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「今日のイライザの本気で傷付いた顔…見ていられなかったよ」
舞踏会の後、夏期休暇に入るため王宮に戻ったグレイとロイ、エドモンド。
グレイの私室のソファに足を組んで座ったエドモンドはため息混じりに言った。
「……」
向かいに座るグレイは無言で紅茶を飲む。
「エドモンドはイライザ嬢を追い掛けたんですよね?」
エドモンドの隣に座るロイが言うと、エドモンドは肩を竦めた。
「もちろん追い掛けたさ。泣いているイライザを放ってはおけないし、付け込むチャンスだと思ったしね」
グレイはそう言うエドモンドにチラリと視線を向けると、また視線を逸らす。
「でも、イライザの妹が同じくイライザを追って来たから、俺はそっと引き下がったんだ」
「ブリジットが?」
ロイがエドモンドの方を向くと、エドモンドは片眉を上げた。
「そう。ロイから聞いていたが、イライザの妹はイライザ程ではないが、気の強そうな美人なんだな」
「ええ。でも、ブリジットは気が強いだけではなく、優しくてかわいいんですよ」
「はいはい。ではロイはブリジットの優しくてかわいい処を好きになったのか?」
エドモンドが言うと、グレイがロイへと視線を動かす。
「気が強い処も好きです」
「…は?ロイがブリジット嬢を好き?」
グレイが言うと、エドモンドとロイがグレイを見た。
「あれ?ロイ、グレイはロイがイライザの妹を好きな事、知らないのか?」
「そうですね。兄上に話した事はないです」
「何故?」
グレイはロイを真っ直ぐに見る。
「兄上?」
「何故ロイはブリジット嬢を好きになったんだ?」
「えーと、兄上は王宮の庭の隅に僕が花壇を作っているのをご存知ですよね?」
「ああ。いつもかわいらしい花が咲いている花壇だ。そう言えばロイは学園でも園芸部に入っているんだったか」
「へえ。ロイは土いじりが好きなのか?」
グレイが頷くと、エドモンドが驚いて言った。
「そうなんです。王宮の庭にある僕の花壇は本当に隅の隅で、割と小さくて地味な花を植えてあるんです」
「小さくて地味な花?」
エドモンドが言うと、ロイは頷く。
「ええ。野の花もあります。大輪の花は庭に咲き乱れているので、全く逆でかわいくて和むのが良いなあと思いまして。それで、三年くらい前の母上のお茶会に貴族のご婦人や令嬢令息が来ていて、その中にブリジットが居たんです」
-----
そのお茶会はたまたまロイと歳の近い令息はおらず、王太子妃である母とご婦人方の会話には入れず、暇を持て余したロイは自分の花壇に足を向けたのだ。
花壇の方へ近付くと、三、四人の令嬢たちが何やら話している声が聞こえて来た。
「何これ、雑草かしら?」
「折角の素晴らしい庭園なのに、なあに?このみすぼらしい花は」
「ここだけ手入れされてないだけではないの?」
「きっとそうだわ」
クスクスと笑いながら、或いは嘲りの匂いを含ませながら、令嬢たちは話し続ける。
みすぼらしい雑草で悪かったな。素朴なのが良くて敢えて植えてるんだから、放っておいてよ。
しかし、僕が世話してる花壇だって知ったらさすがに気不味いだろうから、令嬢たちが居なくなるまで待つか。
ロイは花壇から少し離れたバラの花の影で立ち止まった。
「手入れされていないなら、お手入れして差し上げましょうよ」
「ええ?この雑草抜くつもり?」
「そんな事したら手が汚れちゃうわ」
いやいやいや、抜かないでよ。まあ手を汚してまでそんな事をする令嬢はいないだろうけど。
「手を汚す事はないわ。こうすれば」
ザグッ。
ん?何の音?
「ああ、そうね」
「いいわね」
ザクッ。ザクザク。
何をしているんだ?
ロイがバラの花と葉の間から花壇の方を伺い見ると、三人の女の子が花壇の中に入り、小さな花たちを踏み躙っていた。
「なっ…」
ロイが飛び出して行こうとすると、
「やめなさい!」
と鋭い声がする。
「花壇から出なさい!早く!」
女声なのは確かだが、これは誰の声だ?
「何よ偉そうに。私たちは雑草のお手入れをしてあげただけだわ」
「これは雑草じゃないわ。こんなにかわいい花がたくさん咲いているじゃない」
…!
ロイは思わず声を出しそうになって自分の口を両手で押さえた。
「かわいい?どう見ても雑草でしょう?」
「よく見て。この花の根元、他の草が一本もない。きちんと手入れしてこの花を育てている証拠だわ」
「……」
「…ブリジット様、貴女、歳下の癖に私たちに命令するなんて随分と偉くなったのね」
一瞬の沈黙を破り、花を踏み躙った三人の内の一人が言う。
ブリジット!
この女の子はブリジットと言うんだ!
