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ホーツマン公爵家の領地屋敷に馬車が着き、クラークの後に続きエラが馬車を降りる。
「クラーク!お帰りなさい」
女性が駆け寄って来て、クラークに抱き付いた。
「ただいま。シェリー」
クラークと笑顔でチークキスを交わすと、シェリーと呼ばれた女性は少し離れた所にいたエラの方へ駆けて来る。
「え?」
この方、閣下の奥様、よね!?
貴族の奥方が走っている姿を生まれて初めて見たエラは、思わず一歩後退りをする。
「エラちゃんいらっしゃい!」
シェリーは満面の笑みでエラにガバリと抱き付いた。
「あ…あの…エラ・ゴールドバーグです」
困惑したエラがとりあえず名前を名乗ると、シェリーは抱き付いていた腕を解き、スカートの裾を摘んでエラに礼をする。
「シェリーです。クラーク・ホーツマンの妻ですわ」
ニコニコと笑うシェリーはミルクティー色の髪を結い上げ薄緑のシンプルなドレスを纏ったかわいらしい印象の女性だ。
「さあ入って。エラちゃんをお待ちかねよ」
シェリーはエラの手を取った。
「私を?」
私がここに来たのは、お父様の事故があったから。
ここで私を待ちかねているという事は、その人はお父様が事故に遭う事を知っていたという事になる。
それはもしかしてその人が事故を起こした…という事?
-----
「エラはどこへ行ったの!?」
エラが一時待機していた宿に着いたカミーユは、すでにエラがいなくなった部屋にいた執事に詰め寄る。
「エラ様はホーツマン公爵が迎えに来られ、そちらの屋敷へ移動されました」
落ち着いた様子で言う執事。
「ホーツマン公爵が…」
カミーユは悔しそうに下を向くと唇を噛んだ。
「どうしてもエラをエスコートして舞踏会へ出るつもりなのね…」
そう呟くと、カミーユは顔を上げる。
「旦那様はまだ見つからないの!?森とはいえそんなに深い訳でもないのに、警察は何をやってるのよ!?」
執事に向かって怒鳴るが、執事は無表情で「そうですね」とだけ言った。
-----
シェリーに案内された客室に、エラは恐る恐る足を踏み入れる。
男性が二人ソファに座っているのが見えた。
扉に背中を向けて座っているのは一足先に屋敷へ入って行ったクラークだ。クラークに重なり、向かいに座っている男性は良く見えない。
誰…?
男性が立ち上がろうと身体を動かして、その顔が見えた。
……え?
「エラ!」
ソファから立ち上がった男性は────エラの父アルベルトだった。
「お父様!?」
アルベルトは三角巾で左腕を吊り、左足にも包帯が巻かれ、顔にもガーゼが貼られている。
エラがアルベルトに近付くと、アルベルトは右腕でエラにハグをした。
「心配かけたね」
エラの頭を撫でる。
アルベルトの肩に顔を埋めてエラはアルベルトの服をぎゅっと掴んだ。
「……良かった…お父様までいなくなったら…私…」
震える声で言うエラをアルベルトは強く抱きしめる。
「ああ。本当に済まない」
しばらく抱き合った後、アルベルトがエラを自分の隣へ座らせると、クラークもエラへ頭を下げた。
「エラ嬢、色々と混乱させて済まなかった」
ノックの音がして、扉が開くとティーセットを乗せたワゴン押しながらシェリーが入って来る。
「クラーク!エラちゃんを泣かせたの!?」
シェリーはワゴンをその場に置いたまま、クラークの元へとツカツカと歩いて近付いた。
「え?」
パチンッ!
ポカンとしてシェリーを眺めるエラの目の前でシェリーがクラークの頬を叩く。
「ええ!?」
思わず驚きの声を上げたエラ。
「エラちゃんを泣かせるなんて、どういう事なの!?」
クラークの胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄るシェリーは真剣に怒っているようだが、クラークはニコニコと微笑んでいた。
私とお父様がホーツマン公爵家にとって「客」なのかどうかはわからないけれど、所謂「客人」の前で公爵様の頬を叩く夫人って!?
それにどうして閣下は嬉しそうなの!?
「あの!私が泣いているのは閣下のせいではありません!」
エラが慌てて言うと、シェリーは目をパチパチと瞬かせてエラの方を見る。
「…そうなの?クラーク」
「そうだね」
微笑んで頷く。
「……」
シェリーは視線を上に向けて少し考えた後、おもむろにクラークの手を掴むと、その手で自分の頬をペチンと叩かせた。
「!?」
エラは瞠目してクラークとシェリーを見つめる。
「これで相殺されないかしら?」
首を傾げてクラークを見上げると、クラークはガバリッとシェリーを抱きしめた。
「キスしてくれたら相殺」
「あらクラーク、お客様の前よ?後で、ね?」
クラークの肩へ片手を置き、シェリーはもう片方の手でクラークの頬をするりと撫でる。
…ええと。
閣下が「妻はあまり社交に向いていない」と仰られていたから、それは内向的な性格故なのかと思っていたけれど…どうやら違うようね。
エラがアルベルトの方に視線をやると、アルベルトは何かを悟ったかのような表情で目を瞑っていた。
ホーツマン公爵家の領地屋敷に馬車が着き、クラークの後に続きエラが馬車を降りる。
「クラーク!お帰りなさい」
女性が駆け寄って来て、クラークに抱き付いた。
「ただいま。シェリー」
クラークと笑顔でチークキスを交わすと、シェリーと呼ばれた女性は少し離れた所にいたエラの方へ駆けて来る。
「え?」
この方、閣下の奥様、よね!?
