。得意なプレイ=ゴール下で高確率にシュートを決める。
 松嶋璃子(マネージャー):2年生
  元々はプレイヤーだったが、怪我をきっかけにスポーツ医療やスポーツ科学に興味を持ち、今はマネージャーに。

 これに多緒たち3人が加わる。

 御影多緒:1年生 186cm C
 雪谷燈:1年生 152cm PG/SG
 森下美卯:1年生 159cm SG/SF

 そして、

 神崎遥香:1年生 168cm PF/SF

 他の全員が歓迎ムードで「よろしくね」などと笑顔の挨拶をする中、遥香だけはおもしろくなさそうな顔で、ぶっきらぼうに「押忍」とだけ言った。
「ごめんな、愛想のないやつで。」
 なぜか翠が謝り、遥香を諭す。
「遥香、同期なんだから仲良くしろよ。」
「…はい。」
 そう言って遥香は3人を見た。燈と美卯には普通に目を合わせたが、多緒に対しては睨むような挑戦的な目つき。周りからはライバル視でもしてるんだろうか?と見えたが、実際は違う。遥香は顔を近づけ、多緒にだけ聞こえるように言った。
「去年の試合みたいなナメたプレイするなら出ていけよ。」
 「ひっ…。」声こそ出さなかったが、多緒は完全にビビってしまった。「去年の試合」ということは、やっぱ対戦した人だ。しかもダメダメなところを知られている。それにしても先輩からの新人いびりならともかく、同じ1年生からこんな扱いを受けるとは。「こりゃ、本入部はナシかなぁ。」まだ練習が始まってもいないのに、早くも憂鬱な気分になった。


 3人は璃子に案内されて部室で着替えを済ませ、体育館に戻ってきた。燈はTシャツに短パン。美卯はTシャツに下はジャージ。多緒は上下ともジャージだ。
 その姿を見て翠が言う。
「なんか、一段と大きく見えるなぁ。」
 服装とシューズのせいかもしれない。
「ウイングスパンも凄そうね。」
 誰かが言うと、翠は多緒に、
「ちょっと手を広げてみて。」
と言って、自分も多緒と向かい合って両腕を水平に広げた。多緒も同じように両腕を広げた。この広げた長さをウイングスパンといい、だいたい身長と同じくらいになる。身長プラス数cmだと「腕が長い」とされ、トップアスリートだと身長プラス10cmや15cmという人もいる。腕が長いことは、背が高いことと同様にバスケットボールにおけるアドバンテージとなる。翠が広げた指先は、左右とも多緒の手首にも届いていない。翠と多緒の身長差は20cmほどだが、ウイングスパンはそれ以上の差がありそうだ。翠の腕が短いわけではない。チームの中では長いほうだが、多緒はそれをしのぐ長さということだ。
「やっぱスゲーな。」
 翠が感心したように言うと、他の部員も「おー」という声をあげた。

「彼女、早くも人気者ね。」
 燈と美卯に話しかけたのはキャプテンの一ノ瀬歌織だ。自分から話しかけるのはもともと得意ではないが、キャプテンとなったからにはコミュニケーションを大事にしようと努力している。多緒だけがもてはやされるとあとの2人がかわいそうだと思ったのかもしれない。身長は燈よりちょっと高いだけだが、燈よりずっと鍛えられた身体で、髪を後ろでキュっとまとめた凛々しい顔つきは「さすが3年生」と思わせる風格を持っている。
「ところで、」
 今度は美卯に聞く。
「森下さんポジションは、2番か3番といったところかしら?」
「あ、はい。どっちもやってました。たまーに4番もやってましたけど、」
 と言って美卯は周りを見渡す。
「みなさん体格いいので、ここではせいぜい3番ですかね。」
「そう。オールラウンダーって感じね。今はポジションレスがトレンドだから、いいと思うわ。」
 笑顔を作るのも苦手な歌織だが、ここでもがんばった。
 翠から解放された多緒が合流してきた。
「みんな、久しぶりなんでしょ?少しボールに触っておくといいわ。」
 歌織はそう言って、持っていたボールを軽くバウンスパスで投げた。
「ありがとうございます。」
 と言ってボールを受けたのは燈だ。
「あ、ストレッチを入念にね。」
 そう付け加えて、歌織は新しいボールを取りに行った。

 燈は言われたとおりにボールの感触を確かめるようにドリブルをつきながら、
「美卯ちゃんだけポジション聞かれたんだよ。多緒ちんは?」
「あたしも聞かれなかったな。」
「だよねぇ。なんかズルい。」
 と、よくわからない拗ね方をする。しかし無理もない。聞くまでもなく、燈は見るからにガードだし、多緒にいたってはセンター以外あり得ない。
「まあそう言わずに。」
 多緒は微笑んで、ボールをキャッチするポーズをする。燈は多緒にパス。多緒も少しボールをついてから美卯にパス。しばらく3人でボールを回しながら、感覚を蘇らせていた。
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