元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?

ねーさん

文字の大きさ
10 / 30

9

しおりを挟む
9

「貴女、アシュトンと同衾したそうね」
 冷たい声が上から降って来る。
 マジョリカが上を見上げると、屋敷の二階の窓からマジョリカがいる庭園を見下ろす黒いドレスの女性が見えた。
「それ、大声でするお話ですか?お義姉様」
 マジョリカが眉を顰めると、黒色ドレスの女性──カリステ・エインズワースは扇で口元を隠す。
「どうせ何もなかったのでしょう?夫婦を装うのも大変ね」
 クスクスと笑うカリステを一瞥すると、日傘を開いて頭の上に差してカリステからの視線を遮った。
「聞こえない振りかしら?」
 声を無視して歩き出す。
「せっかくお庭の花が綺麗だから散歩に出たのに、下品なな音声が耳障りね」
 斜め後ろに着いて来るエディスに笑顔で言うと、カリステが顔を歪めた。
 エディスは無表情で無反応だ。
「せいぜい偽装工作に励む事ね。貴女が離縁されて居なくなったら私が公爵夫人として働きますから、ご心配なく」
 ホホホと笑って部屋の奥へ消えて行くカリステ。

 マジョリカは無言で庭園の小径を歩き、ほどほど屋敷から離れた場所にあるベンチに座る。
「お義姉様は本気で私の後の閣下の妻の座を狙ってるのねぇ」
 しみじみ言うと、カリステの目がなくなったので、無表情だったエディスが少し眉を寄せた。
「カリステ様は旦那様と旦那様のお兄様のコンラート様のお父様である前公爵のご生前から、亡きお母様の代わりに女主人としての役割を担っておられました。しかしコンラート様が正式に爵位を継ぐ前に亡くなられたので、カリステ様は『公爵夫人』として表に立たれた事はないのです」
「そうなのね…」
 それも何だか気の毒な話だわ。
 マジョリカはため息を吐いた。
「それにポーラ様の事もありますし…」
「そうね」
 カリステはマジョリカとアシュトンが婚約する前、アシュトンの兄コンラートが亡くなって直ぐにアシュトンに「自分を妻にしろ」と言った。
 公爵夫人として表立ちたい自分のためでもあるが、主には娘のポーラのためだ。
 アシュトンが公爵位を継げば、今まで公爵令嬢だったポーラは公爵の姪になる。エインズワース公爵家を継いで行くのはアシュトンの子や孫になり、ポーラは傍流の子としてどこかへ嫁ぐ事になる。
 カリステはアシュトンと結婚する事により、コンラートの子供であるポーラをエインズワース家の正統な後継者としたいのだ。
「この国は基本的には男性が爵位を継ぐけど、男の子供がいない家などは女性でも爵位を継げるのよね?」
「そうですね。後継者たる女性の多くはご結婚後入婿となられた男性に爵位を譲られますが、中にはそのまま爵位をたれる女性もおられます」
「そう…選択肢があるっていいわね」
 どうして閣下はお義姉様の結婚の申し出を受けなかったんだろう?
 今度、夜に話す時に聞いてみてもいいのかな?それとも聞かない方がいいのかな?

 閣下とはあの日から何度も夫婦の寝室で一緒に過ごしている。と、言っても話をするだけ。
 領主と女主人として業務連絡や仕事の話をする事もあるけど、何という事もない雑談もする。
 今は北部の豪雪災害対応に騎士団として派遣された時の出来事を聞いていて、雪対策の話は興味深い。
 まだ二歳の頃の王子が鍛錬場に乱入してきて「くんれんする!」と言い出し、怪我をさせないように満足させるのが大変だった話はとてもおもしろかったわ。
 初めて夫婦の寝室に足を踏み入れてから二か月、最初はベッドに並んで腰掛けて話していたが、マジョリカがアシュトンに寄り掛かって眠ってしまった事があり、それからはベッドに横たわって話すようになる。そして眠りに落ちてそのまま朝になる事も増えたのだ。

