王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん

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 灯りを持ち先に歩くジーンにダイアナがついて行く。
 その様子をアリシアは自室のバルコニーから息を殺して見ていた。

 どうしてジーンとダイアナが?こんな夜中に?

 そのまま二人は庭の向こうへ消えて行き、灯りも見えなくなった。庭の向こうには厩舎と離れがある。
 厩舎は暖かいから使用人同士が逢瀬に使う事があるとアリシアはメイドから聞いた事があった。あるいは離れは普段無人だが、学園卒業後第二執事としてウィルフィス家に仕えるジーンは離れの鍵を持っているのかも知れない。

 でも、ジーンもダイアナもこの本邸に個室があるのよ。わざわざ厩舎や離れに行かなくても自分の部屋で会えるはずだわ。
 …じゃあ何のために二人は?
 そもそもジーンとダイアナは恋人同士なの?

 そう考えるとアリシアの胸はズキンと傷んだ。
 ジーンと寄り添うダイアナを想像する。ダイアナは頬を染めて微笑みながらジーンを見て、ジーンはアリシアの前では無表情なのに、とても優しい瞳でダイアナを見ている。

 嫌!

 アリシアは暗い庭を見つめたままそう思った。

 翌日、アリシアは学園を卒業後、将来ウィルフィス侯爵家を継ぐため父に付いて仕事をしているグレッグの執務室を訪れる。
 アリシアに付き添って来たダイアナはグレッグと、控えていたジーンに会釈し、退室して行った。
 いつもと変わりないジーンとダイアナの様子をアリシアはじっと窺ってしまう。今朝はダイアナと目を合わせる事が出来なかった。
「お嬢様?」
 ジーンに声を掛けられて、アリシアはハッとする。
 視線を彷徨わせるアリシアに、心配気にジーンが言う。
「どうかなさいましたか?」

 ジーンは、ダイアナにはどんな話し方するのかしら。
 …昔の私に対するみたいに話すのかな。

「アリシア、大丈夫?」アリシアの目に小さい頃のジーンが浮かぶ。心配そうな黒い瞳は変わりないのに、その瞳に映るアリシアはもう小さいアリシアじゃない。

 …あんな風に私を呼んでくれる事はもうないのね。

 アリシアの瞳に涙が滲んだ。
「お嬢様!?」
 にわかに慌てた様子を見せるジーンに、アリシアは微笑み掛けた。
「ちょっと寝不足なだけ。平気よ」
 ジーンから目を逸らすとグレッグに話し掛ける。
「お兄様。今日の午後、ホリーが遊びに来るの。三時のお茶に招待しましょうか?」
 わざと明るい声を出して言った。ジーンは心配そうにアリシアを見ていたがアリシアは気付いていない。
「ホリーが…」
 呟くグレッグの耳が赤い。
「卒業してから会ってないのに、まだ好きなの?」
「うるさい」
 揶揄うように言うと、グレッグはそっぽを向いた。

-----
 
 ホリーがウィルフィス邸を訪れて、アリシアとグレッグとお茶をした。
「お兄様はお父様の持ってくる縁談をことごとく断るのよ」
 アリシアが澄ましてホリーに言うと
「アリシア!」
 飲んでいた紅茶に咽せそうになりながらグレッグが言う。
「まあ、どうしてですか?」
 ホリーがグレッグを見ると、グレッグはばつが悪そうな顔で「ギリギリまでは…」と呟くが、ホリーには聞こえていない。
 どうやらいつかホリーの縁談が纏まってしまうまでは、自分はフリーでいるつもりらしい。

 その後、アリシアの部屋で二人で話しをする事にした。ホリーと話す時はいつも侍女もメイドも下げて二人きりだ。
「そう。殿下は聞いてくださらなかったのね」
 ホリーがため息混じりに言う。
「そうなの。今度はマリーナ様に言わなきゃだけど…」
「アリシアが直にマリーナ様と話したら威圧したとか虐めたとか言われちゃいけないし、私が言うわ」
「でもホリーは当事者じゃないし、それこそ私が言わせた、みたいになってもホリーも困るじゃない」
「そうね…」
 うーん…と二人で考え込んでいると、ふとアリシアが言った。
「殿下とマリーナ様を二階から見た事があったじゃない?」
「うん」
「あの時、私『殿下も人目につくような所で何してるのよ』って腹立たしかったの」
「うん」
「昨夜ね、夜中に…庭に二人でいるジーンとダイアナを見たの」
「え?あの二人、そうなの?」
 ホリーが驚いて言うと、アリシアは俯いてスカートの上でギュッと拳を握る。
「…私ね、その時『嫌だ』って思ったの。…ダイアナを大好きなのに…」
「アリシア、ジーン様を…好きなの?」
 ホリーの問いに、アリシアはこくんと頷いた。
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