入替令嬢と最果ての恋人

ねーさん

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「マーク・スペンサー!?」
「あら、アリ知ってるの?」
 リビングで思わず声を上げるアレクサンドラに、母ケリーが問いかける。
「あ、あの…去年、学園の生徒会にいた人だもの。そりゃあ知ってるわよ」
 嘘です。その前の年の生徒会役員は全然知りません。
「ああ、それもそうね。じゃあそのマーク・スペンサーが何故ここに来るかも知ってる?」
「…第二王子殿下の婚約者を…こ、殺そうとした、とか聞いたけど?捕まったんでしょ?」
「そうね。その事件に絡んで、ロイド殿下の侍従を斬りつけて川に投げ捨てたそうよ。幸い侍従は助かったそうだけど」
「ええ!?」
 ローズのために、ローズがロイドと結ばれるために、そこまで?
「お母様、何故そんな物騒な男がこの屋敷に住まうんですか?」
 姉のリズが不満そうに言う。
「王宮からの依頼よ」
 どうやら、辺境伯である父が、ロイドとサイモンから「マーク・スペンサーは男爵令嬢を想ってやり過ぎてしまったけど、根は悪い人間ではない。近衛騎士になるのはもう無理だが、そちらで騎士にしてやって欲しい」と頼まれたようだった。
「この屋敷に住むんですか?マーク・スペンサーが?」
「そうよ。どうやら彼は想い人が国外追放になってとても落ち込んでいるらしいわ。なので、目の届く所へ置きたいと、お父様がおっしゃっているの」
 ケリーは頷きながら言う。
「だからって、嫁入り前の娘が二人も居る屋敷に犯罪者が一緒に住むなんて…」
「リズ、お父様がそう決めた事よ」
「うっ…」
 ケリーの言葉に、リズも言葉に詰まる。
 情勢は安定しているとは言え、辺境伯として隣国と渡り合い、騎士団を纏める父の意向は家族にとっては絶対なのだった。

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「マーク・スペンサーです」
 やって来たマークは濃いめの金の短髪に薄い水色の瞳の、騎士らしく筋肉のついた美丈夫だった。
「さすが攻略対象…細マッチョね」
 アレクサンドラは思わず呟くが、マークは視線を下にやったまま動かない。
「これは私の妻ケリーと息子レーン、娘のリズとアレクサンドラだ。下の娘はマークと同い年だな」
 父ハンクがマークに家族を紹介する。マークは少し視線を上げて、アレクサンドラと眼が合った。
「…よろしくお願いします」
 マークはすぐ眼を逸らした。

「覇気がないわ」
 アレクサンドラと並んで部屋に帰りながらリズが言う。
「そうね。落ち込んでるって本当なのね」
「いくら落ち込んでるって言っても、あんなに暗いと雰囲気悪くなるわよ」
「そうかもね」
「それに騎士になるには細すぎない?やっぱり騎士なら…」
 リズは自分の結婚相手とマークを比較し始めた。リズと結婚するのは辺境伯の騎士団の出世頭、とても逞しい体躯の持ち主なのだ。
 やっぱり周りを騎士に囲まれてると、屈強な男性に惹かれるのかな。まあ、私もなよなよ男には興味ないけど。

「え、あいつこの屋敷に住んでんの?」
 勉強部屋でウリエルが驚いた様子でアレクサンドラに言う。
「そうよ。鍛錬場に一番近い部屋」
「…アリの部屋からは遠いな」
「え?」
「いや、何でもない」
「ねぇねぇアリ、マークは貴族なの?」
 後ろからシンシアが話に入って来る。
「たしかお父様のお兄様が伯爵位をお持ちとか?」
「ふーん」
 そう話していると、部屋の扉が開き、マークが無言で入って来る。
「…そういえば同じ年だっけ」
 シンシアが呟いた。

 マークは捕縛され罪が確定した時、スペンサー家を勘当され、学園は退学になった。
 ローズが居なければマークがこれ以上犯罪を犯す事はないだろうと罰らしい罰は科せられていない。強いて言えば、この辺境に送られた事が罰なのかも知れない。
 それ位、辺境伯騎士団は訓練が過酷なのだ。

「学園は退学になったんだろ?何でここに?」
 後ろの席に座るマークを見ながらウリエルが不満気に言う。
「まあ、勉学の機会はあった方が良いじゃない?」
「特例で、考査でそれなりの成績を収めれば卒業認定をもらえるらしいわ」
 シンシアとアレクサンドラが言うが、ウリエルはやはり不満気だ。
「はいはい。考査を始めるよ」
 学園の教師が部屋へ入って来る。男性教師はマークを見ると
「ああ、スペンサーくん。元気そうだね。卒業認定もらえるように頑張って」
 と言う。マークは無言で頷いた。


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