悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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 講堂から駆け出たイライザは、講堂と校舎の間にあるベンチに座り込んで両手で顔を覆った。
「……」
 ミアはヒロインだから、赤い糸が見えるのも、切れるのも当たり前だけど、何でディアナ様とアレックス様の赤い糸を切ったのかわからない。
 アレックス様は攻略対象者じゃないし、ミアはグレイ殿下とあんなに親密なんだから、殿下の一番の友人であるアレックス様を狙ってる訳ないだろうし。

 …グレイ殿下。
 冷たい目で冷たい声だった。
「うう…」
 涙が次々と溢れる。

「何してるのよ」
 女性の声にイライザが顔を上げると、目の前にブリジットが立っていた。
「…ブリジット?」
「折角最近印象が変わって来てたのに、これでまた逆戻りじゃないの」
 ため息混じりに言う。
 そうか、私が大人しくなって、これまでブリジットに掛けてた迷惑も多少減ってただろうけど、これでまた逆戻り…
「……ごめ…」
 何のために私はイライザに生まれ変わったんだろう。
 せめて断罪されるのだけは避けたかったけど、グレイ殿下の様子ではそれもやっぱり無理かも知れない。
 結局、フォスター家を巻き込んでしまうかも。
「は?何で私に謝ってるの?」
「え?だってブリジットにまた迷惑…」
「ああ。そんなの今更よ」
 ケロリとした顔でブリジットは言った。
 今更?じゃあ何が「折角」で、何が「逆戻り」なの?
「?」
 イライザは涙でぐちゃぐちゃの顔でブリジットを見上げる。
「あ、ん、た、の、評判が、逆戻りだって言ったの!」
 ビシッとイライザを指指す。
「私の?」
 折角少し良くなって来た私の評判がまた逆戻りしてしまうって…ブリジットがそう言ってるの?

「あの女、わらったでしょう?さっき」
 ブリジットが眉間に皺を寄せて言った。
「あの女ってミアの事?」
「そうよ。姉様が頬を叩く前と、もう一度叩こうとしてグレイ殿下に止められる前」
「気付いてたの?…って、それよりブリジット今『姉様』って…」
 ミアが入学して来てから…つまり、私が悪役令嬢になってから、ブリジットは私の事をさっきみたいに「あんた」とか良くて「貴女」って呼んでて、絶対に「姉」とは呼んでなかったのに。
「……」
 気付かれたか。と言うようなバツの悪そうな表情でブリジットは「はあ」とため息を吐くと、イライザの隣に座った。

「お兄様が…姉様が変わったのは本当かも知れないって、信じても良いかも知れないって言うから…でも私そう簡単には信じられなくて、だからあれからずっとあの女を観察してたの」
「ミアを?」
「そう。あれだけ虐めたのには何か理由があったのか、と思って。だからさっきもずっとミアを見てた。だから嗤ったのに気付いたの」
 私は、ただ、グレイ殿下に近付くミアが憎かった。
 学園や貴族社会の不文律やルールやマナーを守らない、はしたなくて馴れ馴れしいミアを許せなかった。
 それ以外に理由なんて…

「さっきのあの女は姉様を怒らせようとしていたように見えたわ。これで挑発したように見えたけど、違う?」
 これ、と言いながら、ブリジットは手の平を上に向けて手を前に伸ばすと、その手をギュッと握った。
「!」
 イライザは瞠目してブリジットを見る。
「やっぱりそうなのね」
「……」
 挑発。そう、あの時ミアは私を見ながら、ディアナ様とアレックス様の赤い糸を握った。
 もしかして、私を怒らせるために?

「…とても人様に見せられるような顔じゃないわ」
 そう呟くと、ポケットからハンカチを取り出したブリジットはイライザの顔をゴシゴシと擦った。
「痛い…」
 されるがままでイライザが呟くと、ブリジットは
「私の心の傷の方が痛かった」
 と言う。
「そうね。ごめん」
「素直だと気持ち悪い」
「ちょっ、酷くない?」
「酷くない」
 ブリジットはそう言うと手を止めて、ハンカチをイライザに渡すと、ベンチから立ち上がった。

「幸いこれから夏期休暇だし、続きは家で話しましょう」
「続き?」
「私があの女を『あの女』呼ばわりしてる理由を話すわ」
 そうだわ。ブリジットが根拠もなくミアを「あの女」なんて呼ぶ訳がない。ブリジットは悪役令嬢な私とは違うんだから。

 寮の方へ歩き出すブリジットを追い掛けるようにイライザも立ち上がって歩き出した。



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