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ルーカスがシャーロットに化けたお茶会の後、侍女と騎士と共にあっさりと連行されて来たトレイシー・セルザム公爵令嬢に、面会しているのはユリウスだ。
「ルーカス・ウェインとシャーロット・ウェイン、ああ、ウェイン家の侍女の男爵令嬢もかしら、あの三人の不正を見逃すなら、私の罪も見逃してくださいますよね?ユリウス殿下」
王城にある犯罪を犯した貴族を留置する部屋で、トレイシーは優雅にソファに座り、前に流れた綺麗な金色の髪を手で背中に払いながら言った。
王城の留置室はまだ罪が確定していない貴族を文字通り留め置く部屋だ。出入り口が一箇所しかないのと、窓が小さく高い位置にある以外は普通の客間と変わりはない。
「ルーカスが不正など、する訳がない」
ユリウスは入口に立ち、腕を組んで言う。ユリウスの両側にはグリフともう一人騎士が立っていた。
「では何故、あのような背が高い事以外に特徴のない令嬢が最後の五名に残ったのです?あのウェイン家の侍女も」
「ロッテ…シャーロット・ウェインも、マリア・マードックも、俺が好ましいと思ったから残したんだ」
「ルーカス・ウェインが近親者を王太子妃にしようと企んで、巧みに殿下に妹と侍女を売り込んだのですね。さすがユリウス殿下の治世には宰相職かと嘱望される方、すっかり殿下を洗脳しておられるようで」
「殿下を洗脳などと不敬な…」
グリフともう一人の騎士が呟く。
「いや、むしろルーカスは妹も侍女も王太子妃になどしたくなさそうだがな」
ユリウスは少し笑いながら言う。
実際、俺はルーカスに妹がいる事は知っていたが、春に学園で気付くまで名前も顔も知らなかった。本当に売り込む気なら普段の会話にもう少し妹の名前などが出て来るだろうし、ルーカスの立場なら何かと理由をつけて俺と妹を会わせる事もできただろう。
「そんな筈ないわ!王太子妃は貴族女性の頂点よ!麗しい王太子と立ち並び、国中の者に傅かれ、称賛を浴び、羨望の眼差しを受けるられるのよ!」
トレイシーは噛み付く様に言う。
「伯爵家からは王子妃は出ても王太子妃は出た事がないし、子爵家や男爵家では上位貴族と結婚するのだって難しいのよ。王太子妃の選考に参加できるなんて千載一遇の機会だと、本人も家も考えない訳がないわ!」
「だとしても、ルーカスや妹が同じ考えだと言う証明にはならない」
「殿下は騙されているのです。ですから私があの兄妹の化けの皮を剥がしてやろうとしたのよ!」
「それで媚薬を?」
「あの媚薬には大した効果はありません。ほんの五分ばかりで、効力もすぐになくなります。それに、万一効き目が切れなかったとしても、王太子妃になれなくなるだけで、伯爵令嬢の婚姻には何の影響もありませんわ」
ツンと澄まして言うトレイシーに、ユリウスは苛立ちを覚えた。
「婚姻に影響がなければ良いというものではないだろう!」
「!」
ユリウスが声を荒げると、トレイシーはビクリと肩を揺らす。
「…あんな媚薬程度、王族に毒を盛った訳ではないのですから大した罪には問えませんわよね?それに易々と侍女を入れ替える事ができたのは、警備を削っていたと言う事。ルーカス・ウェインが妹の振りをしていたのも、私にわざと罪を犯させるため」
「お前が罪を犯すようこちらが誘導したとでも言いたいのか?普通の人間は誘導されたとて侍女や騎士を金で雇ってまで罪は犯さんだろうよ」
鼻で笑うようにユリウスが言うと、トレイシーは悔しそうに顔を歪めた。
「…大人しく馬に蹴られて怪我でもすれば良かったのよ」
「公園で馬を放ったのを認めるのか?」
「そうよ。でもこれも証拠がないから不問ですわ」
確かに馬はセルザム公爵家の馬だが、蹄鉄を外した瞬間に脱走したと公爵家が言う以上、確たる証拠もなしにトレイシーを罪人扱いする訳にはいかない。ここでトレイシーが何を自白しようと、それは確たる証拠にはなり得ないのだ。
「目的はシャーロット・ウェインに怪我を負わせる事か?それとも俺か?」
「どちらでも。あの妹の方が怪我をしたらいい気味ですし、殿下が怪我をすれば責任問題になりますわ。最低でも妹は婚約者候補からは外れ、上手くすれば兄も殿下の侍従の立場を追われるかと」
「なるほど」
「…殿下があの事件をなかった事にしたのは、あの女を王太子妃候補から外したくなかったからなんでしょう!?騙されないで!王太子妃に相応しいのは、私よ!身分も、家柄も、美貌も、教養も、全てが揃っているわ!だからあの兄妹は王太子に会う前に私を追い落としたのよ!だから私もあの女を引き摺り下ろすのよ!!」
「足りないのは謙虚さと思慮深さか」
喚くトレイシーを見ながら、グリフがうんざりとした表情で小声で言う。
「美貌より必要だろ。それ」
もう一人の騎士も呆れたように言った。
「では、シャーロット・ウェインも、マリア・マードックも、王太子妃候補から外せばお前の疑念は晴れるんだな?」
ユリウスは無表情でそう言った。
