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イライザの部屋へ挨拶に訪れたブリジットは、エドモンドが王城へ戻った事を聞く。
「ご挨拶できなくて…ご無礼いたしました」
「いつもこちらが邪魔しているのだから気にする事はない」
グレイがそう言うと、ブリジットは頷いた。
「ありがとうございます」
「そう言えば、ロイもイライザの見舞いに来たいと言っていたが、良いか?」
「ええ。もちろん。ロイ殿下はマリアンヌが落ち着くまで保養地に残られたのですよね?」
「ああ。一週間向こうで静養して三日前に王都に戻ったな」
マリアンヌはソファの向かい側に座るグレイを上目遣いで見る。
「それで、マリアンヌからの手紙に…ロイ殿下に求婚されたと書かれていたのですが」
「ああ。ロイはその事もブリジット嬢へ話したいと言っていた」
「そうですか」
ブリジットはホッと息を吐いた。
カチャ。
グレイとブリジットの居る部屋から続いた、イライザの眠っている寝室の扉が開く音がし、傍に付いていたアンリが急いで出て来る。
「どうした?」
「アンリ?」
「先程からイライザお嬢様のお口が動いていて…何かを言っておられるみたいなので、目を覚まされるかも知れません」
「!」
ブリジットとグレイが同時に立ち上がり、ブリジットは躊躇いなく寝室へと入って行った。
グレイは寝室の扉の前で立ち止まると、廊下に控える他の侍女に知らせに行こうとしているアンリの方へ振り向く。
「…俺が寝室へ入るのは…イライザは嫌がるか?」
グレイが言いにくそうに言うと、アンリは強く首を横に振った。
「いいえ。天蓋のカーテンは閉めてありますし、お嬢様はグレイ殿下を嫌がったりなさいませんわ」
アンリがそう言うと、グレイは「そうか」と小さく呟き、苦笑いを浮かべて寝室へと入る。
すると、
「イライザ!待って!」
寝室に、イライザの声が響いた。
-----
「そろそろ家の外に出ても良いと思うのよ」
ソファに座ったイライザが言う。
側に立つアンリは腰に手を当てて言った。
「まだ駄目だとお医者様も仰ってます」
「もう身体は何ともないわ。庭の散歩ばかりも飽きたし」
「そのお庭の散歩でまだ息が切れるんですから無理です」
「王城へ行ってミアに会うくらいは平気よ」
「だーめーでーすー」
「アンリのケチ」
ぷうっと頬を膨らませるイライザ。
「思ったより元気そうね。イライザ様」
クスクスと笑いながらディアナが部屋に入って来た。
「ディアナ様!」
イライザはソファから立ち上がる。
「もっと早くお見舞いに来たかったのだけど、心が決まるのに時間が掛かってしまって…ごめんなさいね」
アンリに案内され、イライザの向かいに座りながらディアナが言う。
「いえ。私こそご迷惑とご心配ばかり掛けてしまいまして、申し訳ありません」
そう言ってディアナに頭を下げてから、イライザも座った。
「イライザ様のせいではないわ。それにイライザ様は私たちを巻き込まないように馬を操ってくれたではないの」
「あれは操ったと言うか…必死で手綱を引いたらあの馬が上手く跳んでくれたんです」
「ええ。あの馬もちゃんと湖から引き上げられて、保養地で元気にしているらしいわ」
「良かったです」
紅茶を飲みながら歓談していると、ふとイライザは先程のディアナの言葉を思い出した。
「ディアナ様『心が決まるのに時間が掛かった』と仰られていたのは…?」
ディアナは小さく頷く。
「…アレックス様の事なのだけど」
「はい」
「馬が暴走した、あの時、ちょうど私は、アレックス様の将来を慮るのが癖になっているんだな、と考えていた処だったの。それで湖に落ちたイライザ様を助けて欲しいと思ったらアレックス様が助けに行ってくださって。言葉にされなくても、指差されただけであちらの岸に船を着けると言われているのがわかったり…つまりね、恋愛感情の有り無しは別にしても、私とアレックス様は通じ合っていると言う事なのよ」
「はい」
ディアナは胸の前で手をぎゅっと握った。
イライザはディアナの手を見るが、やはり赤い糸は見えない。
「私、アレックス様が好きだわ。以前みたいな感情とは違うけれど、私…結婚するならアレックス様が良いと思ったの」
「はい」
「でも…アレックス様の方はそうは思っていらっしゃらないかも知れない。通じ合っていると感じているのは私だけで、アレックス様はもしかしたら婚約解消も考えておられるかも…」
少し俯いて言うディアナ。
「ええ?」
「王都に戻ってから…連絡がないし…」
「ディアナ様…」
胸の前で握った手に更に力が入った。
ディアナが顔を上げる。
「それでも、アレックス様にまた私を好きになっていただけるよう、努力をしようと思うの。それで、まずは私の気持ちをアレックス様にお話ししようって…そう心に決めるのに時間が掛かってしまったの」
イライザの部屋へ挨拶に訪れたブリジットは、エドモンドが王城へ戻った事を聞く。
