77 / 98
76
しおりを挟む
76
「ロッテ、いくらユリウス殿下と想いが通じたと言っても、イコール結ばれる、ではないのはわかっているか?」
ベッドに寝かされて安静を言い渡されたシャーロットは、ベッドの側の椅子に座るルーカスをチラッと見てから天井を見つめた。
「ルーカス様、今そんな事言わなくても…」
ルーカスと並んで座るマリアが言う。
「言いたくて言っている訳ではないが…」
「…わかってます。お兄様、ちゃんとわかってますから心配いりません」
天井を見ながらシャーロットは言った。
「なら良い。私は仕事に戻るから、くれぐれも安静にしてろよ。ロッテ」
ふっと息を吐きながら言うルーカス。
「はぁい」
ルーカスはマリアの肩を叩くと「ロッテを頼む」と言うと、病室を出て行った。
「ロッテ…」
マリアがシャーロットの手を握る。眉を顰めて、今にも泣き出しそうだ。
「そんな顔しないでマリア。私、本当にわかってるから、大丈夫よ」
「ロッテ」
「それより、マリアとお兄様が両想いになったの、すごく嬉しい!」
シャーロットが明るく言うと、マリアも無理矢理口角を上げた。
「びっくりし過ぎて実感ないわ」
ユリウス殿下は王子で王太子だもの。好きだけで結ばれるとかないのはわかってる。
もうすぐオードリーさんとの婚約も発表されるし。
私みたいな大きい事しか特徴がないような人間が、好きな人から好きって言ってもらえただけで奇跡だもん。これ以上望む事なんてない。充分。満足だわ。
ただ…ユリウス殿下が、私が、お兄様が、みんなが、ユリウス殿下を好きな事、心から納得してくれると良いな。
執務室に戻ったユリウスは無言で椅子に腰掛けた。
「顔色が良くなりましたね」
宰相が言う。
「…三十分より長くてすまなかったな」
「いえ、大きな動きはありませんでしたし、もっとゆっくりでも良かったですよ?」
ニコニコと笑う宰相に、ユリウスは言う。
「少し協力してくれないか?」
「協力、ですか?」
-----
ダダダダダッ。
バタンッ!
足音がして、執務室の扉が勢い良く開いた。
「おや、アイリーン殿下、どうなさいました?」
宰相が振り向いて言う。
開いた扉の前でぜいぜい息をするアイリーンは、執務室を見回した。
「…お、お兄、さ、まは?」
はあはあとした呼吸の合間に声を出す。
「ユリウス殿下なら、ご自分のお部屋に戻られていますが」
「自分の部屋!?」
大きな声を上げるアイリーン。
「ええ」
「お、お兄様が、お、おおお、女を、女…いえ、女性を、どさくさに紛れて、じょ女性を部屋に連れっ、つ、連れ込んでるって、本当なの!?」
息が乱れているという言い訳さえわざとらしい程につっかえながらアイリーンが言うと、宰相は眉を顰めた。
「……」
「ほ、本当なの?」
「……」
宰相はアイリーンから眼を逸らす。
「本当なのね?」
「…私の口からは何とも」
「……」
あんぐりと口を開けたアイリーンの身体の横で握りしめた拳がブルブルと震え出した。
「……お」
「アイリーン殿下?」
「お兄様を誑かしたのは、どこのどいつよ!?」
ルーカスが一足遅れで執務室に入る。
「アイリーン殿下、落ち着いてください」
そう言いながら宰相とアイコンタクトを取るルーカス。
「ルーカスが知らせてくれたんじゃない!落ち着いてなんかいられないわ!」
アイリーンはルーカスの胸ぐらを掴まんかの勢いで言う。
「まあ、ユリウス殿下とて健康な男性ですから、そう言う事がおありになっても…」
宰相が穏やかにそう言うと、アイリーンは手で自分の耳を塞ぐ。
「嫌!嫌ぁ!やめてやめて!お兄様はいつも穏やかで、優しくで、綺麗で、頭も良くて、剣も体術も強くて、完璧なお方よ!そんなことなさらないわ!」
イヤイヤと首を振る。
「一体どこの女なのよ!?お兄様はもうすぐご婚約されるのよ!それをご存知なの!?と云う事は、そ、そういうご商売の方なの?」
「わかりかねますなあ」
「さあ?」
宰相とルーカスは揃って首を傾げた。
「おおおお兄様のお相手は、美しくて、優しくて、嫋やかで、清楚で、奥ゆかしくて、優雅で、艶やかで、麗しい人でないと許せないんだからぁ」
涙目で耳を押さえたまま、しゃがみ込むアイリーン。
「アイリーン殿下は本当にユリウス殿下をお好きですねえ」
宰相がのほほんと言う。
「好きよ!大好きよ!」
アイリーンが言う。
「少々神格化し過ぎですがね」
ルーカスが呆れたように言う。
「神格化じゃなくて、お兄様は神なの!」
アイリーンが叫ぶ。
「そろそろやめてくれ…」
執務机の影から、ユリウスが立ち上がった。
バツが悪そうな表情でアイリーンを見る。
アイリーンが、愕然としてユリウスを見て、悲鳴に似た叫び声を上げた。
「お に い さ ま あ あ ぁ ぁ ぁ」
「ロッテ、いくらユリウス殿下と想いが通じたと言っても、イコール結ばれる、ではないのはわかっているか?」
ベッドに寝かされて安静を言い渡されたシャーロットは、ベッドの側の椅子に座るルーカスをチラッと見てから天井を見つめた。
「ルーカス様、今そんな事言わなくても…」
ルーカスと並んで座るマリアが言う。
「言いたくて言っている訳ではないが…」
「…わかってます。お兄様、ちゃんとわかってますから心配いりません」
天井を見ながらシャーロットは言った。
「なら良い。私は仕事に戻るから、くれぐれも安静にしてろよ。ロッテ」
ふっと息を吐きながら言うルーカス。
「はぁい」
ルーカスはマリアの肩を叩くと「ロッテを頼む」と言うと、病室を出て行った。
「ロッテ…」
マリアがシャーロットの手を握る。眉を顰めて、今にも泣き出しそうだ。
