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 気がつけば、ユリウス殿下を見上げていた。
 ああ、私が横になっていて、ユリウス殿下がベッドの傍に、こちらに背を向けて立っているのね。
 夢?なのかな?
 それとも私あのまま死んじゃったの?

 何かを話しているユリウス殿下の横顔。
 髪が少し乱れて、無精髭も…ユリウス殿下の部屋で見たのと同じ?
 やっぱり私、王子様じゃない生身のユリウス殿下の夢を見てるのかなあ。

「ロッテは嫁に出さない事にしました」
 お兄様の声?
 え、嫁に出さないって、私?何の事?
「…は?」
「私がマリアと結婚し、ウェイン家でずっとロッテと一緒に暮らします」
 ???
 お兄様とマリアが結婚?
 それは嬉しいけど、ずっと私と暮らすって何?
「ルーカス様!?」
 あ、マリアの声。

 ユリウスがベッドから離れるように足を動かし掛けた。

 あ、嫌。行かないで。

「…ユリ…スでん…」
 ユリウスのシャツの裾をシャーロットが掴んだ。

「ロッテ!気が付いたのか!?」
 ユリウスはベッドの傍に跪くと、シャーロットの手を両手で握った。
「…ユリウス殿下…え?あれ?」
 これって夢じゃ…?
 困惑するシャーロット。ユリウスはハッとしてシャーロットの手を離そうとする。
「すまん」
「あ、嫌!」
 シャーロットは思わず、離れようとするユリウスの手をぎゅっと握った。
「ロッテ?」
 見開いた眼、紫の瞳。乱れた髪。薄っすらと髭。
 夢なら、もう少し見ていたい。
 シャーロットはユリウスの手を握ったまま、反対側の手でユリウスの顎を撫でた。
「ふふ。ショリショリ」
「ロ、ロッテ?」
 微笑むシャーロットに、少し赤面するユリウス。
 ユリウス殿下のこんな表情、夢でしか見られないわ。
「ユリウス殿下…好きです」
 なんて、言ってみちゃったりなんかしてみちゃったりして。
「は…?」
 眼を限界まで見開いたユリウスの顔がみるみる赤くなる。

「…どういう事だ?」
 お兄様の声。
「夢だと思ってるんじゃないですか?」
 マリアの声。
「そうではない。ロッテがユリウス殿下を、好き?」
 お兄様の声。
「そうです」
 マリアの声…
「は?本当に?」
 …お兄様の声…驚いてる。
「です」
 マリアの声……

 …え?これ、夢、だよね?

 パチンッ。
 と弾けたようにシャーロットの意識が覚醒する。
 目の前に真っ赤になって片手で口元を覆うユリウス。
 もう片方の手は、シャーロットが握っている。

「夢…じゃ…」
 シャーロットが呆然と言うと、ユリウスは口元を覆ったまま
「ないな」
 と言った。

-----

「な!な…%☆*@℃$!!!」
 狼狽しながらシャーロットが起き上がると、ルーカスとマリアが慌てて
「駄目だ!」
「起きないで!ロッテ」
 と言う。
「だっ!あの!でも」
「脳震盪起こしたんだ。暫く大人しく寝てろ」
 ルーカスがシャーロットの肩を押して横にならせる。
「あの、でも…」
 寝かされたシャーロットが、ユリウスの方をチラッと見ると、ユリウスは口元を覆ったまま、眼を閉じていた。顔は赤いままだ。
 どどどどーしよう!?
 図らずも告白してしまった!
 ユリウス殿下を困らせちゃった!
「ユリウス殿下、固まってますよ」
 ルーカスがユリウスの肩に手を置く。
「…どうしたら良いんだルーカス」
 絞り出すように言う。
 ああ、やっぱり困らせてる!

「俺など、ロッテに相応しくない。なのに…嬉しくて堪らない」

 う、れ、しくて?
 …え?
 ユリウスが伏せていた眼を開けてシャーロットを見る。パチンッと目が合う。
「ロッテ、俺もロッテが好きだ」
 真っ直ぐにシャーロットを見て言うユリウス。
 オレモロッテガスキダ。
 オレモロッテガスキダ。
 オレモロッテガ…
 …俺もロッテが好きだ。って言われたの!?今!?ユリウス殿下が!?
「!??????」

「大分混乱してますね」
 マリアが冷静に言う。
「マリアは殿下がロッテを好きな事、気付いていたのか?」
 ルーカスがマリアに言うと、マリアは頷いた。
「はい。ついさっき。殿下にロッテを保護したって伝えに行った時、そうなのかな~と」

 え?そう言うって事は、お兄様は知ってたの?ユユユユリウス殿下が私を…すすす好きだって事。
 それにマリアも気付いてたの!?
「ロッテ…」
 ユリウスの手を握ったままだったシャーロットの手に、ユリウスがもう一方の手を重ねて来る。
「……」
 あうあうと口をパクパクさせるシャーロットを見つめて、ユリウスは微笑んだ。
「ロッテ…ごめんな」
 あ、また淋しそうな笑顔。何で?
「俺のような何もない男はロッテに相応しくない。でも好きなんだ…ごめん」
 ユリウスは俯いて握った手に額をつける。シャーロットの指にユリウスの額が触れた。
 …何で?
 相応しくないって、それは私の方でしょ?
 それに、何?「俺のような何もない男」って…

 シャーロットはユリウスの手を振り払ってガバッと起き上がった。







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