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シャーロットとの遠駆けでユリウスが負傷してから三日後、もうすっかり痛みもなくなったシャーロットの部屋へルーカスがやって来た。
「お見舞いにあの星の小物…ですか?」
「ああ、ユリウス殿下はそう言えばロッテにはわかると言われていた」
王城の図書室でみた星の模様の装丁。あの星って、あれの事よね?
「お兄様、小物って何が良いんでしょう?コースターは要らないですよね?ブローチも…じゃあ手袋?ポケットチーフ?クラバット?栞とかも作れますけど」
シャーロットはソファの向かいに座るルーカスへ勢い込んで聞く。
「まあ落ち着け。栞、良いじゃないか。身に付ける物は…殿下のご婚約者様が気を悪くされてはいけないし」
「…ご婚約者様?」
「ああ。殿下はオードリー・グッドウィン公爵令嬢との話を進めると意向を示された」
ルーカスはシャーロットを見ながら言う。
シャーロットは目を見開いて、ルーカスを見返した。
「オードリーさんと?」
「ああ」
そう、オードリーさんは王太子妃になりたいって言ってたもの…
オードリーさんがユリウス殿下のお心を射止められたのね。
「…そうですか」
シャーロットはルーカスから目を逸らすと、自分の額を指で触った。
-----
「セルザム公爵家?」
ユリウスが書類から顔を上げると、執務机の前に立つルーカスが頷く。
「ええ。あの野生馬の腹にある白斑がセルザム公爵家にいた馬と一致すると。ただセルザム公爵家は『あの馬は脱走したので当家には関係ない』と言っているようです」
「わざわざ蹄鉄を外して脱走?」
「辻褄は合いませんが、証拠がありません」
ユリウスは頬杖をついて眉を顰めた。
「うーん、そのセルザム公爵家がロッテを狙ったのは何故だ?」
「家と言うより、娘かと思われます」
「娘?」
「ええ。トレイシー・セルザム公爵令嬢を、先日の四次選考時、殿下とお会いする直前に私が失格とし、帰らせているんです」
「失格?何があった?」
ルーカスは、シャーロットの次に控室であるサロンに来た令嬢、トレイシー・セルザムが、シャーロットとルーカスが王太子妃候補に残るために不正をしたのではないか、と発言したのだと説明をする。
「それは失格になって当然だな」
ユリウスはため息混じりに言う。
「そうなのですが、どうも納得していない風だったので…どうしても王太子妃になりたかったのか、他の候補者の時には何もなかったのでロッテ個人を恨めしく思ったのか」
「逆恨みじゃないか」
呆れたように言うユリウス。
「過去、セルザム公爵閣下が『娘を王太子妃に』と推して来た事もごさいませんし、トレイシー・セルザムの逆恨みだと思います。ただ、こうして事件自体がなかった事になったので、再度ロッテに何か仕掛けて来るかも知れません」
「それなら、俺がオードリーと婚約する事を早く公表すれば良い。ロッテは王太子妃にならないと知れればロッテが何かをされる事はなくなるだろう?」
「しかしそれではトレイシー・セルザムの所業を明らかにする事ができません」
「…ルーカス、あの時ロッテが転倒せず、まともに馬と衝突していたら…ロッテは死んでいたかもしれないんだぞ?」
ユリウスは眉を顰めてルーカスを見上げる。
「しかし殿下、トレイシー・セルザムをこのままにしておけば、今度はオードリー様が危害を加えられるかも知れません」
「それは…」
そうかも知れないが、ロッテを危険な目に遭わせたくはない。
泣きそうな顔でユリウスに手を伸ばしたシャーロットを思い出す。
あの手を取って、引き寄せて、抱きしめたい。
その時の感情をありありと思い出す。
でも、俺じゃあ駄目なんだ。
「…それでルーカスはどうするつもりなんだ?」
「夏期休暇が終わる前にロッテに殿下への見舞いの品を持って来させますので、もう一度会ってください。トレイシー・セルザムは十九歳で、既に学園は卒業しています。秋期が始まれば殿下もロッテも寮へ入ってしまうので、夏期休暇中に何かを仕掛けてくる確率が高い」
「…ロッテを囮にしろと?」
ユリウスはルーカスを睨むように見上げる。
ルーカスは少し過保護だと思うくらい妹を大切にしていると思っていたが?