貴族の奥方が走っている姿を生まれて初めて見たエラは、思わず一歩後退りをする。
「エラちゃんいらっしゃい!」
シェリーは満面の笑みでエラにガバリと抱き付いた。
「あ…あの…エラ・ゴールドバーグです」
困惑したエラがとりあえず名前を名乗ると、シェリーは抱き付いていた腕を解き、スカートの裾を摘んでエラに礼をする。
「シェリーです。クラーク・ホーツマンの妻ですわ」
ニコニコと笑うシェリーはミルクティー色の髪を結い上げ薄緑のシンプルなドレスを纏ったかわいらしい印象の女性だ。
「さあ入って。エラちゃんをお待ちかねよ」
シェリーはエラの手を取った。
「私を?」
私がここに来たのは、お父様の事故があったから。
ここで私を待ちかねているという事は、その人はお父様が事故に遭う事を知っていたという事になる。
それはもしかしてその人が事故を起こした…という事?
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「エラはどこへ行ったの!?」
エラが一時待機していた宿に着いたカミーユは、すでにエラがいなくなった部屋にいた執事に詰め寄る。
「エラ様はホーツマン公爵が迎えに来られ、そちらの屋敷へ移動されました」
落ち着いた様子で言う執事。
「ホーツマン公爵が…」
カミーユは悔しそうに下を向くと唇を噛んだ。
「どうしてもエラをエスコートして舞踏会へ出るつもりなのね…」
そう呟くと、カミーユは顔を上げる。
「旦那様はまだ見つからないの!?森とはいえそんなに深い訳でもないのに、警察は何をやってるのよ!?」
執事に向かって怒鳴るが、執事は無表情で「そうですね」とだけ言った。
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シェリーに案内された客室に、エラは恐る恐る足を踏み入れる。
男性が二人ソファに座っているのが見えた。
扉に背中を向けて座っているのは一足先に屋敷へ入って行ったクラークだ。クラークに重なり、向かいに座っている男性は良く見えない。
誰…?
男性が立ち上がろうと身体を動かして、その顔が見えた。
……え?
「エラ!」
ソファから立ち上がった男性は────エラの父アルベルトだった。
「お父様!?」
アルベルトは三角巾で左腕を吊り、左足にも包帯が巻かれ、顔にもガーゼが貼られている。
エラがアルベルトに近付くと、アルベルトは右腕でエラにハグをした。
「心配かけたね」
エラの頭を撫でる。
アルベルトの肩に顔を埋めてエラはアルベルトの服をぎゅっと掴んだ。
「……良かった…お父様までいなくなったら…私…」
震える声で言うエラをアルベルトは強く抱きしめる。
「ああ。本当に済まない」
しばらく抱き合った後、アルベルトがエラを自分の隣へ座らせると、クラークもエラへ頭を下げた。
「エラ嬢、色々と混乱させて済まなかった」
ノックの音がして、扉が開くとティーセットを乗せたワゴン押しながらシェリーが入って来る。
「クラーク!エラちゃんを泣かせたの!?」
シェリーはワゴンをその場に置いたまま、クラークの元へとツカツカと歩いて近付いた。
「え?」
パチンッ!
ポカンとしてシェリーを眺めるエラの目の前でシェリーがクラークの頬を叩く。
「ええ!?」
思わず驚きの声を上げたエラ。
「エラちゃんを泣かせるなんて、どういう事なの!?」
クラークの胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄るシェリーは真剣に怒っているようだが、クラークはニコニコと微笑んでいた。
私とお父様がホーツマン公爵家にとって「客」なのかどうかはわからないけれど、所謂「客人」の前で公爵様の頬を叩く夫人って!?
それにどうして閣下は嬉しそうなの!?
「あの!私が泣いているのは閣下のせいではありません!」
エラが慌てて言うと、シェリーは目をパチパチと瞬かせてエラの方を見る。
「…そうなの?クラーク」
「そうだね」
微笑んで頷く。
「……」
シェリーは視線を上に向けて少し考えた後、おもむろにクラークの手を掴むと、その手で自分の頬をペチンと叩かせた。
「!?」
エラは瞠目してクラークとシェリーを見つめる。
「これで相殺されないかしら?」
首を傾げてクラークを見上げると、クラークはガバリッとシェリーを抱きしめた。
「キスしてくれたら相殺」
「あらクラーク、お客様の前よ?後で、ね?」
クラークの肩へ片手を置き、シェリーはもう片方の手でクラークの頬をするりと撫でる。
…ええと。
閣下が「妻はあまり社交に向いていない」と仰られていたから、それは内向的な性格故なのかと思っていたけれど…どうやら違うようね。
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