悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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「イライザ様、一緒にお出掛けしましょう!」
 朝食の席で、笑顔で小首を傾げながら言ったのはミアだ。
 六人の令嬢たちは四角いテーブルに三人づつ並んで向かい合わせに座っている。一番上座にディアナ、その隣にナタリア、そしてイライザ。ディアナの向かいにミア、ミアの隣にマリアンヌ、マリアンヌの隣でイライザの向かいにブリジット。
 つまり、一番遠い対角に座るイライザに、ミアはわざわざ話し掛けたのだ。
「しません」
 イライザはできるだけ声に感情を乗せないように気をつけながら言う。
 そもそも、公爵令嬢であるディアナの向かいに座るべきなのは同じ公爵家の令嬢であるマリアンヌなのだ。そして本来は、子爵令嬢のナタリアと侯爵令嬢のイライザは席が逆の筈だし、マリアンヌの隣には侯爵令嬢のブリジット、そしてその隣に男爵令嬢のミアと並ぶのが貴族社会の習わしだ。
 それをミアとイライザの席が一番遠くになるように皆が気を遣ってくれた結果、この席順になったので、イライザとしてはミアと会話などするつもりもない。

「ええ~私イライザ様と街歩きしたいのにぃ」
「しません」
「行きましょうよ~。雑貨を見たり、屋台の食べ物を食べたり、楽しいですよ?」
「行きません」
 イライザとミアの会話に、ブリジットは眉を顰めて俯き、マリアンヌとナタリアは訝し気にミアを見る。ディアナは心配そうにイライザを伺い見ていた。
「じゃあ今日は諦めますけど、こちらに滞在する間に一回は一緒にお出掛けしてくださいね!」
 屈託なくミアは笑う。
「…しないってば」
 イライザは小声で呟いた。

「そうだわ!皆んなでピクニックとかどうですか?お弁当持って、馬と馬車で湖の向こう側へ行きましょうよ」
 ミアが楽しそうに言うと、ミアとイライザ以外の四人は顔を見合わせる。
「…まあ、皆で、と言う事なら……」
 仕方ないわね、と言外に滲ませながらディアナが言うと、三人は渋々頷いた。
「やったぁ!じゃあ早速男性陣と計画を練りますね!」
 ミアは嬉しそうに言い、席を立ち、食堂を出て行く。

 残された五人はしばらく無言でいたが、マリアンヌが口火を切った。
「ここに来て一週間、ミア様は『一緒にお茶会』『一緒に観劇』『一緒に散歩』『一緒にチェス』『一緒に盤双六』『一緒に馬乗り』『一緒にお出掛け』と毎日イライザ様を誘っては断られていますけど、何をお考えなのでしょう?」
 皆が「さあ…?」と首を傾げる中、イライザはそっとディアナの手首を見る。
 やっぱり赤い糸、見えないわ。
「イライザ様以外の方を誘わないのも不思議ですよね」
 ディアナが首を傾げて言う。
「今日、初めて『皆んなで』と言う言葉を聞きましたわ」
 マリアンヌがそう言いながらブリジットに「ね?」と同意を求めた。
 頷きながらブリジットはイライザを見る。
「姉様、一度誘いに乗ってみたら?」
「え。ヤダ」
「ミア…様が何を考えてるかわかるかもよ?」
「でも嫌」
 イライザはブンブンと首を横に振った。
「まあ…嫌なのはわかるけど」
 だって、ミアの近くにいるって事は殿下に近付くって事よ。それは殿下だって嫌だと思うし、せっかくここまでほぼ顔を合わせずに過ごしたんだもの、あと一週間で帰るんだから、波風立てたくない。

 朝食後、自分の部屋に帰ろうとブリジットとマリアンヌと並んで廊下を歩いていると、後ろからディアナの声がした。
「イライザ様、少し良いかしら?」
「ディアナ様?」
 ブリジットとマリアンヌは部屋へ帰り、イライザとディアナは保養所の庭へと出る。
 保養所と名付けられてはいるが、実際は貴族の別荘と同じだ。庭には手入れされた花々が咲き、東屋もある。

「あのね…今日私、アレックス様たちと湖にボートに乗りに行くの」
 東屋のベンチに並んで座ると、言い難そうにディアナが言う。
「はい」
「…イライザ様、一緒に来て私とボートに乗ってくれないかしら?」
「え?」
 湖のボートは手漕ぎの二人乗りの小さなボートで…普通なら婚約者同士であるディアナ様とアレックス様が二人で乗るわよね。
 それに手漕ぎボートに非力な貴族令嬢が二人で乗って、誰が漕ぐの?
「ディアナ様?」
「ここに付いて来てもらっただけでもイライザ様には申し訳ないし、感謝しているけど…私、アレックス様と二人きりになりたくないの」
 ディアナはそう言うと辛そうな表情で俯いた。



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