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カミーユはニーナの手首を掴むと、廊下をズンズンと歩き、ある部屋にニーナを押し込み、自分も部屋に入ると後ろ手に扉を閉めた。
背中を押されて少しよろけながら部屋に入ったニーナは体勢を立て直すと部屋を見回す。
「使用人の部屋?」
あまり広くない部屋に簡素な調度品。シングルサイズの飾りのないベッドには薄い布団が畳んで置いてあった。
公爵家の使用人部屋だからそんなに「質素!」って感じじゃないけど…あれ?ここってもしかしてお父様が居なくて使用人扱いされてる時のエラの部屋だったりする?
「この時間なら使用人は居ないから誰にも聞かれないわ」
抑揚のない声で扉の前に立つカミーユが言った。
「そう。内緒話にはピッタリね」
ベッドの前に立つニーナはニコリと笑う。
顎を引いてカミーユはニーナを睨んだ。
「…高橋新菜」
低い声でカミーユが告げたのは前世のニーナの名前。
やっぱり美由は前世の新菜を知ってるんだ。しかもフルネームで。
「ねぇ、私の親友だって言ってライブ行って騒ぎ起こしたらしいけど、私の知り合いに『美由』なんてコいなかったわ。お兄ちゃんからチケット貰ったって、どういう事なの!?」
ニーナが語気を強めて言うと、カミーユは目の見開く。
「…やっぱり………」
「?」
カミーユは口元に手を当てるとニンマリと笑った。
ゾクッとニーナの背筋に悪寒が走る。
「リオン殿下は、莉音なのね。やっぱりそうだった…また、会えるんだわ…」
「!」
カミーユが恍惚の表情で
「私の莉音…」
と呟くと、ニーナはギュッと手を握りしめた。
「やめてよ!リオン殿下は莉音だけど、莉音とは別人だわ!何が『私の莉音』よ!あんなに莉音を苦しめたクセに!」
「苦しめた?前世の私と莉音の事、貴女は知らないでしょ?もう死んでたんだから」
フンッと鼻で笑うカミーユ。
「その死んだ私のチケットを莉音に近付くために利用したんでしょう?」
「あら嫌だ。人聞きの悪い。私はただ当時のカレシから、死んだ妹のチケットを譲り受けただけよ」
眉を上げて言う。
カレシ。そうか美由はお兄ちゃんのカノジョだったのか。どうりで新菜の知り合いに美由ってコがいなかった筈だわ。
「他人のチケットじゃ入れないの知っててライブ会場で騒いでB-rightの関係者に顔を売ったんでしょ?譲り受けただけなんてよく言うわ」
ニーナは腕を組んで呆れたように息を吐いた。
俯いたカミーユは上目遣いにニーナを睨む。
「…うるさいわね」
「は?」
カミーユは顔を上げると口を開いた。
「うるさい!うるさい!うるさい!私はただのイルミじゃないの!莉音の運命の女なんだから!あんたのチケットは私が莉音に出会うための布石よ!あんたもイルミなら推しの幸せに関与できて光栄に思いなさいよ!お陰で私は莉音に出会えて、私たちは愛し合って結婚したのよ!ちょっと行き違いがあって別れる事になったし、事務所やメンバーたちに引き離されて邪魔をされたけど、私の心はずっと莉音の妻で、莉音も私をずっと愛してくれていたわ!」
大声で喚くカミーユをニーナも睨み返す。
「何が行き違いよ!何が莉音の妻よ!貴女なんか思い込みの激しいただのストーカーじゃないの!」
「ストーカー!?」
意外な事を言われたという表情をするカミーユ。
「そうでしょ?莉音は別れてからもずっと美由に苦しめられて、アルコール依存症になって…あげく死んじゃったのよ」
「莉音が死んだのは事故よ!何も知らないクセに私と莉音の事に口を出さないで!」
「……」
怒鳴るカミーユを、ニーナは冷静になって見つめた。
「…確かに新菜は莉音より十年も前に死んじゃって、貴女と結婚した事も、莉音が死んだ事も、その後のB-rightの事も何も知らないわ。でも、今のこの世界で、リオン殿下の『運命の女』がカミーユ、貴女じゃない事だけはわかる」
穏やかな口調で言うと、カミーユがサアッと青褪める。
「なっ…」
「わかってるんでしょ?エラはシンデレラ、リオン殿下は」
「やめて!」
ニーナの言葉を遮るカミーユ。
真っ青な顔をして頭を抱えていた。
「やめてよ!莉音は私のモノよ!莉音が王子に生まれ変わってるのを知った時の絶望感、あんたにはわからないでしょ!?その時、莉音は五歳で、私は三十歳、もう結婚して子供もいたわ。それでも再婚してエラがシンデレラだって気付いた時、私にはわかったの。莉音と私はやっぱり結ばれる運命だって」
「……」
ニーナは黙ってカミーユを見つめる。
「会えば、私が美由だって莉音にはわかるわ。娘のどちらかを莉音と結婚させれば、妃の母親として莉音に会える。表向き結婚できなくても、私は莉音と愛し合えればそれでいいの」
「…じゃあ妃になるのはエラでも良かったんじゃないの?」
「エラはダメ!」
噛みつきそうな形相のカミーユに、ニーナはゆっくりと言った。
「それは、貴女もわかってるからでしょう?」
カミーユはニーナの手首を掴むと、廊下をズンズンと歩き、ある部屋にニーナを押し込み、自分も部屋に入ると後ろ手に扉を閉めた。
背中を押されて少しよろけながら部屋に入ったニーナは体勢を立て直すと部屋を見回す。
「使用人の部屋?」
あまり広くない部屋に簡素な調度品。シングルサイズの飾りのないベッドには薄い布団が畳んで置いてあった。
公爵家の使用人部屋だからそんなに「質素!」って感じじゃないけど…あれ?ここってもしかしてお父様が居なくて使用人扱いされてる時のエラの部屋だったりする?
