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 手を振り払われたユリウスは、自分の手をじっと見つめていた。
「起きるな、ロッテ」
 ルーカスが言うと、シャーロットはルーカスをキッと睨む。
「お兄様は!ユリウス殿下が『何もない男』だとお思いなんですか!?」
「…いや、思っていない」
「だったら、どうして殿下がそう思い込んでるんですか!?」
「それは…私のせいでもある。私がユリウス殿下に愛想を尽かしたと思わせるような態度を取った」
 ルーカスは真剣な表情だ。
「何でそんな態度を?」
「…マリアを王太子妃にすると言われたからだ」
「「はあ!?」」
 シャーロットとマリアが同時に言う。
「殿下は本気ではなかった。しかし私は許せなくて…本当にマリアが王太子妃になるなら、ユリウス殿下付きの侍従は辞めるつもりだ、と殿下に言った」
 そんな事が?
「あの。私も混乱してるんですけど、私が王太子妃にって言うのも意味がわからないんですが、ルーカス様がそれが許せないと思ったんですか?何で?」
 マリアが不思議そうな表情でルーカスを見る。
「私がマリアを好きだからだろう?」
 何を不思議がっているのかわからない、と言った表情でマリアを見るルーカス。
「!!」

「お兄様!それは後でマリアと二人きりでゆっくり話してください!それより…」
「やめてくれ。ロッテ」
 俯いたユリウスがベッドの上に置いたシャーロットの手の甲に自分の手を乗せる。
「殿下?」
「思い込んでる訳じゃない。俺には何もないし、誰もいないんだ」
「何故…そう思われるんですか?」
 シャーロットは自分の手の平にユリウスの手の平が重なるようにゆっくりと手を捻る。
 ユリウス殿下、手が冷たい。
「ロッテに…幻滅されたくはない…」
 微かに震える声でユリウスが言う。
 シャーロットはユリウスの手をきゅっと握った。
「しません。幻滅なんて、しないわ」
「そんな事はない。ロッテが好きになったのも、王太子としての俺だろう?」
「違います」
「違う?」
「こうして、無精髭を生やして、髪も乱れて、シャツのボタンも上まで留めていない、王子様ではないユリウス殿下が好きなんです」
 シャーロットはユリウスの頬を撫でた。
「ふふ。ショリショリしてますね」
 にっこりと笑う。
「ロッテ」
 ユリウスは揺れる瞳でシャーロットを見た。

「それに、殿下は『誰もいない』と仰いましたけど、ユリウス殿下を好きなのは私だけではありませんよ?」
「…は?」
「お兄様だって、そりゃあ一時の感情で侍従を辞めるって言ったかも知れませんが、ユリウス殿下の事、個人的に好きだと思います。でしょう?お兄様」
「そうでなければわざわざ殿下付きの侍従になろうとは思わん」
 ルーカスがそう言うと、ユリウスはルーカスの方へ振り向いた。
「私はですね、ユリウス殿下。あのパーティーで会った男の子を弟のように思って、側で支えたくて、侍従になったんです」
「弟…」
「ええ。それに、マリアを王太子妃にと言われていなければ、私はマリアを好きなのだと気付いていなかったかも知れない。殿下にそう指摘されるまではマリアも、ロッテや殿下と同じ『妹弟枠』でしたから」
「…俺とロッテは同じ『妹弟枠』なのか?今も?」
 瞠目してルーカスを見上げる。
「そうです。ですから私はユリウス殿下がどうされても、何を言われても、スアレス殿下には付きませんから」
 スアレス殿下?
 何で急にスアレス殿下が?
 あ、でも、もっとユリウス殿下の事を好きな人はいるってアピールするチャンスかも。
「スアレス殿下と言えば、スアレス殿下やアイリーン殿下も、相当ユリウス殿下の事を好きですよね?」
「は?スアレスとアイリーン?」
 ユリウスが意外そうな表情でシャーロットを見た。
「そうですよ。ね、お兄様」
「ああ。しかしあの二方はツンデレが過ぎて、ツンな処しかユリウス殿下にお見せにならない。だからユリウス殿下には私がいくらそう言っても信じていただけないんだ」
 ルーカスは腕を組んでため息を吐く。
「ツンデレ…とは何だ?」
 ユリウスは眉を顰めて言った。


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