長身令嬢ですが、王太子妃の選考大会の招待状が届きました。

ねーさん

文字の大きさ
95 / 98

番外編3

しおりを挟む
番外編3

「兄が強引ですみません」
 週末のカフェ。テーブルにはケーキと紅茶。向かいには無表情で頭を下げる、銀髪、銀の瞳の美女。
 …カーティスに似てるな。兄妹だから当たり前だが。

 先日、メレディスの職場にカーティスが訪れて「妹を娶らないか」と言い出した。公爵家の令嬢が伯爵家の次男に嫁ぐなんて有り得ないとメレディスは言ったが「いや、妹とメレディスは合うと思う」と言うカーティスに押し切られてこうして会う事になったのだ。

「いや、ブリジット嬢こそ、兄に付き合わされて気の毒にな」
「はい」
 素直に頷くブリジット。
 普通「そんな事ない」とか言うだろうに。いくら兄に付き合わされているとしても素直に「はい」とは…
「メレディス様?」
 ブリジットがメレディスの顔を覗き込むように見てくる。
「…すまん。ツボに…」
 メレディスは口元を押さえて肩を震わせて笑いを堪えていた。

「普段ユリウスやカーティスにもこんな話し方なんだ。不快だったらすまないな」
「いえ」
 公爵令嬢相手には不遜に映るだろうが…
 メレディスはそう思ったが、ブリジットは気にしていないようだった。

「ブリジット嬢は今何歳いくつだ?」
「二十歳です」
 貴族令嬢で二十歳なら既に結婚していてもおかしくない。むしろ公爵令嬢が二十歳まで婚約もしていないとは珍しいな。カーティスは何も言っていなかったが、もしかして婚約が破談になったりした事があるのか?
 まあそうだとしても俺には関係のない話しか。

 ふと気付くとブリジットはじっとケーキを見つめていた。
「食べないのか?」
「……」
「甘い物は苦手なのか?」
「…いえ」
 答えながらもブリジットの視線はケーキに釘付けだ。
「?」
 ブリジットはおもむろに自分の鞄を開けると、小さなスケッチブックと鉛筆を取り出す。
「?」
 スケッチブックを開くとサラサラと鉛筆を走らせ始めた。
「?」
 メレディスがしばらく黙ってそんなブリジットを眺めていると、ブリジットは「ふう」と小さく息を吐いて鉛筆を置く。
「終わったのか?」
 メレディスが言うと、ブリジットはハッとしてメレディスを見た。
「す…すみません」
 ウロウロと視線を彷徨わせるブリジット。

「絵を描いていたのか?」
「はい。すみません。夢中になると周りが見えなくなって。兄や家族からも気をつけるよう言われているのですが…」
 なるほど。おそらくこういうだから婚約もしていないんだろうな。公爵令嬢に合う身分の貴族令息なら目の前で急に絵を描き始めて自分の存在を忘れられるような妻をわざわざ娶ろうとは思わないだろうから。
「そこまで周りが見えなくなるのも珍しい。ケーキを描いたのか?」
「はい。苺がピカピカしていて綺麗で、この三角のバランスが絶妙だったので」
「へえ。面白い視点だな。どんな絵を描くんだ?見せてくれるか?」
「…はい」
 ブリジットは驚いた表情でメレディスを見ている。
「ん?見せたくないなら無理にとは…」
「いえ。お兄様の紹介でお会いした方で絵を見たいと仰った方は初めてで」
「『お兄様の紹介で』会った男性がそんなにいるのか?」
 カーティスめ。何が俺と妹が合うと思った、だ。手当たり次第に妹の嫁ぎ先を探してるだけじゃないか。
「はい。メレディス様が十五人目です」
「ぶふっ!」
 無表情で悪びれず言うブリジットに、メレディスは思わず吹き出した。
「…?」
「あははは。わ…悪い。ブリジット嬢は正直なんだな。でもそれ、次の男には言わない方が良いぞ」
 他の男に十五人もお断りされた令嬢をわざわざ引き受けたい男はいないだろう。
「次…」
 ブリジットが笑っているメレディスを見る。
「ん?」
「いえ。わかりました。次からは言いません」
 次から、って次も断られる前提か。
 正直だ。正直過ぎる。正直すぎておもしろい。

 ブリジットがスケッチブックを差し出した。鉛筆で描かれた苺が本当にピカピカと光っているように見える。
「へえ…こんな短時間でこんなに描けるのか」
「一応、画家なので」
「画家?」
「本業は水彩で、画商に作品を売っています」
「へえ。すごいなそれは」
 白黒でも活き活きと見える苺。色が乗ると、どんな感じになるんだろうか。
「…メレディス様」
「うん?」
「絵を見たいと仰ってくださってありがとうございます」
 ペコリと頭を下げる。
「?」
「初めてで、私、嬉しかったみたいです」
 表情には現れていないが、頬がほんの少し赤い。

 もしかして、多少の好意を持たれてる、のか?
 いや。いやいやいや。
 待てメレディス、お前、ロッテも自分に好意があるんじゃないかと勘違いしてたろ?昔。
 ブリジット嬢も「見合いの席で初めて自分の絵を見たいと言ってくれた相手」が嬉しかっただけだって!

 もしかしなくても、俺って自惚れ屋なのか!?

「メレディス様?」
 ほんの少し頬を染めたまま、ブリジットはじっとメレディスを見ている。
 …まあ、とりあえず、これは確認作業だ。
「今度、ブリジット嬢の描いた水彩画を見せてくれるか?」
 メレディスがそう言うと、ブリジットの頬がまた少し赤くなった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい

瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。 伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。 --- 本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

処理中です...