「ロッテを危険に晒す様な真似はしません」
ルーカスはユリウスを真っ直ぐに見ながら言った。
シャーロットとの遠駆けでユリウスが負傷してから三日後、もうすっかり痛みもなくなったシャーロットの部屋へルーカスがやって来た。
「お見舞いにあの星の小物…ですか?」
「ああ、ユリウス殿下はそう言えばロッテにはわかると言われていた」
王城の図書室でみた星の模様の装丁。あの星って、あれの事よね?
「お兄様、小物って何が良いんでしょう?コースターは要らないですよね?ブローチも…じゃあ手袋?ポケットチーフ?クラバット?栞とかも作れますけど」
シャーロットはソファの向かいに座るルーカスへ勢い込んで聞く。
「まあ落ち着け。栞、良いじゃないか。身に付ける物は…殿下のご婚約者様が気を悪くされてはいけないし」
「…ご婚約者様?」
「ああ。殿下はオードリー・グッドウィン公爵令嬢との話を進めると意向を示された」
ルーカスはシャーロットを見ながら言う。
シャーロットは目を見開いて、ルーカスを見返した。
「オードリーさんと?」
「ああ」
そう、オードリーさんは王太子妃になりたいって言ってたもの…
オードリーさんがユリウス殿下のお心を射止められたのね。
「…そうですか」
シャーロットはルーカスから目を逸らすと、自分の額を指で触った。
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「セルザム公爵家?」
ユリウスが書類から顔を上げると、執務机の前に立つルーカスが頷く。
「ええ。あの野生馬の腹にある白斑がセルザム公爵家にいた馬と一致すると。ただセルザム公爵家は『あの馬は脱走したので当家には関係ない』と言っているようです」
「わざわざ蹄鉄を外して脱走?」
「辻褄は合いませんが、証拠がありません」
ユリウスは頬杖をついて眉を顰めた。
「うーん、そのセルザム公爵家がロッテを狙ったのは何故だ?」
「家と言うより、娘かと思われます」
「娘?」
「ええ。トレイシー・セルザム公爵令嬢を、先日の四次選考時、殿下とお会いする直前に私が失格とし、帰らせているんです」
「失格?何があった?」
ルーカスは、シャーロットの次に控室であるサロンに来た令嬢、トレイシー・セルザムが、シャーロットとルーカスが王太子妃候補に残るために不正をしたのではないか、と発言したのだと説明をする。
「それは失格になって当然だな」
ユリウスはため息混じりに言う。
「そうなのですが、どうも納得していない風だったので…どうしても王太子妃になりたかったのか、他の候補者の時には何もなかったのでロッテ個人を恨めしく思ったのか」
「逆恨みじゃないか」
呆れたように言うユリウス。
「過去、セルザム公爵閣下が『娘を王太子妃に』と推して来た事もごさいませんし、トレイシー・セルザムの逆恨みだと思います。ただ、こうして事件自体がなかった事になったので、再度ロッテに何か仕掛けて来るかも知れません」
「それなら、俺がオードリーと婚約する事を早く公表すれば良い。ロッテは王太子妃にならないと知れればロッテが何かをされる事はなくなるだろう?」
「しかしそれではトレイシー・セルザムの所業を明らかにする事ができません」
「…ルーカス、あの時ロッテが転倒せず、まともに馬と衝突していたら…ロッテは死んでいたかもしれないんだぞ?」
ユリウスは眉を顰めてルーカスを見上げる。
「しかし殿下、トレイシー・セルザムをこのままにしておけば、今度はオードリー様が危害を加えられるかも知れません」
「それは…」
そうかも知れないが、ロッテを危険な目に遭わせたくはない。
泣きそうな顔でユリウスに手を伸ばしたシャーロットを思い出す。
あの手を取って、引き寄せて、抱きしめたい。
その時の感情をありありと思い出す。
でも、俺じゃあ駄目なんだ。
「…それでルーカスはどうするつもりなんだ?」
「夏期休暇が終わる前にロッテに殿下への見舞いの品を持って来させますので、もう一度会ってください。トレイシー・セルザムは十九歳で、既に学園は卒業しています。秋期が始まれば殿下もロッテも寮へ入ってしまうので、夏期休暇中に何かを仕掛けてくる確率が高い」
「…ロッテを囮にしろと?」
ユリウスはルーカスを睨むように見上げる。
ルーカスは少し過保護だと思うくらい妹を大切にしていると思っていたが?
「ロッテを危険に晒す様な真似はしません」
ルーカスはユリウスを真っ直ぐに見ながら言った。
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