ルーカスがシャーロットに化けたお茶会の後、侍女と騎士と共にあっさりと連行されて来たトレイシー・セルザム公爵令嬢に、面会しているのはユリウスだ。
「ルーカス・ウェインとシャーロット・ウェイン、ああ、ウェイン家の侍女の男爵令嬢もかしら、あの三人の不正を見逃すなら、私の罪も見逃してくださいますよね?ユリウス殿下」
王城にある犯罪を犯した貴族を留置する部屋で、トレイシーは優雅にソファに座り、前に流れた綺麗な金色の髪を手で背中に払いながら言った。
王城の留置室はまだ罪が確定していない貴族を文字通り留め置く部屋だ。出入り口が一箇所しかないのと、窓が小さく高い位置にある以外は普通の客間と変わりはない。
「ルーカスが不正など、する訳がない」
ユリウスは入口に立ち、腕を組んで言う。ユリウスの両側にはグリフともう一人騎士が立っていた。
「では何故、あのような背が高い事以外に特徴のない令嬢が最後の五名に残ったのです?あのウェイン家の侍女も」
「ロッテ…シャーロット・ウェインも、マリア・マードックも、俺が好ましいと思ったから残したんだ」
「ルーカス・ウェインが近親者を王太子妃にしようと企んで、巧みに殿下に妹と侍女を売り込んだのですね。さすがユリウス殿下の治世には宰相職かと嘱望される方、すっかり殿下を洗脳しておられるようで」
「殿下を洗脳などと不敬な…」
グリフともう一人の騎士が呟く。
「いや、むしろルーカスは妹も侍女も王太子妃になどしたくなさそうだがな」
ユリウスは少し笑いながら言う。
実際、俺はルーカスに妹がいる事は知っていたが、春に学園で気付くまで名前も顔も知らなかった。本当に売り込む気なら普段の会話にもう少し妹の名前などが出て来るだろうし、ルーカスの立場なら何かと理由をつけて俺と妹を会わせる事もできただろう。
「そんな筈ないわ!王太子妃は貴族女性の頂点よ!麗しい王太子と立ち並び、国中の者に傅かれ、称賛を浴び、羨望の眼差しを受けるられるのよ!」
トレイシーは噛み付く様に言う。
「伯爵家からは王子妃は出ても王太子妃は出た事がないし、子爵家や男爵家では上位貴族と結婚するのだって難しいのよ。王太子妃の選考に参加できるなんて千載一遇の機会だと、本人も家も考えない訳がないわ!」
「だとしても、ルーカスや妹が同じ考えだと言う証明にはならない」
「殿下は騙されているのです。ですから私があの兄妹の化けの皮を剥がしてやろうとしたのよ!」
「それで媚薬を?」
「あの媚薬には大した効果はありません。ほんの五分ばかりで、効力もすぐになくなります。それに、万一効き目が切れなかったとしても、王太子妃になれなくなるだけで、伯爵令嬢の婚姻には何の影響もありませんわ」
ツンと澄まして言うトレイシーに、ユリウスは苛立ちを覚えた。
「婚姻に影響がなければ良いというものではないだろう!」
「!」
ユリウスが声を荒げると、トレイシーはビクリと肩を揺らす。
「…あんな媚薬程度、王族に毒を盛った訳ではないのですから大した罪には問えませんわよね?それに易々と侍女を入れ替える事ができたのは、警備を削っていたと言う事。ルーカス・ウェインが妹の振りをしていたのも、私にわざと罪を犯させるため」
「お前が罪を犯すようこちらが誘導したとでも言いたいのか?普通の人間は誘導されたとて侍女や騎士を金で雇ってまで罪は犯さんだろうよ」
鼻で笑うようにユリウスが言うと、トレイシーは悔しそうに顔を歪めた。
「…大人しく馬に蹴られて怪我でもすれば良かったのよ」
「公園で馬を放ったのを認めるのか?」
「そうよ。でもこれも証拠がないから不問ですわ」
確かに馬はセルザム公爵家の馬だが、蹄鉄を外した瞬間に脱走したと公爵家が言う以上、確たる証拠もなしにトレイシーを罪人扱いする訳にはいかない。ここでトレイシーが何を自白しようと、それは確たる証拠にはなり得ないのだ。
「目的はシャーロット・ウェインに怪我を負わせる事か?それとも俺か?」
「どちらでも。あの妹の方が怪我をしたらいい気味ですし、殿下が怪我をすれば責任問題になりますわ。最低でも妹は婚約者候補からは外れ、上手くすれば兄も殿下の侍従の立場を追われるかと」
「なるほど」
「…殿下があの事件をなかった事にしたのは、あの女を王太子妃候補から外したくなかったからなんでしょう!?騙されないで!王太子妃に相応しいのは、私よ!身分も、家柄も、美貌も、教養も、全てが揃っているわ!だからあの兄妹は王太子に会う前に私を追い落としたのよ!だから私もあの女を引き摺り下ろすのよ!!」
「足りないのは謙虚さと思慮深さか」
喚くトレイシーを見ながら、グリフがうんざりとした表情で小声で言う。
「美貌より必要だろ。それ」
もう一人の騎士も呆れたように言った。
「では、シャーロット・ウェインも、マリア・マードックも、王太子妃候補から外せばお前の疑念は晴れるんだな?」
ユリウスは無表情でそう言った。
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