「そんな顔しないでマリア。私、本当にわかってるから、大丈夫よ」
「ロッテ」
「それより、マリアとお兄様が両想いになったの、すごく嬉しい!」
シャーロットが明るく言うと、マリアも無理矢理口角を上げた。
「びっくりし過ぎて実感ないわ」
ユリウス殿下は王子で王太子だもの。好きだけで結ばれるとかないのはわかってる。
もうすぐオードリーさんとの婚約も発表されるし。
私みたいな大きい事しか特徴がないような人間が、好きな人から好きって言ってもらえただけで奇跡だもん。これ以上望む事なんてない。充分。満足だわ。
ただ…ユリウス殿下が、私が、お兄様が、みんなが、ユリウス殿下を好きな事、心から納得してくれると良いな。
執務室に戻ったユリウスは無言で椅子に腰掛けた。
「顔色が良くなりましたね」
宰相が言う。
「…三十分より長くてすまなかったな」
「いえ、大きな動きはありませんでしたし、もっとゆっくりでも良かったですよ?」
ニコニコと笑う宰相に、ユリウスは言う。
「少し協力してくれないか?」
「協力、ですか?」
-----
ダダダダダッ。
バタンッ!
足音がして、執務室の扉が勢い良く開いた。
「おや、アイリーン殿下、どうなさいました?」
宰相が振り向いて言う。
開いた扉の前でぜいぜい息をするアイリーンは、執務室を見回した。
「…お、お兄、さ、まは?」
はあはあとした呼吸の合間に声を出す。
「ユリウス殿下なら、ご自分のお部屋に戻られていますが」
「自分の部屋!?」
大きな声を上げるアイリーン。
「ええ」
「お、お兄様が、お、おおお、女を、女…いえ、女性を、どさくさに紛れて、じょ女性を部屋に連れっ、つ、連れ込んでるって、本当なの!?」
息が乱れているという言い訳さえわざとらしい程につっかえながらアイリーンが言うと、宰相は眉を顰めた。
「……」
「ほ、本当なの?」
「……」
宰相はアイリーンから眼を逸らす。
「本当なのね?」
「…私の口からは何とも」
「……」
あんぐりと口を開けたアイリーンの身体の横で握りしめた拳がブルブルと震え出した。
「……お」
「アイリーン殿下?」
「お兄様を誑かしたのは、どこのどいつよ!?」
ルーカスが一足遅れで執務室に入る。
「アイリーン殿下、落ち着いてください」
そう言いながら宰相とアイコンタクトを取るルーカス。
「ルーカスが知らせてくれたんじゃない!落ち着いてなんかいられないわ!」
アイリーンはルーカスの胸ぐらを掴まんかの勢いで言う。
「まあ、ユリウス殿下とて健康な男性ですから、そう言う事がおありになっても…」
宰相が穏やかにそう言うと、アイリーンは手で自分の耳を塞ぐ。
「嫌!嫌ぁ!やめてやめて!お兄様はいつも穏やかで、優しくで、綺麗で、頭も良くて、剣も体術も強くて、完璧なお方よ!そんなことなさらないわ!」
イヤイヤと首を振る。
「一体どこの女なのよ!?お兄様はもうすぐご婚約されるのよ!それをご存知なの!?と云う事は、そ、そういうご商売の方なの?」
「わかりかねますなあ」
「さあ?」
宰相とルーカスは揃って首を傾げた。
「おおおお兄様のお相手は、美しくて、優しくて、嫋やかで、清楚で、奥ゆかしくて、優雅で、艶やかで、麗しい人でないと許せないんだからぁ」
涙目で耳を押さえたまま、しゃがみ込むアイリーン。
「アイリーン殿下は本当にユリウス殿下をお好きですねえ」
宰相がのほほんと言う。
「好きよ!大好きよ!」
アイリーンが言う。
「少々神格化し過ぎですがね」
ルーカスが呆れたように言う。
「神格化じゃなくて、お兄様は神なの!」
アイリーンが叫ぶ。
「そろそろやめてくれ…」
執務机の影から、ユリウスが立ち上がった。
バツが悪そうな表情でアイリーンを見る。
アイリーンが、愕然としてユリウスを見て、悲鳴に似た叫び声を上げた。
「お に い さ ま あ あ ぁ ぁ ぁ」
10
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい
瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。
伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。
---
本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
転生令嬢は腹黒夫から逃げだしたい!
野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
華奢で幼さの残る容姿をした公爵令嬢エルトリーゼは
ある日この国の王子アヴェルスの妻になることになる。
しかし彼女は転生者、しかも前世は事故死。
前世の恋人と花火大会に行こうと約束した日に死んだ彼女は
なんとかして前世の約束を果たしたい
ついでに腹黒で性悪な夫から逃げだしたい
その一心で……?
◇
感想への返信などは行いません。すみません。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ソウシソウアイ?
野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。
その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。
拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、
諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる