第二王子は婚約破棄して王太子になりたいらしい。

ねーさん

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 十日間レオンの部屋で安静にしていたフィオナは家に戻り、翌日から学園の寮に戻っている。レオンも同じ日から寮に戻り、また毎日フィオナの部屋へ通っていた。
 マルティナはまだ松葉杖で日常生活が不便なので、寮には戻らず王宮から学園へ通っている。
「レオン兄様、ちょっと良いかしら?」
 休日、王宮に戻っているレオンの執務室へマルティナがやって来た。
「どうした?」
 レオンは立ち上がると、松葉杖のマルティナをソファへとエスコートする。
「…相談があって」
「相談?フィオじゃなく、俺に?」
「レナード様の事だから、フィオナには言えなくて」
「レナード殿?」
 マルティナは自分の膝へと視線を落とす。
「レナード様に、ブライアンお兄様と私が…結婚すれば色々丸く収まるって、言われて…」
「レナード殿はそうしろと言ったのか?」
「いいえ」
 レナードは、マルティナがブライアンと見つめ合う様子を見て引き剥がしたい衝動に駆られたと言った。
 それでも、もしもマルティナがブライアンと結婚する道を選ぶなら、それを尊重すると言ったのだ。

「正直に言えば、兄上と俺たちが血が繋がらないと知った時、俺も兄上がティナと結婚すれば、兄上は本当に父上の息子になれるな、とは考えたんだ」
「…私、そうした方が良いですか?」
「ティナは、どうしたい?」
「私は…貴族社会がそうであるように、親が決めた家へ嫁ぐ覚悟はあります。それにブライアンお兄様の事は大好きですし」
 マルティナは膝の上に置いた手をギュッと握る。
「でもそれは兄としてだろう?」
「それは、そうです。今までブライアンお兄様がお兄様じゃないなんて考えた事もなかったですもの」
「そうだよな」
「でも、お父様やレオン兄様が、そう望まれるなら…」
「ティナ、俺はティナの正直な気持ちを聞きたいんだ」
 レオンの言葉に、マルティナは握った自分の手を見つめた。
 そして、ぽつぽつと話し出す。
「…私、馬車の事故の時、レナード様が駆け付けて背中を撫でてくださって…それですごく安心したの」
「うん」
「でもそれは、レナード様が大人だからかも知れないし…とにかく私、好きとか、恋とか、まだよく判らなくて」
「そんなにすぐに決めなくても良いんだぞ?」
「でも、私が学園を卒業する頃にはレナード様は25歳になられるんです。その間に他の方との結婚話があるかも知れない」
「まあ、レナード殿はフィオ王子おれの婚約者で、それだけでも結構王家と近しくなりたい貴族からの婚姻話はあるらしいからな。それが妹が王太子妃となると、婚姻話は今後増えるかも知れん」
「え?」
 マルティナは俯いていた顔を上げる。
「今でも結構そういうお話があるのですか?」
「らしいな」
「レオン兄様が立太子したらもっと増える…?」
「多分」
「……」
 レオンは愕然とするマルティナの顔を見て、ふっと笑う。
「ティナ。今自分がどんな表情かおしてるか、分かるか?」
「え?」
 マルティナは自分の頬に手を当てた。
「『恋とかよく判らない』って表情かおじゃないぞ」

-----

「『母上贔屓の硝子職人』其方が、私の父なのか?」
 いつもの様に眼に入れる紫色の半球の硝子を持って王宮に来た職人に、ブライアンは言う。
「ブライアン殿下…」
 ブライアンの前に跪く眼鏡を掛けた壮年の男性。髪は金で、瞳は青い。
「其方は…知っていたのか?」
「い、いいえ。アデラ様…妃殿下がご懐妊されてから亡くなられるまで、私は王城へは上がっておりませんし、亡くなられて…初めてオズバーン公爵に目に入れる硝子を依頼され、ブライアン殿下にお目通りした時には髪色も紫でしたし、殿下は妃殿下によく似ていらして…そのような事は夢にも思いませんでした」
「母上を…好きだったのか?」
 男性は、ハッとした様子でブライアンを見る。
「…恐れながら、生涯ただ一人の女性ひとだと、今も思っております」
「そうか。それを聞けて良かった」
 ブライアンには男性の表情は見えない。見えていた頃にはこの男性が父だとは思っていなかったので顔の記憶は既に曖昧だ。ただ、声が、男性の真剣な気持ちをブライアンに伝えていた。
「もう硝子は必要ない」
「殿下…」
「もう会う事もないが、息災でいてくれ」
 ブライアンは男性に背を向けて部屋を出る。
 男性は暫くの間ただ首を垂れて佇んでいた。


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