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幼い頃、ブライアンと子供たちが王宮を訪れたり、王家の兄弟がハミルトン家を訪れたりした時、大抵は第一王女フロリアとハミルトン家の長女シエナと長男ライナス、第一王子サイラスとハミルトン家の次男ライアン、カイルとレイラの歳が近い者同士に別れて遊んでいた。
「レイちゃんとぼくはいとこじゃないの?」
「従兄妹みたいだけど、従兄妹じゃないのよ」
ハミルトン家を訪れていた幼いカイルがスーザンに問うと、そうスーザンが答え、カイルとレイラは揃って首を傾げた。
「よくわかんない…レイちゃんわかる?」
「わかんない」
「大きくなったらわかるさ」
カイルの父が両手でカイルとレイラの頭を撫でた。
「とうさま、ぼくレイちゃんとけっこんしたい」
「お。カイルはまだ五歳なのにもう将来の妃を決めたのか?」
「きさき?」
「王子の結婚相手の事だ。お母様はお父様の妃。わかるか?」
「かあさまはとうさまのお嫁さん」
「そうだ」
「うん。ぼくのきさきはレイちゃん!」
満面の笑みで言うカイルの頭をカイルの父はまたくしゃくしゃと撫でた。
思えばあの時、お父様とお母様はかなり苦笑いだったわ。
まあまさか本当に十年後カイルがそう言い出すとは思ってもいなかったでしょうけど。
「レイラ」
王都からハミルトン家の領地までは馬車で二日、馬で駆ければ一日の距離だ。
厩に乗って来た馬を預けたカイルは、迎えに出ていたレイラに声を掛けた。
「カイル殿下、お久しぶりです」
うわあ。カイルに最後に会って話してから、もう三年は経つもの。姿を見るのも一年?いや二年ぶりくらいかも。大人っぽくなってる!ゲームの姿よりは少し幼いけど、大人っぽくて…カッコ良くなってるわ!
カイルはこの冬に十五歳になる。
青紫の髪は真っ直ぐで、後ろで一纏めにしていた。レイラが知る十二、三歳の頃には髪は短かったし、あの頃に比べると当然だが背も伸びている。切れ長の眼に髪と同じ青紫の瞳、幼い頃はかわいらしかった顔立ちも、すっかり端正な男の顔になっていた。
…ああ、これは前世の私の一推しのクールビューティ、カイルに間違いないわ…
「畏まるな」
「…そう言われましても」
上目遣いにカイルを見る。
カッコいいなあ…と思いながらも、レイラは失望していた。
やっぱりここはゲームの世界なんだわ。つまり、ヒロインの選ぶルートによってはカイルは私との婚約を破棄してヒロインと結ばれる…ヒロインがカイルのルートを選ばなくても、ヒロインと出会えばカイルはヒロインに惹かれて、私は蔑ろにされるんだ…
「敬称も敬語もいらない。昔の様に『カイル』と呼んでくれ」
カイルとレイラは並んで屋敷へと向かって歩き出す。
「それは…」
「俺と結婚する事、考えてくれたか?」
いきなり本題?
「…何で私なんですか?」
「俺の妃はレイラと、幼い頃から決めていた」
カイルは立ち止まると、レイラを見た。
…子供の戯言と、みんなも私も思ってました。と言ったらカイルは怒るかな?
「……」
「レイラ」
「…ハミルトン家の娘が王家に嫁ぐのは、問題なんじゃないかと思うんですけど」
「それはそうだが、俺がレイラを好きなんだから仕方がない」
「え?」
好き?
カイルが?
私を?
