長身令嬢ですが、王太子妃の選考大会の招待状が届きました。

ねーさん

文字の大きさ
98 / 98

番外編5下

しおりを挟む
番外編5下

「おっそいんだよ。お前は」
 屋敷の階段を降りてくるグリフはうんざりとした表情だ。
「…グリフ、私はアイリーン殿下に付く事にした」
「そうか」
 グリフは玄関ホールに立つバネッサの前へと歩み寄る。
「近衛にはなれなくなるが、良いのか?」
 アイリーンが降嫁する際に公爵家に連れて行く騎士。アイリーンの護衛騎士団にも女騎士はいるが、降嫁を機に騎士を辞める者などもいるため、人数が足りずユリウスやスアレスの騎士団の女騎士にも話が持ち掛けられたのだ。
「…アイリーン殿下付きになれば、視察などに伴うような任務はなくなるだろう?」
「視察が嫌なのか?」
「視察自体は嫌ではない。ただグリフもユリウス殿下が出張などされる時付いて行くから…」
「そうだな」
 グリフが不思議そうに首を傾げてバネッサを見る。
 バネッサは真っ直ぐにグリフを見つめた。
「すれ違うのは、嫌だ、と思ったんだ」
「すれ違う?」
「つまり、グリフが王都にいる時に、私が視察でいないのが…」
 実際、それで暫く…長いと半年近くも会えない事が何度かあったから。
「ふーん」
 グリフは頭を掻きながら視線を上に上げる。

「私は…遅かったのか?」
「…は?」
 グリフは視線を下ろして、ぎょっとする。
 バネッサの頬に涙が流れていた。
「なっ、泣…」
「遅いと言っただろう?さっき」
 表情は変わらず、ただ涙が次々に流れる。

 グリフは「はあ」とため息を吐くと、バネッサを抱きしめた。
「?」
「二週間も音沙汰なく待たせるから『遅い』と言ったんだ」
 バネッサの顔を自分の肩に押し付ける。
 涙がグリフのシャツに吸い込まれた。
「グリフ」
 バネッサはグリフの背中に手を回す。
「私が無神経だったんだな。ロッテ様やマリア様にもグリフが怒るのは当然だと言われた」
「そうか」
「それと、アイリーン殿下に付く事、一番にグリフに言えと」
「ロッテやマリアに言われる前に気付いてくれるともっと良かったが、二人には感謝しよう」
 愛おしそうにバネッサの背中を撫でた。

「俺とすれ違いになるのが嫌でアイリーン殿下に付くのか?」
「それだけではないが、それが大きな理由ではある」
「近衛になれなくて、本当に後悔しないのか?」
「わからない。でもそうしなくてすれ違いが破局になってしまっても後悔する」
「…後悔するのか?」
 背中を撫でる手が止まる。
「?」
「俺と破局したら、バネッサは後悔するのか?」
「しないと思うのか?」
 背中に回した手に力を入れた。
「何となくそうなったとしても『仕方ない』で済まされる気がしていた」
「…私を何だと思ってるんだ?」
 グリフの背中を摘んで捻る。
「いてて。ごめん」
 グリフは半笑いでバネッサをますます強く抱きしめた。

「それで…」
「うん?」
「グリフ、私と結婚して欲しい」
「…どうした?急に」
 グリフは腕を緩めてバネッサの顔を覗き込む。
 凛とした瞳でバネッサはグリフを見る。涙は止まっていた。

「上官に『家族に相談しろ』と言われたが、辺境伯領は遠い。私は誰にもこの事を相談しなかった。だが、上官の言う『家族』にはグリフが含まれていたんだと思い至ったんだ」
「バネッサの上官は俺の同期だ。バネッサと俺の事もよく知っているしな。それにしても良く思い至ったな?」
「…正直に言えば、ロッテ様にそのような事を言われた」
「はは。そうなのか」
 バネッサらしい。とグリフは笑う。

「私だけの考えでは色々なかなか思い至らないと言う事がよくわかった。だったら言葉と実態を一致させれば良い」
「それが結婚?」
「そう。夫は家族の中でも一番手だろう?『家族と言えばグリフ』にしてしまえば良いと」
「なるほど」
 笑って、グリフはバネッサに顔を近付けると、唇を重ねた。

「バネッサ。俺と結婚してくれ」
 何度もキスをしながら言う。
「…ん」
 バネッサは言葉にできず、小さく頷いた。

「バネッサの気が変わらない内に既成事実を作るか」
 バシンッ!
 グリフの呟きに、バネッサはグリフの背中を叩く。
「そういうのは結婚してからだ!」
「わかったわかった」
 苦笑いするグリフ。
「…だから、早く結婚しよう」
 バネッサは赤くなりながら、そう言った。



          ー完ー

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

転生令嬢は腹黒夫から逃げだしたい!

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
華奢で幼さの残る容姿をした公爵令嬢エルトリーゼは ある日この国の王子アヴェルスの妻になることになる。 しかし彼女は転生者、しかも前世は事故死。 前世の恋人と花火大会に行こうと約束した日に死んだ彼女は なんとかして前世の約束を果たしたい ついでに腹黒で性悪な夫から逃げだしたい その一心で……? ◇ 感想への返信などは行いません。すみません。

処理中です...