悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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 湖に浮かぶ小島へ向かって、自分たちのボートから遠ざかって行くディアナたちの乗ったボートを眺めながら、アレックスは小さくため息を吐いた。
「アレックス」
 アレックスの向かいに座るグレイがアレックスを呼ぶ。
「はい」
「ディアナ嬢と喧嘩でもしたのか?」
「……」
 一瞬眉を顰めるアレックス。

「アレックス様はディアナ様との婚約を解消しようとか、考えた事はないんですかぁ?」
 グレイの隣に座るミアがアレックスの方に乗り出すようにしながら明るい口調で言う。
「は…?」
 今度ははっきりと眉を顰めてアレックスはミアを見た。
「家同士が決めた婚約ですよね?他の女性ひとと恋愛してみたいとか、考えたりした事ないですか?」
「ない」
 ぶっきらぼうにアレックスは言う。
「そうなんですかぁ。でも人の気持ちって変わっちゃう事もありますからね。もしそうなったとしても仕方ないですよね!」
 そんな軽い口調で言う事か?
「ミア?何を言ってるんだ?」
 グレイが困惑した表情でミアを見た。
「一般論ですよ?」
 ミアはニコリと笑って首を傾げる。
 アレックスはミアを一瞥し、ディアナの乗ったボートの方へ視線を移した。

 人の気持ちは変わる事もある、か。
 ああ、そうだな。
 ディアナを嫌いになった訳ではないのに、以前のような愛しさを感じなくなった。
 …何故だ?
 喧嘩などしていない。だが、喧嘩のように理由がある方が、余程救われる。
「アレックス様も新しいに出会うかも知れませんね」
 ミアが笑う。

 そう言えば、舞踏会でイライザ嬢がミア嬢を叩いた後「戻しなさいよ」と言っていたが、あれは何だったんだろう?
 それにディアナに「ごめんなさい」と謝っていた。あれは?

 アレックスがディアナとイライザの方へ目をやると、到達した小島に上陸しようとするディアナが、エドモンドとイライザに両手を引かれて楽しそうに笑っているのが見えた。

-----

 ナタリアがボートを漕ぐジェフリーを見ると、ジェフリーと視線が合った。
「どうした?」
「…ジェフリー様が、最近はあまりイライザ様を気にしていないな~と思いまして」
 両肘を自分の膝に置いて、頬杖をつき、ジェフリーを上目遣いで見るナタリア。
「イライザ嬢か…ああ…まあな」
 ジェフリーは歯切れ悪く言うとオールを漕ぐ。
「エドモンド殿下が来られたばかりの頃にはイライザ様をエドモンド殿下に近付けないように結構邪魔してたように思いますけど?」
 ナタリアは頬杖をついたまま少し首を傾げた。
「あー…そうだなあ。イライザ嬢が、思っていた印象と違ったからな。特定の女子を虐め、グレイ殿下に付き纏うとんでもない令嬢だと思っていたから、ガイド役が勤まるのかと心配していたし、同時に隣国へ行ってしまえば良いのにとも思っていたんだ。しかし初めて話をした時、イライザ嬢の印象が大きく変わった。彼女は傍若無人でも高圧的でもなく、ごく普通の女性だった。それに、ミア嬢とも普通に話していて、グレイ殿下に迷惑を掛けた事も悔いているようだった」
 オールを漕ぎながら話すジェフリー。
「まあ…それはわかります」
 ナタリアも頷いた。
「エドモンド殿下を迎えるにあたって食堂の中二階で会議をしただろう?あの時も、イライザ嬢はグレイ殿下やミア嬢と顔を合わせない位置へ敢えて座った。それなのにミア嬢はイライザ嬢に話し掛けて来た」
「そうでしたね」
「昼食を摂りながらとは言え、会議中なのはわかるだろうし、イライザ嬢がグレイ殿下を好きな事は良く知っている筈で、敢えて背中を向けていたにも関わらずミア嬢はイライザ嬢に無邪気に話し掛けて…何となくイライザ嬢からミア嬢を遠ざけてやりたい気持ちになって、割って入ったんだ」
「無邪気…」
 ナタリアは小さく呟く。

「ナタリアも知っている通り、イライザ嬢がガイド役になったのはからの指名だ。俺は以前のようにイライザ嬢が隣国へ行ってしまえば良いとは思わなくなっていたから、イライザ嬢の気持ちを置き去りにしてエドモンド殿下の花嫁候補として扱われるのは辛いんじゃないかと思った。エドモンド殿下もイライザ嬢を気に入っているとは言っておられたが、軽口なのか本気なのか良くわからなかったし…だからエドモンド殿下がイライザ嬢に近付くのを遮っていたんだ」
「…好きなのかと思いました」
 ナタリアはジェフリーを見つめながら言った。
「好き?」
 意外そうに目を丸くするジェフリー。
「ジェフリー様が、イライザ様を」
 ナタリアは探るような視線でジェフリーを見る。
「は?…ああ、そう見えたか?そんな気はなかったが…確かに誤解を招く態度だったかも知れないな」
「本当に?」
「…心配させたんだな。すまなかった」
 ジェフリーはオールを片方離すと、ナタリアの頭を軽く撫でた。



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