「そんなに驚く事か?」
少し眉を顰めてカイルが言う。
「…だって、もう軽く三年は話もしてないし、最後にカイル殿下のお姿を見たのも二年は前です」
「さっきレイラが言ったように、ハミルトン家の者を縁定で王家に近付けるのは問題がある。当事者の王族である俺たちはその問題はないものと知っているが、周りが問題視すると言う意味で」
「はい」
「だから、俺も敢えてレイラを遠ざけた。その方が良いと思ったからだ」
「はい」
「だが、やはり俺の妃はレイラ以外考えられなかったんだ」
カイルはそっとレイラの手を取ると、指先に口付けた。
「レイラが好きなんだ。ずっと」
真剣な表情のカイル。本当にレイラを想っているのが伝わって来る。
…何て残酷なの。
レイラの眼に涙が浮かぶ。
「レイラ?何故泣く?俺が嫌か?」
首を横に振る。
「私も好きです…カイル殿下」
涙がパタパタと落ちる。
…小さい頃からずっと。私の、王子様だったの。カイルが。
「レイラ…」
カイルはゆっくりとレイラの背中へ腕を回し、レイラを抱きしめた。
嬉しい。けど、これは残酷な現実の始まりなんだわ。
レイラはカイルの腕の中で夢のような絶望に落ちて行った。
幼い頃、ブライアンと子供たちが王宮を訪れたり、王家の兄弟がハミルトン家を訪れたりした時、大抵は第一王女フロリアとハミルトン家の長女シエナと長男ライナス、第一王子サイラスとハミルトン家の次男ライアン、カイルとレイラの歳が近い者同士に別れて遊んでいた。
「レイちゃんとぼくはいとこじゃないの?」
「従兄妹みたいだけど、従兄妹じゃないのよ」
ハミルトン家を訪れていた幼いカイルがスーザンに問うと、そうスーザンが答え、カイルとレイラは揃って首を傾げた。
「よくわかんない…レイちゃんわかる?」
「わかんない」
「大きくなったらわかるさ」
カイルの父が両手でカイルとレイラの頭を撫でた。
「とうさま、ぼくレイちゃんとけっこんしたい」
「お。カイルはまだ五歳なのにもう将来の妃を決めたのか?」
「きさき?」
「王子の結婚相手の事だ。お母様はお父様の妃。わかるか?」
「かあさまはとうさまのお嫁さん」
「そうだ」
「うん。ぼくのきさきはレイちゃん!」
満面の笑みで言うカイルの頭をカイルの父はまたくしゃくしゃと撫でた。
思えばあの時、お父様とお母様はかなり苦笑いだったわ。
まあまさか本当に十年後カイルがそう言い出すとは思ってもいなかったでしょうけど。
「レイラ」
王都からハミルトン家の領地までは馬車で二日、馬で駆ければ一日の距離だ。
厩に乗って来た馬を預けたカイルは、迎えに出ていたレイラに声を掛けた。
「カイル殿下、お久しぶりです」
うわあ。カイルに最後に会って話してから、もう三年は経つもの。姿を見るのも一年?いや二年ぶりくらいかも。大人っぽくなってる!ゲームの姿よりは少し幼いけど、大人っぽくて…カッコ良くなってるわ!
カイルはこの冬に十五歳になる。
青紫の髪は真っ直ぐで、後ろで一纏めにしていた。レイラが知る十二、三歳の頃には髪は短かったし、あの頃に比べると当然だが背も伸びている。切れ長の眼に髪と同じ青紫の瞳、幼い頃はかわいらしかった顔立ちも、すっかり端正な男の顔になっていた。
…ああ、これは前世の私の一推しのクールビューティ、カイルに間違いないわ…
「畏まるな」
「…そう言われましても」
上目遣いにカイルを見る。
カッコいいなあ…と思いながらも、レイラは失望していた。
やっぱりここはゲームの世界なんだわ。つまり、ヒロインの選ぶルートによってはカイルは私との婚約を破棄してヒロインと結ばれる…ヒロインがカイルのルートを選ばなくても、ヒロインと出会えばカイルはヒロインに惹かれて、私は蔑ろにされるんだ…
「敬称も敬語もいらない。昔の様に『カイル』と呼んでくれ」
カイルとレイラは並んで屋敷へと向かって歩き出す。
「それは…」
「俺と結婚する事、考えてくれたか?」
いきなり本題?
「…何で私なんですか?」
「俺の妃はレイラと、幼い頃から決めていた」
カイルは立ち止まると、レイラを見た。
…子供の戯言と、みんなも私も思ってました。と言ったらカイルは怒るかな?
「……」
「レイラ」
「…ハミルトン家の娘が王家に嫁ぐのは、問題なんじゃないかと思うんですけど」
「それはそうだが、俺がレイラを好きなんだから仕方がない」
「え?」
好き?
カイルが?
私を?
「そんなに驚く事か?」
少し眉を顰めてカイルが言う。
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「さっきレイラが言ったように、ハミルトン家の者を縁定で王家に近付けるのは問題がある。当事者の王族である俺たちはその問題はないものと知っているが、周りが問題視すると言う意味で」
「はい」
「だから、俺も敢えてレイラを遠ざけた。その方が良いと思ったからだ」
「はい」
「だが、やはり俺の妃はレイラ以外考えられなかったんだ」
カイルはそっとレイラの手を取ると、指先に口付けた。
「レイラが好きなんだ。ずっと」
真剣な表情のカイル。本当にレイラを想っているのが伝わって来る。
…何て残酷なの。
レイラの眼に涙が浮かぶ。
「レイラ?何故泣く?俺が嫌か?」
首を横に振る。
「私も好きです…カイル殿下」
涙がパタパタと落ちる。
…小さい頃からずっと。私の、王子様だったの。カイルが。
「レイラ…」
カイルはゆっくりとレイラの背中へ腕を回し、レイラを抱きしめた。
嬉しい。けど、これは残酷な現実の始まりなんだわ。
レイラはカイルの腕の中で夢のような絶望に落ちて行った。
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