「ご挨拶できなくて…ご無礼いたしました」
「いつもこちらが邪魔しているのだから気にする事はない」
グレイがそう言うと、ブリジットは頷いた。
「ありがとうございます」
「そう言えば、ロイもイライザの見舞いに来たいと言っていたが、良いか?」
「ええ。もちろん。ロイ殿下はマリアンヌが落ち着くまで保養地に残られたのですよね?」
「ああ。一週間向こうで静養して三日前に王都に戻ったな」
マリアンヌはソファの向かい側に座るグレイを上目遣いで見る。
「それで、マリアンヌからの手紙に…ロイ殿下に求婚されたと書かれていたのですが」
「ああ。ロイはその事もブリジット嬢へ話したいと言っていた」
「そうですか」
ブリジットはホッと息を吐いた。
カチャ。
グレイとブリジットの居る部屋から続いた、イライザの眠っている寝室の扉が開く音がし、傍に付いていたアンリが急いで出て来る。
「どうした?」
「アンリ?」
「先程からイライザお嬢様のお口が動いていて…何かを言っておられるみたいなので、目を覚まされるかも知れません」
「!」
ブリジットとグレイが同時に立ち上がり、ブリジットは躊躇いなく寝室へと入って行った。
グレイは寝室の扉の前で立ち止まると、廊下に控える他の侍女に知らせに行こうとしているアンリの方へ振り向く。
「…俺が寝室へ入るのは…イライザは嫌がるか?」
グレイが言いにくそうに言うと、アンリは強く首を横に振った。
「いいえ。天蓋のカーテンは閉めてありますし、お嬢様はグレイ殿下を嫌がったりなさいませんわ」
アンリがそう言うと、グレイは「そうか」と小さく呟き、苦笑いを浮かべて寝室へと入る。
すると、
「イライザ!待って!」
寝室に、イライザの声が響いた。
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「そろそろ家の外に出ても良いと思うのよ」
ソファに座ったイライザが言う。
側に立つアンリは腰に手を当てて言った。
「まだ駄目だとお医者様も仰ってます」
「もう身体は何ともないわ。庭の散歩ばかりも飽きたし」
「そのお庭の散歩でまだ息が切れるんですから無理です」
「王城へ行ってミアに会うくらいは平気よ」
「だーめーでーすー」
「アンリのケチ」
ぷうっと頬を膨らませるイライザ。
「思ったより元気そうね。イライザ様」
クスクスと笑いながらディアナが部屋に入って来た。
「ディアナ様!」
イライザはソファから立ち上がる。
「もっと早くお見舞いに来たかったのだけど、心が決まるのに時間が掛かってしまって…ごめんなさいね」
アンリに案内され、イライザの向かいに座りながらディアナが言う。
「いえ。私こそご迷惑とご心配ばかり掛けてしまいまして、申し訳ありません」
そう言ってディアナに頭を下げてから、イライザも座った。
「イライザ様のせいではないわ。それにイライザ様は私たちを巻き込まないように馬を操ってくれたではないの」
「あれは操ったと言うか…必死で手綱を引いたらあの馬が上手く跳んでくれたんです」
「ええ。あの馬もちゃんと湖から引き上げられて、保養地で元気にしているらしいわ」
「良かったです」
紅茶を飲みながら歓談していると、ふとイライザは先程のディアナの言葉を思い出した。
「ディアナ様『心が決まるのに時間が掛かった』と仰られていたのは…?」
ディアナは小さく頷く。
「…アレックス様の事なのだけど」
「はい」
「馬が暴走した、あの時、ちょうど私は、アレックス様の将来を慮るのが癖になっているんだな、と考えていた処だったの。それで湖に落ちたイライザ様を助けて欲しいと思ったらアレックス様が助けに行ってくださって。言葉にされなくても、指差されただけであちらの岸に船を着けると言われているのがわかったり…つまりね、恋愛感情の有り無しは別にしても、私とアレックス様は通じ合っていると言う事なのよ」
「はい」
ディアナは胸の前で手をぎゅっと握った。
イライザはディアナの手を見るが、やはり赤い糸は見えない。
「私、アレックス様が好きだわ。以前みたいな感情とは違うけれど、私…結婚するならアレックス様が良いと思ったの」
「はい」
「でも…アレックス様の方はそうは思っていらっしゃらないかも知れない。通じ合っていると感じているのは私だけで、アレックス様はもしかしたら婚約解消も考えておられるかも…」
少し俯いて言うディアナ。
「ええ?」
「王都に戻ってから…連絡がないし…」
「ディアナ様…」
胸の前で握った手に更に力が入った。
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「それでも、アレックス様にまた私を好きになっていただけるよう、努力をしようと思うの。それで、まずは私の気持ちをアレックス様にお話ししようって…そう心に決めるのに時間が掛かってしまったの」
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