元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?

ねーさん

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 ふのう。
 マジョリカはアシュトンの言った言葉を心の中で復唱する。
「要するに、勃たないんだ」
 片手で口元を覆いながらアシュトンは言った。
 両眉がくっつきそうなほど眉間の皺は深い。
 たたない。
 ふのう。
 つまり──…
「ふっ、夫婦生活が営めない…」
 マジョリカは呟いた。
 貴族令嬢とはいえ、もちろん婚姻にあたって母親からの教育は受けたし、小説や舞台、令嬢同士の情報交換など知識はあるのだ。
「そうだ。………マジョリカが閨教育を受けていなかったらどう説明しようかと思った」
 アシュトンは大きなため息を吐く。
「……あ……えっ…と…その…」
 マジョリカがしどろもどろになると、それを見てアシュトンは苦笑いを浮かべた。
「!」
 な、何その悲しそうな恥ずかしそうな表情は!
 歳上なのにかわいく見えてしまうじゃないの!
 それは、何だか…とにかく不味いでしょう!
 頬を赤くしてマジョリカは俯く。
「食事の席で話す事ではなかったな。すまない」
 アシュトンは気を取り直してナイフとフォークを持った。

-----

 公爵であった父と、嫡男の兄が相次いで亡くなり、気楽な次男坊であった私が爵位を継ぐ事になったのは二年と少し前だ。
 降って湧いた、引き継ぎすらない慣れない公爵家と領地の運営管理。それらと勤めていた騎士団の大隊長の職務を両立するのは難しいと痛感し、退団を申し出た。
 その時、私と同じ歳の幼なじみでもある王太子カラムから「相手は見繕った。結婚しろ」と命じられた相手がマジョリカ・ファイネン、十七歳の隣国の公爵令嬢だった。

「殿下、私は結婚はしないと…」
 そう訴える私に、カラム殿下は真剣な表情で頷く。
「今まではそれでも良かっただろう。が、公爵位を継ぐ身がいつまでも独身では許されないぞ」
「それは……しかし私は…」
 カラム殿下は、私のを知っているのに。
 殿下は私の言いたい事を察して、眉を下げた。
「…アシュトン、お前…公爵になれば、これまでより…酷くなるぞ?」
「!」
 誤解を恐れずに言えば、私は昔から異性にモテた。
 アシュトンは今は三十代となり、円熟味を増した美丈夫ぶりだが、少年時代は美しく儚い美少年だった。そして騎士として逞しい美青年となった整った見目、エインズワース公爵家の次男という生まれ。それに成人してからは王太子付きである第二騎士団員という立場も加わり、歳と共に周りが騒がしくなっていったのだ。
 最近はアシュトンは「女嫌い」だと広く浸透したので、周囲は随分静かにはなっていたが、だからといって静寂とは言えない状況だ。
 家を継ぐ訳でもない次男の時でも辟易したが、アシュトン自身が公爵になるとなると…カラムの言う通り「これまでより酷く」なるだろうと簡単に予想がつく。

「とにかく結婚しろ。きっと国内の令嬢ではないから令嬢同士で諍い合ったりはしないだろう?白い結婚でも契約結婚でも何でもすれば良い。そうでないと…『公爵夫人』の立場が賭かっているんだ、実力行使に出る令嬢がいないとも限らん」
 実力行使という言葉にアシュトンの肩がピクリと動く。
「今の私に実力行使?」
 騎士団の大隊長である私に?
 アシュトンが片眉を上げると、カラムは首を横に振った。
「アシュトンを正面から押し倒せる令嬢などいないだろうが、どんな手を使われるか………わかるだろう?」
「……」
「私はもう、あんなお前は見たくない」
 カラムは眉を顰め、アシュトンは拳を握る。
 幼なじみの心配にアシュトンは静かに頷いた。
「わかった。結婚はする。しかし…十七歳は若すぎないか?私はもう三十だぞ?」
「私とお前は同い年なんだからそれはわかっている。結婚も令嬢が学園を卒業してこの国に来てからだから大体一年半後だ」
「ん?どうして一年半も待つような相手なんだ?」
 すぐにでも結婚しろという口ぶりで、実は結婚は一年半後?
 訝しげに王太子を見ると、王太子は肩を竦めた。
「この話は向こうの王子から持ちかけられた」
「王子から?」
「簡単に言えばその令嬢も少し訳アリで、嫁ぎ先を探していたんだ」
「訳アリ?」
「と、言っても国外追放になるような罪を犯したとか、そう言う訳ではない。細かくは聞いていないが、その令嬢が慕っていた従兄弟の婚約者に嫌がらせをしたらしい」
「はあ」
 まあ即刻退学などにならずに卒業できるなら、嫌がらせと言っても確かにそう酷い事をしたんじゃないんだろうが…
 顎に手を当てて、アシュトンはカラムを見る。
「嫡男でなくてもいいから上位貴族で良い縁はないだろうか、と言って来た処を見ると情状酌量の余地もあったようだし、嫌がらせをするのは良くないのは確かだが、その位気が強い令嬢の方が、お前に合う気がしたんだ」
 カラムはそう言うとニヤリと笑った。



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