ロイはそっと花壇の方を覗いて見た。
「今日のイライザの本気で傷付いた顔…見ていられなかったよ」
舞踏会の後、夏期休暇に入るため王宮に戻ったグレイとロイ、エドモンド。
グレイの私室のソファに足を組んで座ったエドモンドはため息混じりに言った。
「……」
向かいに座るグレイは無言で紅茶を飲む。
「エドモンドはイライザ嬢を追い掛けたんですよね?」
エドモンドの隣に座るロイが言うと、エドモンドは肩を竦めた。
「もちろん追い掛けたさ。泣いているイライザを放ってはおけないし、付け込むチャンスだと思ったしね」
グレイはそう言うエドモンドにチラリと視線を向けると、また視線を逸らす。
「でも、イライザの妹が同じくイライザを追って来たから、俺はそっと引き下がったんだ」
「ブリジットが?」
ロイがエドモンドの方を向くと、エドモンドは片眉を上げた。
「そう。ロイから聞いていたが、イライザの妹はイライザ程ではないが、気の強そうな美人なんだな」
「ええ。でも、ブリジットは気が強いだけではなく、優しくてかわいいんですよ」
「はいはい。ではロイはブリジットの優しくてかわいい処を好きになったのか?」
エドモンドが言うと、グレイがロイへと視線を動かす。
「気が強い処も好きです」
「…は?ロイがブリジット嬢を好き?」
グレイが言うと、エドモンドとロイがグレイを見た。
「あれ?ロイ、グレイはロイがイライザの妹を好きな事、知らないのか?」
「そうですね。兄上に話した事はないです」
「何故?」
グレイはロイを真っ直ぐに見る。
「兄上?」
「何故ロイはブリジット嬢を好きになったんだ?」
「えーと、兄上は王宮の庭の隅に僕が花壇を作っているのをご存知ですよね?」
「ああ。いつもかわいらしい花が咲いている花壇だ。そう言えばロイは学園でも園芸部に入っているんだったか」
「へえ。ロイは土いじりが好きなのか?」
グレイが頷くと、エドモンドが驚いて言った。
「そうなんです。王宮の庭にある僕の花壇は本当に隅の隅で、割と小さくて地味な花を植えてあるんです」
「小さくて地味な花?」
エドモンドが言うと、ロイは頷く。
「ええ。野の花もあります。大輪の花は庭に咲き乱れているので、全く逆でかわいくて和むのが良いなあと思いまして。それで、三年くらい前の母上のお茶会に貴族のご婦人や令嬢令息が来ていて、その中にブリジットが居たんです」
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そのお茶会はたまたまロイと歳の近い令息はおらず、王太子妃である母とご婦人方の会話には入れず、暇を持て余したロイは自分の花壇に足を向けたのだ。
花壇の方へ近付くと、三、四人の令嬢たちが何やら話している声が聞こえて来た。
「何これ、雑草かしら?」
「折角の素晴らしい庭園なのに、なあに?このみすぼらしい花は」
「ここだけ手入れされてないだけではないの?」
「きっとそうだわ」
クスクスと笑いながら、或いは嘲りの匂いを含ませながら、令嬢たちは話し続ける。
みすぼらしい雑草で悪かったな。素朴なのが良くて敢えて植えてるんだから、放っておいてよ。
しかし、僕が世話してる花壇だって知ったらさすがに気不味いだろうから、令嬢たちが居なくなるまで待つか。
ロイは花壇から少し離れたバラの花の影で立ち止まった。
「手入れされていないなら、お手入れして差し上げましょうよ」
「ええ?この雑草抜くつもり?」
「そんな事したら手が汚れちゃうわ」
いやいやいや、抜かないでよ。まあ手を汚してまでそんな事をする令嬢はいないだろうけど。
「手を汚す事はないわ。こうすれば」
ザグッ。
ん?何の音?
「ああ、そうね」
「いいわね」
ザクッ。ザクザク。
何をしているんだ?
ロイがバラの花と葉の間から花壇の方を伺い見ると、三人の女の子が花壇の中に入り、小さな花たちを踏み躙っていた。
「なっ…」
ロイが飛び出して行こうとすると、
「やめなさい!」
と鋭い声がする。
「花壇から出なさい!早く!」
女声なのは確かだが、これは誰の声だ?
「何よ偉そうに。私たちは雑草のお手入れをしてあげただけだわ」
「これは雑草じゃないわ。こんなにかわいい花がたくさん咲いているじゃない」
…!
ロイは思わず声を出しそうになって自分の口を両手で押さえた。
「かわいい?どう見ても雑草でしょう?」
「よく見て。この花の根元、他の草が一本もない。きちんと手入れしてこの花を育てている証拠だわ」
「……」
「…ブリジット様、貴女、歳下の癖に私たちに命令するなんて随分と偉くなったのね」
一瞬の沈黙を破り、花を踏み躙った三人の内の一人が言う。
ブリジット!
この女の子はブリジットと言うんだ!
ロイはそっと花壇の方を覗いて見た。
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