「この時間なら使用人は居ないから誰にも聞かれないわ」
抑揚のない声で扉の前に立つカミーユが言った。
「そう。内緒話にはピッタリね」
ベッドの前に立つニーナはニコリと笑う。
顎を引いてカミーユはニーナを睨んだ。
「…高橋新菜」
低い声でカミーユが告げたのは前世のニーナの名前。
やっぱり美由は前世の新菜を知ってるんだ。しかもフルネームで。
「ねぇ、私の親友だって言ってライブ行って騒ぎ起こしたらしいけど、私の知り合いに『美由』なんてコいなかったわ。お兄ちゃんからチケット貰ったって、どういう事なの!?」
ニーナが語気を強めて言うと、カミーユは目の見開く。
「…やっぱり………」
「?」
カミーユは口元に手を当てるとニンマリと笑った。
ゾクッとニーナの背筋に悪寒が走る。
「リオン殿下は、莉音なのね。やっぱりそうだった…また、会えるんだわ…」
「!」
カミーユが恍惚の表情で
「私の莉音…」
と呟くと、ニーナはギュッと手を握りしめた。
「やめてよ!リオン殿下は莉音だけど、莉音とは別人だわ!何が『私の莉音』よ!あんなに莉音を苦しめたクセに!」
「苦しめた?前世の私と莉音の事、貴女は知らないでしょ?もう死んでたんだから」
フンッと鼻で笑うカミーユ。
「その死んだ私のチケットを莉音に近付くために利用したんでしょう?」
「あら嫌だ。人聞きの悪い。私はただ当時のカレシから、死んだ妹のチケットを譲り受けただけよ」
眉を上げて言う。
カレシ。そうか美由はお兄ちゃんのカノジョだったのか。どうりで新菜の知り合いに美由ってコがいなかった筈だわ。
「他人のチケットじゃ入れないの知っててライブ会場で騒いでB-rightの関係者に顔を売ったんでしょ?譲り受けただけなんてよく言うわ」
ニーナは腕を組んで呆れたように息を吐いた。
俯いたカミーユは上目遣いにニーナを睨む。
「…うるさいわね」
「は?」
カミーユは顔を上げると口を開いた。
「うるさい!うるさい!うるさい!私はただのイルミじゃないの!莉音の運命の女なんだから!あんたのチケットは私が莉音に出会うための布石よ!あんたもイルミなら推しの幸せに関与できて光栄に思いなさいよ!お陰で私は莉音に出会えて、私たちは愛し合って結婚したのよ!ちょっと行き違いがあって別れる事になったし、事務所やメンバーたちに引き離されて邪魔をされたけど、私の心はずっと莉音の妻で、莉音も私をずっと愛してくれていたわ!」
大声で喚くカミーユをニーナも睨み返す。
「何が行き違いよ!何が莉音の妻よ!貴女なんか思い込みの激しいただのストーカーじゃないの!」
「ストーカー!?」
意外な事を言われたという表情をするカミーユ。
「そうでしょ?莉音は別れてからもずっと美由に苦しめられて、アルコール依存症になって…あげく死んじゃったのよ」
「莉音が死んだのは事故よ!何も知らないクセに私と莉音の事に口を出さないで!」
「……」
怒鳴るカミーユを、ニーナは冷静になって見つめた。
「…確かに新菜は莉音より十年も前に死んじゃって、貴女と結婚した事も、莉音が死んだ事も、その後のB-rightの事も何も知らないわ。でも、今のこの世界で、リオン殿下の『運命の女』がカミーユ、貴女じゃない事だけはわかる」
穏やかな口調で言うと、カミーユがサアッと青褪める。
「なっ…」
「わかってるんでしょ?エラはシンデレラ、リオン殿下は」
「やめて!」
ニーナの言葉を遮るカミーユ。
真っ青な顔をして頭を抱えていた。
「やめてよ!莉音は私のモノよ!莉音が王子に生まれ変わってるのを知った時の絶望感、あんたにはわからないでしょ!?その時、莉音は五歳で、私は三十歳、もう結婚して子供もいたわ。それでも再婚してエラがシンデレラだって気付いた時、私にはわかったの。莉音と私はやっぱり結ばれる運命だって」
「……」
ニーナは黙ってカミーユを見つめる。
「会えば、私が美由だって莉音にはわかるわ。娘のどちらかを莉音と結婚させれば、妃の母親として莉音に会える。表向き結婚できなくても、私は莉音と愛し合えればそれでいいの」
「…じゃあ妃になるのはエラでも良かったんじゃないの?」
「エラはダメ!」
噛みつきそうな形相のカミーユに、ニーナはゆっくりと言った。
「それは、貴女もわかってるからでしょう?」
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