「義姉上の申し出を受けなかった理由?」
 アシュトンはマジョリカに背を向け横臥で頬杖をつき、マジョリカは仰向けで掛け毛布の上に両腕を出して横たわっている。
「はい。私が言うのもなんですけど、閣下とお義姉様が結婚して、ポーラさんを跡継ぎにするというの、結構良い手なんじゃないかと思ったんで」
 カリステの名実ともに公爵夫人となりたいという思いと、ポーラを公爵家の正統な跡取りにしたいという希望と、アシュトンの妻を娶り後継を残すという義務と、全てが満たされる方法ではないか、とマジョリカは言った。
「それはそうなんだが…私には義姉上が本当に私との結婚を望んでいるとは思えなかった」
「どうしてですか?」
 マジョリカがアシュトンの方へ顔を向けると、アシュトンは少し口角を上げる。
「義姉上は、学院で出会った頃から兄上をずっと慕っているんだ。だから今でも兄上を偲んで黒いドレスを着ているだろう?口では何と言っても、実は兄上以外を拒んでいるんだと思う」
「ああ…確かに」
 マジョリカは喪服のような黒いドレスを着ているカリステの姿を思い浮かべた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

側妃としての役割

しゃーりん
恋愛
結婚を前に婚約者を亡くした侯爵令嬢フェリシア。 半年が過ぎる頃、舞い込んだ縁談は国王の側妃であった。 王妃は隣国の元王女。 まだ子供がいないため側妃が必要になったようだ。 フェリシアが心配した王妃との関係はどうなる? 国王に愛され、自分の役割を果たすお話です。

お買い上げありがとうございます旦那様

キマイラ
恋愛
借金のかたに嫁いだ私。だというのに旦那様は「すまないアデライン、君を愛することはない。いや、正確には恐らく私は君を愛することができない。許してくれ」などと言ってきた。 乙女ゲームのヒロインの姉に転生した女の結婚のお話。 「王太子殿下に魅了をかけてしまいました。大至急助けてください」にチラッと出てきたアデラインが主人公です。単体で読めます。

代理で子を産む彼女の願いごと

しゃーりん
恋愛
クロードの婚約者は公爵令嬢セラフィーネである。 この結婚は王命のようなものであったが、なかなかセラフィーネと会う機会がないまま結婚した。 初夜、彼女のことを知りたいと会話を試みるが欲望に負けてしまう。 翌朝知った事実は取り返しがつかず、クロードの頭を悩ませるがもう遅い。 クロードが抱いたのは妻のセラフィーネではなくフィリーナという女性だった。 フィリーナは自分の願いごとを叶えるために代理で子を産むことになったそうだ。 願いごとが叶う時期を待つフィリーナとその願いごとが知りたいクロードのお話です。

鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
令嬢エミリアは、王太子の花嫁選び━━通称聖女選びに敗れた後、家族の勧めにより王立騎士団長ヴァルタと結婚することとなる。しかし、エミリアは無愛想でどこか冷たい彼のことが苦手であった。結婚後の初夜も呆気なく終わってしまう。 ヴァルタは仕事面では優秀であるものの、縁談を断り続けていたが故、陰で''鉄壁''と呼ばれ女嫌いとすら噂されていた。 しかし彼は、戦争の最中エミリアに助けられており、再会すべく彼女を探していた不器用なただの追っかけだったのだ。内心気にかけていた存在である''彼''がヴァルタだと知り、エミリアは彼との再会を喜ぶ。 そして互いに想いが通じ合った二人は、''三度目''の夜を共にするのだった……。

敵将を捕虜にしたら夫になって、気づけば家族までできていました

蜂蜜あやね
恋愛
戦場で幾度も刃を交えてきた二人―― “赤い鷲”の女将軍イサナと、 “青狼”と恐れられたザンザの将軍ソウガ。 最後の戦いで、ソウガはイサナの軍に捕らえられる。 死を覚悟したその瞬間―― イサナは思わず、矢面に立っていた。 「その者は殺させない。命は……私が引き受けます」 理由などなかった。 ただ、目の前の男を失いたくなかった。 その報告を受けた皇帝エンジュは、 静かに、しかし飄々とした口調で告げる。 「庇いたいというのなら――夫として下げ渡そう」 「ただし、子を成すこと。それが条件だ」 敵国の将を“夫”として迎えるという前代未聞の処置。 拒否権はない。 こうしてソウガは、捕虜でありながら 《イサナの夫》としてアマツキ邸に下げ渡される。 武でも策でも互角に戦ってきた男が、 今は同じ屋根の下にいる。 捕虜として――そして夫として。 反発から始まった奇妙な同居生活。 だが、戦場では知り得なかった互いの素顔と静かな温度が、 じわじわと二人の距離を変えていく

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

処理中です...